17.ショッピング?
さてさて。
俺がそもそも街に出てきているのは、買い物が目的である。騒動が一段落した後、ラセンさんとマリカさんは気丈にもというかお気楽にもというか、とにかくその目的を再開することにした。
「取り調べはハクヨウさんとコクヨウさんにお任せすればいいんです。特にコクヨウさん、こういった細かいお仕事しっかりやってもらわないと、またハナビさんに叱られるし」
マリカさんが、けらけら笑ってそんなことを言う。そういえばハナビさん、コクヨウさんがハクヨウさんに書類仕事とか押し付けるって言ってたなあ。
「そうそう。私たちはジョウさんと一緒にお風呂入ってお買い物行くのが今日の任務なんだから、最後まで遂行させて。ね」
ラセンさんは、俺の顔を覗き込みながらそう言ってくれた。
ああ、そういえばカイルさんが買い物行っておいでって言ってくれたんだよな。あれ、任務の命令になるのか。いやまあ、冗談みたいなものだって分かってるけどさ。
『ままと、おかいものー』
「……タケダくん。お前生まれたばっかだろう、言葉どのくらい使えるんだ……」
俺の肩の上でやたら楽しそうなタケダくんは、まあ置いておこう。
そういえば、こいつの餌とかも買わないとなあ。あとで、アキラさんのお店でも覗いてみるか。伝書蛇を扱ってるってことは、ペットショップじゃないけど餌とか必要な物は置いてあるだろうし。
「後で、タケダくんに必要な物も欲しいんだけど、いいかな?」
「ああ、それはもちろん」
「面倒見なくちゃ、ねー」
ラセンさんとマリカさんは顔を見合わせて、楽しそうに笑った。……しかし何で、何か企んでいるような顔に見えるんだろうな。
そして。
「こっちの方が似合いますよー」
「えー? こっちの方が絶対良いって。素材もだけど、魔力の通りもいいよー」
「ひゃひゃひゃ、好きなのを選ぶがええわさ。今日は大儲けだねえ」
ただいま俺がいるのは『子猫の道具箱』、すなわちアキラさんのお店である。俺が魔術師の才能があるっぽいということで、タケダくんのものもまとめて買ってしまえということらしい。
まあ、こういう世界だとあんまり服とか買わない、んだろうか。向こうで言う服屋さんみたいなのは、ほとんど見かけなかった。あったとしても、値札の読めない俺でも驚くくらい高そうな服しか置いてないとか。
流通の拠点ということは、よそから高価なものも色々入ってくるということで。表通りにあるのは、それを買いに来るお金持ち目当ての店ばかりらしい。
「ねえジョウさん、こちらの赤いのどうかしら?」
「マリカ、派手なの好きねー。ジョウさん、クリームとブラックのバイカラーとかどうよ」
なお、マリカさんとラセンさんが競って俺の胸に当ててくるのは魔術師用ローブ、とかいうやつである。生地が魔力の通りやすいもので、自分の魔力を使って防御力に変えることができるとか何とか。
傭兵の皆と違って身体鍛えてるわけでもなし、こういった専門的なお店で売ってる服のほうが魔術師にはいいんだそうだ。まあ、ゲームとかで大雑把な知識だけはあるから分かるけど。
「……お、俺よく分からないから任せるよ。せめて、着心地のいいやつで」
「ああ、それは重要ね」
「確かに。後、洗濯に耐えるやつですよね」
俺の最低限の注文に、二人は同時にこっくりと頷いた。まあ、やることはあんまり変わらないんだけど。
元の世界でも、あんまり服装を考えることはなかった。学校行くときは制服があって問題なかったし、私服だって適当に組み合わせて困ることはなかったからな。
つーか、女の子ってほんと服に凝るのな。正直良く分からん、これが本音だ。そのうち俺も、あの二人と同じように色柄考えながらキャッキャ言うようになるんだろうか?
「……あー、無理だそりゃ」
『まま、だいじょぶ?』
「……何とか」
生まれたばっかりの蛇に気を使わせてしまった。ちろちろと見える舌はちょい気持ち悪いけど、これはまあ蛇なのでしょうがないしな。
と、そうだ。さすがに生まれてすぐ、じゃなくても蛇には冬は厳しいよな。何か買ってやらないと。
「あ、済みません。伝書蛇用のグッズ欲しいんですが」
「おお、そうじゃのー。伝書蛇関係はこっちじゃ、ええの選んでたもれよ?」
アキラさんに尋ねると、嬉しそうに前に立って案内してくれた。割と広いお店の、ちょっと奥まったところが伝書蛇やその他使い魔コーナーになっているようだ。檻の中にふくろうとか、猫とかいるもんな。
「蛇だけじゃないんですね、使い魔って」
「まあなあ。現在は禁止されとるが、昔は人間を使うとったこともあるらしいぞえ」
「え」
動物なら何でもありかい。というか、禁止されているのか。
「黒の神の信者どもが、それ目当てで大規模な人狩りをやらかしおっての。まともな魔術師はそこで自らに禁を科したんじゃよ」
「……それ、使い魔じゃなくて奴隷って言いませんか……」
「さほど変わらんの。お嬢ちゃんのその蛇も、傍から見ればそうかも知れんぞえ」
『ぶー。ぼく、ままのぼくだもん』
アキラさんの言葉は理解できるらしく、タケダくんがちょっとすねた声をあげた。とは言えこいつは、刷り込みみたいなもんだしなあ。
「この子には、無茶させたくないです」
「そう思うてくれるだけで十分じゃろ。ほれ、寝床や冬用の
俺の言葉に、アキラさんはニンマリと目を細めた。その彼女が指差す先には、いかにもファンシーな動物用ベッドやら湯たんぽやらが並んでいる。
できればシンプルなものがいいんだけどなー。タケダくんの好み、分からないからなあ。……分からないなら、聞けばいいか。
「タケダくん。寝床、好きなの選んでいいよ?」
『ぼく、あのかっちりふわふわがいい』
そう言って小さな蛇が首を伸ばしたのは、蔓か何かで編まれた籠の中にふかふかのクッションが収まってるやつだった。あーよかった、ふりふりひらひらとか選ばれたらどうしようと思ったよ。
「……ぼく、って言ってることはオスかな」
「伝書蛇に性別はないぞえ。ちょいと特殊な進化をした種類での、単性生殖じゃ」
ぽふぽふ、とクッションの柔らかさを確かめながら俺が呟いた言葉に、アキラさんがずばりと答えてくれた。それから、もう一言。
「ただ、主と逆の性別に近い言動になるがの」
……そういえば俺、この世界では女なのが正常なんだっけ。はあ。
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