21.のほほんと夕食
荷物置いて落ち着いた後、そういえば昼食ってなくて腹減ったなあと気がついたので、早めの晩御飯を食べに行くことにした。文字は読めないけど、おすすめを頼めばいいかなと思ったから。
タケダくんを肩に載せ、彼用の食事も一緒に持っていく。このちっこい蛇は、肩の上でぱたぱたと楽しそうに羽ばたいている。
『ままとごはんー』
「そうだなー」
すっかり懐いてしまったけど、こいつとは会ってまだ半日も経っちゃいないんだよな。でもまあ、何というか可愛いし、助けてもらったし、可愛いからいいか。
これは母性本能とかいうやつじゃないからな、多分。
んで食堂につくと、分かりやすい黒と白がいた。目立つんだよなあ、ハクヨウさんの髪。
「……あれ。コクヨウさん、ハクヨウさん」
「お、来たのか。飯?」
「ジョウ、こちらで食べるといい」
二人ともパトロール終わりなのか、焼いた肉多めの食事を取っている。……酒はないのかな、そういえば。いや、俺飲まないけど。
ハクヨウさんが手招きしてくれたので、その隣の空いた席にタケダくんの食事の小瓶を置いた。これ持って飯取りに行くわけにもいかないしさ。
「すいません。食事取ってくるんで、これ良いですか?」
「ん? 何だこりゃ」
「コクヨウ、彼女の肩」
瓶をつまんだコクヨウさんの腕を、ハクヨウさんがつんつんつつく。この場合の彼女って、俺のことだよな。さすがハクヨウさん、タケダくんに気がついてた。
「肩? ……おお、伝書蛇?」
「はい。タケダくんと言います」
「しゃー」
コクヨウさんも、気がついて目を丸くする。その前でタケダくんは、よろしくーとばかりに小さい羽を広げてみせた。お前、人見知りとかしないのか? アルビノは選り好みが激しいって聞いたけど。
「はは、伝書蛇の飯か。じゃあ、主の飯も早く持ってきな」
「はい、済みません」
二人に納得してもらえたところで、そのまま俺の飯を取りに行く。さて、何にしようかと考えてると、朝もお世話になった厨房のおばちゃんが声をかけてきた。近所のおばちゃんって感じで、気さくな笑顔にほっとする。
「あら、お嬢ちゃん。今晩何がいい?」
「何かお勧めあります?」
「そうねー……魚のフライ定食とかどうかね」
「あ、じゃあそれお願いします」
魚のフライか。肉よりは今の胃袋に合ってるかもしれないな。
多分わかさぎか何かに近い、小魚のフライを山と積んだ皿。横に温野菜、後クリームスープとパンの定食。
ふむ、確かに今の俺だとこのくらいの方がいいかもしれないな。今朝見た通りのお祈りをして、まずはフライを口にした。
「あ、さっぱり揚がってて美味しい」
「だろ。ここの油、良い物使ってんだぜー」
「品質が良いものの方が、案外長持ちするしな」
「そういうものなんですかね……あれ、人参甘い」
「グラッセだろ? 肉の付け合わせにもついてるし」
「コクヨウ、お前は俺に全部押し付けただろうが」
「苦手なんだよ、人参は。馬じゃあるめえし」
……鳥頭の馬でも、人参食うのか。昨夜乗せてもらった馬を思い出して、肩をすくめる。変なところが同じなんだよなあ、俺の世界とこっちの世界。食器だってスプーンだのナイフだのフォークだの、使い方もそう変わらないしさ。
『ままー』
「ん? あ、ごめん」
しまった。自分の飯より赤ん坊蛇の飯が先だろう、俺。何考えてんだ。
慌てて小瓶の蓋を開けて、付属の小さな匙で中身をすくった。ペースト状の餌は、あんまり匂いがしないけど色からして肉っぽい感じがする。大きくなったら生肉食うらしいから、これでいいのかな。
「ごめんな、待たせた。はい、あーん」
『あーん』
口元に匙を持って行くと、タケダくんはぱかっと口を開けた。蛇って、結構口大きく開くのな。
口の中に餌を落としてやって、匙を引く。口を閉じてこくん、と一息に飲み込んでしまってタケダくんは、ぱたんと翼をひとつ打った。興味津々で覗き込んでいたコクヨウさんが、ちょっと楽しそうに尋ねてくる。
「美味いか?」
『おいしい』
「美味しいって言ってます」
「そっか、よかったな」
コクヨウさんにはタケダくんの言葉は聞こえないと思うので、俺が通訳。そうしたらコクヨウさんは、にっかりと歯をむき出しにして笑った。お、真っ白。ちゃんと歯磨きしてるんだな。
ハクヨウさんはやたらに多い人参のグラッセをぱくぱくと片付けながら、それでもやっぱりちょっと嬉しそうな顔をしていた。何だろう、近所のおっちゃんに見守られるガキと拾ってきた子犬って感じだ。さすがに蛇拾ってきてまで飼う勇気は、俺にはない。拾ったようなもんだけど。
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