やっと見つけた武器

 大町に着いて、ブナは先に小教会に帰った。

 教会の扉を開けると、目の前には正座をしたシスターがいた。


「……た……ただいま」

「……」


 シスターは何も言わない。

 いつもの仏頂面で鎮座している。

 もしかしたら、息をしていないんじゃないか、と錯覚するくらいに何も言ってくれないのだ。


 ブナは目の前に座り、膝の上に乗せた手の甲をつついた。


「シスター。ごめん」

「……」

「ごめんってば。口を利いてよ」


 体を揺さぶると、ぎこちなく唇が動く。


?」


 シスターが視線を向けた先には、入口の前で腕を組むレイアが立っていた。何やら、片眉を釣り上げて、シスターを睨みつけている。


「あ、ああ。この人は重装歩兵のレイアさん」

「……重装……」


 シスターの顔が少しだけ持ちあがり、首を傾げる。

 やはり、恰好が気になるのだろう。

 シスターは何も言わずにブナの体を引き寄せて、目元を手で隠した。


「え、なに?」

「何とハレンチな」

「失礼だね。好きでこんな格好してないよ。……半分くらいは」


 動きやすさ重視で、ラフな格好は好きだ。

 けれど、外套くらいは羽織りたい彼女にとって、さすがに人が多い大町の中をビキニアーマーで歩くのは、少々気まずかった。


「今日はどういったご用件で?」

「町にあたしの武器が落ちてきたって聞いたから」

「……あぁ。斧ですね」


 胸元のブナを見下ろすと、シスターは頬をぐにっと摘まんだ。


「う……」

「わたしは、この方を案内するので。ブナは教会でお留守番です。勝手にいなくならないでくださいね」

「うん」


 ブナは立ち上がると、長椅子のある方に移動した。

 リュックを下ろし、帰ってくる途中で拾ったキノコや木の実を椅子の上に置き、皿を取りに裏の小屋へ走っていく。


 少年がいなくなってから、シスターはようやく立ち上がった。


「では、行きましょうか」


 ぎこちない足取りで、シスターは歩き出した。

 門を潜る際、レイアは門扉もんぴを支えてやり、静かに先を行くシスターの背中を見つめた。


 *


 大町の中を歩くと、あまりにも大きいレイアの姿は、注目の的だった。

 隣に並ぶと、シスターの頭はちょうど肘の辺り。

 前を向いたまま、彼女は大町の中央にある斧に案内する。


 場所を聞けば、レイアは大体の位置を把握できる。

 案内してもらうのは、さっさと斧を回収したいからだ。

 注目されるのもそうだが、さっさと最後の仕上げを済ませたいからこそ、悠長に構えてられない。


「久しぶりですね。3年ぶりですか」

「まあね。アンタも変わってないじゃない」

「ええ。わたしは変わりませんよ」


 二人は知り合いだった。


「あたしが子供の時から、何一つ変わっちゃいない。ここが攻められないのも、アンタのおかげだろう?」

「どうでしょう」


 レイアがまだ幼い頃、大町にエペアぺがやってきた。

 今と寸分違わぬ見た目で、年老いる事もなく、町の人々に接してきたのだ。


「少しずつですが、ナイトと呼ばれる使族が町の近くに来ています。きっと、わたしに揺さぶりをかけるためでしょうね」


 ナイトと聞いて、おおよその位置を頭に浮かべる。

 ナイトの軍勢が展開されているのは、大町の東側だ。

 使族たちの拠点がある場所で、確実に町との距離を詰めているのが現状だ。


 大町の中央に辿り着くと、斧の周りにある囲いには、町の住人が集まっていた。目立ちやすく、分かりやすいスポットなので、待ち合わせ場所と化しているのだ。


「レイア。一つお願いが」

「ん?」

「先に、ナイト達を殺してきてくれませんか?」


 囲いの周りにいる住人に向かって、「どけ」と手をひらつかせると、レイアは斜めに傾いた斧の長い柄を握りしめる。


「言われるまでもなく――」


 レイアが片腕に力を込めた途端、彼女の二の腕は倍に膨れ上がる。

 斧が持ち上がる直前、周囲には小さな振動が地面に伝わった。


「……全部片づけてやるよ」


 斧の名前は、ハルバードという武器だ。

 レイアと同等の長さをした鋼鉄の棒部分――長柄があり、先端には円盤型の大きな斧がついていた。


 斧の面は黒を基調として、赤いラインが血管のように、あちこちへ伸びている。赤黒の隕石を素材とした武器は、かなり特殊な一品。


 二度と作れないだろう。

 甲冑を作る際の余った破片を溶かし、一つに固めたのだ。


 付着していた土がポロポロと落ち、町の男では持ち上げる事の出来なかったハルバードが、レイアの肩に担がれる。


「すっげえええええ!」

「何だァ!?」


 周りは大騒ぎだった。


「お願いします。あぁ、そうだわ。終わったら、教会に戻ってきてください。あなたが一戦交える相手の情報を提供します」

「ありがたいね。こちとら、裸一貫なもので。情報の一つでもないと、厳しいんだ」


 レイアは背を向けて、町の出口に向かっていく。

 まるで、大きな熊が二足歩行で歩いているかのようだった。

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