22.おしおき

 飯食ってるうちに、食堂にいる傭兵さんたちの顔ぶれが入れ替わる。白黒コンビは「これからパトロールだから」と言って、先に出て行った。そりゃ、酒飲めないか。その辺は、コクヨウさんも真面目なんだなと思う。


「ジョウさん、ご飯中だったんですか」


「おや、彼女が例の? ここ、失礼するよ」


「あ、どうぞ」


 代わりに俺のそばの席についたのはタクトと、それからアラサーに引っかかるくらいの何気に優男。他の人が基本的に短髪なので、この人の赤っぽいロン毛はハクヨウさんと違う意味で目立つ。白と赤でおめでたい……のはこっちじゃないかな。


「そっか、ジョウさんとは顔合わせてなかったっけ。グレンさんです。俺の剣の師匠なんですよ」


「師匠ってほど教えちゃいないだろうが。昨夜は外回りの片付け担当だったんでね、お前さんとは今が初めてか。まあ、よろしく頼むよ」


「あ、はい。スメラギ・ジョウです。よろしく」


 とりあえず、頭を下げる。ハクヨウで、コクヨウで、グレンか。髪の色と対応した名前は分かりやすくて助かる。いや、こっちで色の名前かどうかは別にして、だ。

 それとグレンさん、俺ににっこり微笑まれても困るからな? 俺、中身男ですから。いくらイケメンでも男に惚れる趣味はない。少なくとも、今のところは。




 コクヨウさんたちと同じく焼肉定食をセレクトした二人は、俺の向かいに並んで腰を下ろした。タケダくんにご飯をやりながら自分ももぐもぐ食ってると、「こいつかー」とグレンさんがにやにや覗き込んでくる。俺じゃなくって、タケダくんを。


「聞いたぞ。いきなりコンビネがうまくいったんだって?」


「コンビネ? ですか?」


 いきなり聞いたことのない単語持ち出されて、分かるかってーの。とは口に出して言えないので目を丸くしてると、グレンさんは人参のグラッセを一つ口に放り込みつつ呆れ顔をした。あ、ちゃんと自分で食べるんだ。


「何だ、ラセンはまだ説明してなかったのか」


「ラセンさんですからねー」


 ……ってことは、魔術関係か。ラセンさんですからってタクト、お前彼女をどういう扱いしてるんだか。

 しかし、俺が魔術関係って……あ。

 タケダくんの、口からビームのこと?


「使い魔に自分の魔力渡して、代わりに魔術攻撃してもらうのがコンビネ。コンビネーションの略な」


「はあ」


 グレンさんのざっとした説明に、やはりそうだと理解できた。口からビーム撃つ前、タケダくんは俺に魔力をくれ、と言ってきたんだから。


「魔術師は自分でも魔術攻撃ができるんだが、使い魔を挟むことで戦術の幅が広がる。自分と使い魔で時間差攻撃とか挟み撃ちとかできるからな、結構便利なんだ」


「自分で炎、使い魔で風と別属性の魔術を使うこともできるそうなんです。魔術師が複数いればそちらの方が威力は高いんですが、何しろ使い魔とだったら声出さなくても意思の疎通ができますから」


「……ああ、なるほど」


 そりゃ、確かに便利だ。使い魔って偵察してもらうとか、伝書蛇って名前なだけあって手紙届けてもらったりするとかいう仕事があるのは分かるけど、そういった利用方法もあるんだな。

 しかし、グレンさんもタクトもよく知ってるなあ。この世界では、そういう知識は必須科目なのかな。少なくとも、傭兵の中では。

 だって、ラセンさんと一緒に仕事するんだから。ラセンさんができることは把握しとかないと、なあ。

 そんなことを考えてたら、「安心しろ」とグレンさんに肩を叩かれた。力入れてないつもりだろうけど、俺がくんと姿勢崩すくらいには強かったぞ、ちくしょう。


「来たばっかりのお嬢ちゃんと生まれたばっかりの蛇に、無茶をやらせるつもりはねえ。安心して勉強しな」


「そうですよ。ジョウさんはここでゆっくりしていってください」


「あ、はは……ど、どうも」


 何かえらく好意的なので、俺としてはちょっと困った顔をしてみる。いや、普通に友人として扱ってくれるならいいけど、そうもいかないだろ。


「おいおいタクト坊にグレン、可愛いお嬢ちゃんが来たからって鼻の下伸ばしてんじゃねえぞ?」


「そうそう。隊長に目をかけられてるからってなあ」


 ………………。

 何でさ、こういうとこにこういう面白くないおっさんたちがいるかねえ。てか、この食堂にいるなら同じ部隊の仲間だろうし。


「ははあ、昨夜留守番頼まれたのがそんなに面白くなかったと?」


「ですよねー。僕まで出撃できたのに」


「んだコラ、やるってのかあ!?」


 これまた分かりやすい理由だな。というか、やっぱり血の気多いんだな、傭兵って。

 で、取っ組み合いが始まった。グレンさん&タクト対昨日お留守番だったらしいどう見ても脳筋連中、三名。元チンピラなのかね、ああいうセリフとか出てくるところ見ると。

 食事はほとんど終わってたんで、とりあえずタケダくんを手にすくって避難しようとした。んだが、俺はともかくこの子蛇はやる気らしい。


『まま、まりょくちょーだい』


「……お前なあ」


『ままにへんなこといった。おしおき』


 いや待てタケダくん、何だそりゃ。お前、生後半日でマザコンとか言うなよ?

 ……あと、マザコンという言葉をすんなり出してくる俺の脳みそ、しっかりしろ。


『まま、おねがい』


「あーもー……食堂壊れるのも何だし、無茶すんなよ」


 とは言えまあ、タケダくんのリクエストに応じて、魔力を渡す。お昼よりはスムーズに渡せたかな、と思う。まあ、二度めだし。

 小さな白蛇は背中の翼を精一杯に広げ、そうして。


「しゃあああああああああ!」


 今度はビームというよりは、光のシャワーだった。取っ組み合いしてる連中に無差別に降り注いだ光は、ばちばちと火花を散らした。って、いわゆる雷属性ってやつか、これ。


『まま』


「ん?」


『ぼく、はやくおっきくなって、もっとちゃんとおしおきできるようになるね』


「……いや、今でも十分お仕置きになってるから」


 感電してひっくり返ってる五名を背景に、えっへんと嬉しそうなタケダくん。いやほんと、十分強いから。

 でさ。こいつら、どうしよう?

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