11. 花のピザ
三皿目はピザ・マルゲリータ。シアンに教えてもらった
ただ、ピザ釜がないので、オーブンを熱々に熱していつもより長めに焼いていく。ユーキは4百度を超えて一気に仕上げたいのだが、贅沢は言えない。
「ヨシ! 美味そうだ!」
ユーキは
「うん! 美しい……」
ユーキはワゴンに乗せ、自慢の一品を見送った。
しばらくして歓声が聞こえてくる。
「は、花? こんなの食べられるのか……?」「うわっ、おーいしーっ!」「すごい、こんなの初めてだわ……」
ユーキはレヴィアと目を合わせ、グッとサムアップした。伝統の宮廷料理では花など食べないのだ。
「さて……、いよいよクライマックスだ……」
赤ワインに漬け込んでおいた鹿肉を取り出したユーキは、軽くスライスして肉の状態をチェックする。いよいよメインディッシュなのだ。
軽く切れ込みを入れた鹿肉を熱したフライパンに並べていく――――。
ジュー……。
いい音がキッチンに響いた。
ユーキは真剣なまなざしで肉の様子を見つめ、火加減を確認すると、岩塩を振り、ペッパーミルをガリガリとひねる。焼き加減のベストはレア。鹿肉は火の通りが速いので何度もひっくり返しながら肉の様子を見ていく。
耳を傾け、ジューという繊細な音の変化に集中するユーキ――――。
ヨシッ!
カッと目を見開き、木のトレーに取りだすと、蓋をかぶせた。こうして五分ほど寝かせると肉汁が安定し、旨味が逃げ出さないのだ。
大きなお皿には玉ねぎとデーツで作った褐色のソースで優美な曲線を描き、それを油絵具を扱うようにスプーンでシュッとボカシを加えた。見た目も料理の大切な要素である。
肉が落ち着いた頃、スライスをして様子を見てみる――――。
鮮やかなピンクの内部からはじゅわっと肉汁があふれてくる。
ユーキはうなずくとお皿に盛りつけて最後に再度胡椒を振った。
メインディッシュはディナーの勝負所。これがウケるかどうかで今日の成否が決まる。
ユーキはキュッと口を結び、運ばれていく皿を見送っていった。
◇
「何だこれは!? シェフを呼べ!!」
いきなり響いてきた怒声。
ユーキは真っ青になってシアンの方を見る。
シアンは肩をすくめ、つまんなそうに口を結んだ。
「何がマズかったかな……。胡椒……かなぁ」
胡椒を食べたことの無い人が大き目の胡椒のかけらを噛んだら、確かに刺激が強すぎると感じてしまうかもしれない。ちょっとかけすぎたかとユーキは頭を抱えた。
「大丈夫だって、あたしがついて行ってあげるよ」
「いや、そんな何人も入っていけないよ……」
「こうすれば平気だって」
そういうとシアンはスーッとその姿を消していった。
「へっ!?」
「透明化は基本スキルさ。さぁ行こう!」
シアンはパンパンとユーキの肩を叩いた。
「我も行かねばならんようじゃな……」
レヴィアは険しい目をして自分も透明になると、シアンに続いた。
「ついてくるのは嬉しいけど、絶対バレないでね!」
「まーかして!」「まぁ、お主から呼ぶことになるがな」
「よ、呼ぶって……?」
レヴィアの不穏な言葉にユーキは首をひねりながら、ダイニングを目指した。
◇
「本日のシェフのユーキです!」
ユーキは青いコック帽を胸に抱え、ドアを開ける。まるで心臓が飛び出すのではないのかというくらい鼓動は早鐘を打ち、顔は真っ青だった。
ドアの向こうは豪奢なインテリアのダイニング。広いゆったりとした純白のダイニングテーブルに国王を始めロイヤルファミリーが四人席についていた。
「ほう、随分若いな……。君が作ったのか?」
国王はテーブルの上で手を組み、不機嫌そうにユーキをギロリとにらんだ。立派な口ひげを蓄えた国王は金の刺繍の入った純白のジャケットを着て、ものすごいオーラを纏いながらユーキを見据えている。
この国で一番偉い人を怒らせてしまったのだ。冷汗が背筋をタラリと流れていくのをユーキは感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます