15.白い蛇は多分吉兆

「ジョウさんっ!」


「え?」


 タクトの声に、俺は箱を抱えたまま振り返る。と、コウジがタクトの攻撃を振りきって俺に突っ込んでこようとしているところだった。ここはガラクタに感謝、足場が悪いせいで相手の速度が遅い。

 箱の中から蛇が顔を出して、小さな羽広げてコウジを威嚇した。おお、羽も真っ白で綺麗だな。


「しゃあ!」


「てめえ! 高いアルビノを!」


 あ、高いのかこいつ。アルビノって、どこかで聞いたことあったけれどと一瞬考えて、何か白いやつだど思い出した。よく分からないが、白いと高いんだろうか。珍しいからかもしれないが。

 ともかく、ガラクタを乗り越えてきたコウジを避けるべく俺は、横に移動を開始する。かばんの置いてある木箱の後ろに回り、ぐるっと迂回。ここに卵があることが分かっているから、コウジはうかつに突っ込んでこられない。


「そこまでだあ!」


 と、そのへんで追い付いてきたタクトが、思いっきり後ろからコウジに飛び蹴りを叩き込んだ。さすがに泥棒程度でずんばらりん、は控えたいようだ。この後、事情聴取もあるだろうしな。


「邪魔すんじゃねえよ、傭兵風情が!」


「悪いかこそ泥が! 黒の影響なんか受けやがって!」


 二人もつれて、ガラクタの中に突っ込む。そのまま取っ組み合いを始めたおかげで、こちらから気がそれて助かった。蛇、大丈夫かな。

 そう思って覗いてみた、その時。


『まま』


「は?」


 この白い蛇は、唐突にそんなことを、確実に俺に向けて呼んだ。

 いや、いくら何でも目の前で声出して呼ばれたら分かるだろ? そういう感じ。それも、このちんちくりんが呼んだって俺にははっきりと理解できて。

 というか、ママか。刷り込みか。蛇でもそういうことあるのか。

 いや、俺身体女だけど『ママ』か……さすがに、生まれたばっかりの相手に文句のつけようもない。蛇だけど。

 俺のそんな考えをよそに蛇は、小さな羽をぱたぱたさせながら言葉を続けた。その言葉が、俺以外に聞こえるのかどうかは分からない。……多分、聞こえていない気がするが。


『まま、まりょくちょーだい』


「まりょく? って、魔力?」


 んな馬鹿な、と思いながらも聞き返してみる。蛇は小さい全身でおもいっきり頷いて、それから繰り返した。


『ちょーだい』


 ものすごく欲しがっている、ように思える。もしかして、この手の蛇は魔力を食事にしてたりするのか。

 そういえば、伝書蛇は使い魔でもあったんだっけ。そうなると、魔力が必要なのはまあ特撮やらアニメやら何やらで見ているからそれなりに分かるけど。


「たかが傭兵ごときが、俺に敵うわけねえんだよ!」


「黙れ! がっ!」


 不意に聞こえたタクトの悲鳴じみた声に、思わず顔を上げた。あ、やばい。コウジに馬乗りになられてる。俺が助けに行ったところで無茶なのは目に見えてるけど。


『まま。おてつだいするから、まりょくちょーだい』


 蛇がそう言うのに、俺は慌てて蛇に向き直る。こいつはもしかして、俺に力を貸してくれるのか。使い魔なら確かに、そうかもしれないけれど。

 で。根本的な問題として、俺はどうやればお前に魔力を分けてやれるんだ?


「……どうやればいいんだ?」


『あのね。うーんってちからこめて』


 何だ、そりゃ。もしかして、本気でよくあるパターンの何とか波とかカントカ拳とかみたいにすればいいのか。

 とは言っても、リアルでそんなものをぶちかました経験はない。ここはひとつ、見よう見まねでやってみるしかないか。


「……こ、こうか、な」


 手のひらに、何かの気を集めるように念じる。しばらく目を閉じていると、だんだん手のひらが熱くなってくるような気がした。気のせいかもしれないけれど、でも手の中の箱、その中で蛇は嬉しそうに、ぱたぱた羽ばたいている。


『わーい、ままのまりょくもらったー』


 これでいいのかよ。マジか。

 ともかくOKらしいので、改めてタクトとコウジの方に向き直る。援軍早く来ないから、ややこしいことになるんだぞ、ちくしょう。

 で、蛇はタクトたちの方を見て、羽を広げた。小さいから可愛いけれど、これがカンダくんみたいなサイズだと迫力あるだろうな、と思う。

 その時。


「しゃああああああ!」


 激しい息を吐く音と共に、口から光線というかビームというか、ともかく細い光を吐き出した。蛇が。

 そのビームは、光に反応して振り返ったコウジの肩口に命中。細いのに威力は抜群だったらしく、ヤツをタクトの上から弾き飛ばしたついでにこの場を囲んでいる建物の壁に叩きつけた。


『ままー、ぼくがんばったよー』


「……あ、ああ、ありがと、な」


 ぽかーんとしつつ起き上がるタクトを尻目に、俺は上機嫌な蛇の頭を撫でるだけで精一杯だった。何だろうな、これ。

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