少年ブナ

 夜空には、星が流れた。

 星は流れ、ケルゲレ大陸の4か所に落ちた。


 一つは、大陸の西南に位置する『聖バルトナ大教会』。

 一つは、大陸の北に位置する『グレル湖』。

 一つは、大陸の南、『ザランガム塔』。

 最後の一つは、『ドムナント大町』。


 これらに含まれず、たった一つの星だけが少し下がっただけ。


 すでに大陸は支配され、誰がどう見ても詰んでいる状態だというのに、子供は関係なく遊び回る。


 大町では子供たちが鬼ごっこをしたり、かくれんぼをしたり、黄色い声を上げてはしゃいでいる。

 だが、その仲間に入らず、せっせと一人で何かを集める少年がいた。


 少年がいる場所は、かつて戦場の跡地となった場所だ。

 大町から見て、東にある場所で、さらに東へ進んでいけば、使族の住む荒廃した町が広がっている。


 ちょうど、間にあるのだ。


 跡地には錆びついた甲冑や刀剣、バリスタや大砲などが回収されずに放置されている。甲冑の中には、ムカデやら羽根虫が集っており、酷い有様だった。


 凄惨な現場だというのに、少年は気にせずに錆びついたナイフを拾い、背中に担いだ大きいリュックに一つ、一つ入れていく。


「ふぃーっ。結構集まったな」


 15歳を迎えたばかりなのに、少年ブナは手足が細く、小柄だ。

 ちんまい体格に、頭の天辺で一本に結んだちょんまげの髪型が特徴。

 顔は可愛らしいが、普段やってる事は追い剥ぎのそれと変わらない。


 革製のリュックを背負い、ブナは大町の方角に歩き出す。

 歩く度に背中からは、錆びついた金属の擦れ合う音が鳴り、何だか危なっかしかった。


(これだけあれば、パンが買える。シスターの所に戻ろう)


 跡地から大町へ歩き、間もなく鉄の柵と、鉄の門が見えた。

 外部からの侵入を拒むために、門の両側には高台に設けられたバリスタが見えた。


 使族は人間より遥かに強い。

 身体能力は高いし、生き物として備わっている力が違う。

 まさに、超常的な存在といえる。

 特筆すべきは、腕力だろう。


 鋼鉄の大砲を握り拳一つで壊してしまうのだから、よっぽどである。

 剣を振れば、剣が折れる。

 こん棒はヒビが入る。


 しかも、数が多いために、集団で掛かってこられたら一溜りもない。

 挙句の果てに、使者と呼ばれる特殊な生き物は不思議な力を使うと言われている。それこそ、超常的な力だ。

 腕力だけではなく、人知を超えた力が備わったら、鬼に金棒。


 人間が勝てるわけがなかった。


 いつ攻め入るか分からない敵にビクビクして、みんなは守りを固めているのだ。

 ブナは臆病を形にした門を横目で眺めて、迂回していく。


 町には南から入る。

 石塀いしべいがずっと向こうまで続いているのだが、途中に子供一人が通れるくらいの穴が空いている。

 ブナはこの穴の地面をさらに掘る事で、リュックを持ち運べるようにしている。


 中に入ると、町の公園に出て、ブナが入ってくる様子は木や茂みに上手く隠れていた。


 茂みの前にしゃがみ込むと、ブナはリュックを隣に置き、木の陰から公園で遊ぶ子供たちを眺める。


(……元気だなぁ)


 まだ8歳くらいの子か。

 ブナと同年代の子達は、学校に通ったり、兵士になって訓練を積んでいる。だいたい、12歳を迎える頃に、自分たちの進路を決めていた。


 ブナは遊んでいるわけでも、手に職を付けようとしているわけでもない。


 死体から盗ってきた金属をリュックに詰め込み、鍛冶屋に渡すだけ。

 溶かして再利用するらしい。

 そして、鍛冶屋に行く前に何を思うわけでもなく、子供達を眺めるのが日課。


 ベンチでは母親達が座っており、傍で遊んでいる子の面倒を見ている。

 自然と視線は母親達の方に移った。


「…………」


 母親達の顔を見た後は、自然と胸元に目が移る。

 いやらしい気持ちはないのだが、ブナは女性の胸が好きだった。

 ついでに言うなら、においが特に好きだ。


 前に、何度か人前で胸をジッと見ていた時は、変な子扱いされたので、それ以来ブナはこうして物陰に隠れるようになってしまった。


 しばらく眺めた後、足元の枝を蹴飛ばし、リュックを担いだ。

 今日の収穫は、まあまあだ。

 さっさと運んで、ちょっと遅い昼食にしよう。


 そう考えたブナは、公園の端を歩いて、大通りの方に出るのだった。

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