24.素質って

 部屋に戻って、ばたんとベッドに倒れ込む。あ、布団干してあったのかな。いい匂いがする。

 しかし、そんな状況で俺の口から漏れた言葉は、これだった。


「つーかーれーたー」


 慣れない身体での肉体労働は、大変にしんどいものである。てか、男の時と同じように頑張ったら駄目じゃねえか。身体の作りとか筋肉とか違うんだから。


『まま、だいじょぶ?』


「あーいや、大丈夫だから」


 寝床にちゃっかり収まったタケダくんの言葉に、慌てて身体を起こす。いかんいかん、バテてる場合じゃねえ。せめて着替えて寝ねえと、ってパジャマどこにあったっけ。マリカさんとラセンさんが面白がって買ってくれたひらひらのやつ。

 タンスの中から一番地味なのを引っ張り出してから、ふとタケダくんへの返事の続きを口にした。というより、俺自身の決心というべきかね。


「これからもっと疲れる生活になるんだから、このくらい慣れないとな」


『そうなの?』


「そうなの。あとタケダくん、お前さんにもちょっとは厳しくいかないとな」


『えー』


 えー、じゃねえ。ペットだろうが使い魔だろうが、飼い主というか主というかになったんだからしつけは俺の責任だ。


「そういうわけで、俺を変な目で見られたくなかったらもうちょっと行儀よくしようぜ。おばちゃんに怒られたくないだろ」


『……はーい』


 とりあえず、言ってる方向が微妙に間違ってると思わなくもないが納得はしてくれたようだ。つか、あれはおばちゃんに言われた通り、魔力渡した俺も責任あるしなあ。

 いい加減着替えて寝るか、とベッドから降りかけた時、ドアがノックされた。こんこんこん、三回叩くのが正式なのかな。


「ジョウさん、起きてる?」


「ラセンさん?」


 ありゃま。何か用事かね。


「タケダくんと食堂のこと、隊長がちょっと事情を聞きたいって」


「あ、はい」


 ……カイルさんから呼び出し、ってことか。また怒られるかな、主に食堂破壊。あきらめて、タケダくん連れて行こう。いや、別に何かあった時にぶっ放してもらうためじゃないからな?




 今朝も来た、隊長室。「失礼します」と恐る恐る入って行くと、カイルさんは朝とまるで変わらない姿で出迎えてくれた。何となく汗臭いなあ、というのが分かる。

 ……もしかしてこの人、一日中走り回ったりしてたかな。黒の神の信者連中、ちまちま面倒起こしているらしいし。


「ラセンとマリカから、話は聞いたよ。アルビノの伝書蛇とはね」


「レア物だとは聞きましたけど」


「俺が見たことあるのは、この子が二匹目だな」


「しゃー」


 何か息吐いたタケダくんを軽く手で抑えつつ、まっすぐカイルさんと向かい合う。彼が見た二匹目って、多いんだか少ないんだか分からない。ラセンさんのカンダくんは色が違うからカウントに入ってないとして、だ。

 で。タケダくんと会った時のことやら食堂でのドタバタやらをいろいろ聞かれて、カイルさんは十分に顔をひきつらせていた。どういう意味で引きつってたのかは知らないけど。


「アルビノに懐かれて、いきなりコンビネ成功させて、さらに二度めねえ」


「ここまで分かりやすい素質で、助かりました」


 ラセンさんが、カイルさんとは反対にすっごく楽しそうな顔をしている。カイルさんは何もかも諦めたように肩を落として、それから俺に向き直った。


「ともかく、伝書蛇が懐いたということはジョウ、君には魔術師の素質がある。それも、かなり強力な」


「おかげで、その手のお店で色々買物するはめになりましたよ」


「だろうなあ。ラセン?」


「だって、確実に必要になりますもの」


 カイルさんの視線を受けてラセンさんは、満面の笑みを浮かべてみせた。

 うわ、ものすごく楽しそう、というか楽しい顔だ。ラセンさん、魔術師仲間ができて嬉しいとかそういうことなんだろうか。

 だって傭兵の皆、ムラクモとかも含めて見事に戦士系というか武器使うタイプだし。

 その証拠にカイルさんは、俺にこう言ってくれたからな。


「ラセンは魔術師としてはかなりの実力者だから、彼女に基礎を教わるといい。そのうち、自分で方向性を見極めていくことができるはずだしな」


「あー、そういうものなんですか」


「そういうもんだ」


 まあ、素質あるんならそれを伸ばせばいいよな。ゲームでもそうだけど、魔術師にでっかい剣は……いや最近はそうでもないけど、それでも専門職に任せたほうがいいだろ、うん。

 少なくとも今の俺、剣振り回して反動でずっこける可能性のほうが高いしな。鍛えたら大丈夫なんだろうけど、多分魔術覚えるほうが強くなるのは早い、と思う。

 という俺の考えとはちょっと違ってたのが、カイルさんのご意見。


「魔術師として一定レベルに達すれば、就職は引く手あまただ。領主家の専属魔術師や家庭教師、この近辺にはないが王都には魔術学院もあるからな。そちらの教師として働くということもできる」


「はあ」


 この人、俺がずっとここにいること望んでないのかね。まあ、昨日会ったばかりの小娘ただし外見のみだけど。

 というか金持ちの専属とか学校教師とか、割といい就職先じゃないのか?


「……とは言っても昨日の今日だ。やはり、まずは文字のマスターからだね」


「ですよねー」


 はっはっは、そりゃそうだ。

 魔術はすごくても、文字読めなきゃなあ。魔術書とかも、本なんだから当然文字書いてあるわけだし。教師とかなんて、ほぼ確実に文字の読み書きできなきゃ無理だろうよ。

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