32.魔術でぽん
巡りの物は、ほんの数日で終わる。山、というか一番しんどい時期を越えると、結構大丈夫なものらしい。とは言え俺の症状はまあまあ軽めのものらしく、重い人は数日起き上がれないんだとか。
でまあ、ありがたく終了した頃を見計らって俺とラセンさんは、自分の伝書蛇連れて久しぶりに外出していた。と言っても風呂屋じゃなくて、街の外れにある草原というか空き地にだ。ここは馬を運動させたり傭兵さんたちが剣の練習をしたりする、修行場といったところか。
「水の滴」
精神を軽く集中させて、手のひらの上に水をイメージする。しずく、とは言ったけれどそんなに小さいものじゃなくて、手のひらにぽよんと乗るくらいの……ああうん、まんじゅうくらいの水。
そのイメージと同じくらいの玉、というかイメージしたまんまのまんじゅう型の水がぽよんと出現する。ゆらゆら、と揺れながらも形が崩れないのは、これが魔力で作り上げたものだからだ。もちろん、普通の水みたいにばっしゃんとやることもできる。
「うんそう、うまいうまい」
ぽよぽよと揺れる水まんじゅうを見て、ラセンさんが楽しそうにうんうんと頷いてくれた。「いいわよ」と言ってくれたので、まんじゅう型を解除。した瞬間水は、ばしゃんと普通にコップひっくり返した時のように地面へと溢れ落ちた。
「炎、水、風、土、光、闇。六属性オールマイティで使えるなんて、教えがいあるわあ」
「あはは、ありがとうございますー」
『まますごーい』
マジで楽しそうなラセンさんの笑顔に、俺はひとまずお礼を言うしかなかった。後肩の上にいるタケダくん、落ち着け。
えーまー、要するにチートというやつだな、うん。何でも、魔術師はさっきラセンさんが挙げた炎、水、風、土と光、闇っていう六つの中から、一つの属性をメインで使うものらしい。得意と不得意があるんだそうだ。
「うちみたいな家中ひっくるめてチートな連中はともかく、誰にでも得意分野ってあるでしょ?」
「あ、なるほど」
ラセンさんのお家は家系が家系なこともあり、得意以外の属性でも普通以上には使えるとのこと。そんなわけで、どの属性でも教えたら覚える俺みたいな奴には教えがいがあるし、楽しいらしい。
あ、いわゆる回復魔術はまた別口。それも、せいぜい傷口を縫い合わせるように塞ぐことしかできないんだと。だからこの世界、お医者さんはちゃんと頑張ってるようだ。
ただし、診察には魔術を使うんだって言ってた。あっちでいうところのCTだのMRIだのエコーだの、そこら辺の代わりを光と闇の魔術の応用でやるんだとか。どんなだよ。
「しっかし、俺そんなすごいんですか? 比較対象がラセンさんなんで、どうも実感が」
「うっかりすると、私越えられちゃうかもしれないわ。それはそれで楽しみだけど」
「はあ?」
「しゃー」
「ほら、カンダくんもそう言ってるわよ」
ほんとかよ? 俺はタケダくん以外の蛇の言葉は分からないから、ラセンさんが嘘ついてても分からないっつーの。
けど、ラセンさん超えって。いや、実戦で見たのはこっち来てすぐのあれくらいだから何だけど……魔術家系の娘さん超えるって、できるんだろうか。
「タケダくんゲットしちゃった時点で素質すごそうだな、って思ったんだけどね。ほんと、呆れるわ」
「はあ」
『ぼくのままだもん、すごいもん』
うん、だから『普通の魔術師』という比較対象知らないから呆れるも何もないっての。タケダくんについては、お前俺しか見てないだろと突っ込むしかない。
で、ラセンさんには俺について疑問があるようだ。俺について、というよりは俺のいた世界について、か。
「イメージを作るのもうまいのよねえ。ほんとにあなたの世界、魔術ってなかったの?」
「なかったですよ。現実には」
まあ、世界のどっかにはもしかしたらあったのかもしれないけれど。俺の知る範囲ではなかったから、そう答えるしかない。
さっきやったみたいに、魔術の発動にはそれなりにイメージする必要がある。慣れると無意識に作っちまうらしいからいいんだけれど、慣れるまではな。
なんだが、そのイメージ作るのが俺は早いらしい。あーまあ、これってアニメやラノベやTVゲームのおかげだろうな、と思う。うん。
「現実?」
「あーほら、こっちでも物語とかお伽話とかあるじゃないですか。あっちはそういうのが色々発達してまして」
んでも、ラノベというか小説はともかく、アニメやTVゲームの説明するとそれだけで恐ろしい時間がかかりそうというか、違うところにラセンさんの興味が走ってしまいそうなのでかなり大雑把に説明をする。つーか、テレビないんだからどう説明すりゃいいんだよ。幻とかそういうのとは、また違うだろ。
「んで、そういう物語の中にかなりの割合で魔術とか剣とか出てくるんです。だから、実際になくても割と馴染み深いっていうか」
「そうかー。物語を読んでたくさん想像していたから、頭の中にイメージとしてあったのね、そりゃいいわ」
それで納得してくれるのは助かった。ぶっちゃけ俺も、ゲームに出てくる魔術のイメージ使って作ってるから嘘は言ってないもんな。
「と言っても。『異邦人』がみんながみんなそういうわけでもないのよね?」
「あー、そうですね。けど、俺くらいだと結構馴染みはあると思いますよ」
ソシャゲとかで属性出てくる奴なんて山ほどあるし。
でも、俺がそう答えた途端ラセンさんが、ちょっと考え込むような表情になったのは何故だろう。
「……そっか。ありがとうね、教えてくれて」
軽く頭を振ってこっちを見たラセンさんの顔は、普通に楽しそうな笑顔だったんだけど。
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