第10話 作戦開始

 そんなこんなでユナの謎の不機嫌に困惑しながら数日間過ごしていたところで、諜報部から情報が戻ってきた。


 ユナから報告書を受け取った俺の口から漏れた言葉は。


「やっぱりか……」


 それに尽きる。


 現在反乱軍が占領した地域には複数人のレジスタンスが紛れ込んでおり、彼らが敵基地の破壊工作を行ったり、諜報部と連携して外の情報を王都内に持ち込んでくれている。


 そんな彼らの情報によると、直轄領を包囲する反乱軍の兵士たちに大規模な配置転換があったようだ。


 朝食を取りながらコーヒー片手に一人悦に浸る俺だったが、そんな俺に相変わらず無愛想なユナが話しかけてくる。


「商用馬車の調達が完了いたしました。大小合わせて200の馬車が現在軍部の駐車場……だけでは収まらずデリダ城の庭に駐車しております。彼らによるとすぐにでも行動が開始できるそうです」

「おおっ!! 200も集まったかっ!! それだけあれば十分に足りる」

「で、兵士の移動についてですが、そろそろ始めなければ作戦開始には間に合いませんが……」

「あぁ……兵士の移動は必要ない。馬車にできる限りの大砲や小銃を詰め込んで、すぐにミルドに移動させて荷物を下ろしたら、そのまますっからかんのままカメード方面に移動するように伝えろ」

「はあ? ミルドの兵士をカメード攻略のために移動させるのではなかったのですか?」

「いや、だからカメードは攻めないって言っただろ?」

「ですが、閣下は皇帝陛下にそのように言っていたじゃないですか?」


 ユナは首を傾げながら苛立ちを露わにしている。


 あ、これはそろそろちゃんと説明してあげないと、またユナちゃんが激怒りモードに入ってしまう。


 そのことを察した俺は彼女に作戦の全容を話してあげることにした。


※ ※ ※


 ルークたちが作戦を開始して数日が経った頃、ミルドに隣接した反乱軍駐屯地には10000人を越える兵士たちが集まっていた。


 普段は精々数百名程度しか出入りをしない狭い駐屯地に10000もの兵士が一気に押し寄せたとなると、駐屯地も大変である。


 当然ながら10000人の兵士たちは皆人間であるため、一日に三回食事を取る必要があり、寝床も必要である。


 その他にも風呂に入ったり、トイレに行ったりと10000人もの人間の衣食住を現地の兵士たちで準備することは不可能であり、街から多数の民間人を徴用して彼らの世話に当てさせてなんとか事なきを得ているのが現状だ。


 はっきり言って無謀だと少将は思う。


 が、その無謀を押し通してでも彼には今回の作戦に乗るだけの価値を見いだした。


 なにせミルドを通過することができれば兵を一気に王都のすぐそばまで移動させることができるからである。


 ミルドの村々は谷に存在しているため、この地を不用意に通過しようとすれば山に挟まれ集中砲火を食らう可能性が極めて高い。


 現に帝国陸軍はミルドの山々に重魔器を設置しており、ミルドを反乱軍が通過せぬよう目を光らせている。


 わざわざ地の利が向こうにある土地を攻めて帝都を目指す理由は、本来反乱軍には存在しないのだ。


 おそらく帝国側も反乱軍がこの地を攻めてこないだろうと高を括っている。


 だからこそ今回少将が手に入れた情報はこの無謀な作戦を実行させるに十分な動機となった。


 彼が手に入れたのはミルデシア帝国の大臣級の文官複数人からのタレコミである。


 彼らは異口同音に帝国陸軍がカメードへの奇襲作戦を策略しているという情報を反乱軍に流してきた。


 そして、ミルドの兵士の大部分をカメード方面の応援に回すという情報も。


 現にミルドからカメード方面に複数の馬車が移動しているという情報も入っており、極めて確度の高い情報であるというのが反乱軍の結論である。


 今現在、ミルドの防衛は手薄になっている。


 偵察隊からもミルドの山々がこの数日間静まりかえっているという情報も入っており、反乱軍にとってはこの上ないチャンスである。


 地形的に反乱軍に不利であるというのはあくまで相手が十分な兵士を配備しているという前提があって初めて成り立つ。


 相手がカメードの戦線にミルドの兵士をまわした今、ミルドを一気に通過して帝都に侵攻するチャンスである。


「機は熟した」


 駐屯所を出発しぞろぞろと帝都への行進を続ける兵士たちを最後尾で眺めながら少将は内心ほくそ笑む。


 大手柄のチャンスである。


 現在反乱軍は帝国軍の必死の抵抗に手をこまねいているのが現状である。戦力差こそ反乱軍が大きく上回ってはいるが、塹壕戦では一週間を掛けて数メートル戦線を進めるのがやっとの現状で、帝都付近の山々は帝国軍が取っている状態だ。


 負けることは決してないが、帝都を陥落させるには時間を要する。


 そんな状態を一気に打破して帝国を瓦解させるチャンスが目の前にある。


 反乱軍はあくまで数多ある領の集合体である。帝国が崩壊した後の新たな国でイニシアティヴを掴むためにも少将には大きな手柄が欲しかった。


 少将は足下に転がっているチャンスを拾い上げるだけで良いのだ。


「ただ大手を振って帝都に歩くだけで良い」


 少将は頬が緩むのを禁じ得なかった。

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