12. 黄金のスパイス
「は、はい。何か不手際がございましたでしょうか?」
ユーキは声を裏返らせながら頑張って声を絞り出した。
「この皿の説明をしてもらおうか」
国王はフォークで鹿肉を指した。
「は、はい。こちらはメインディッシュ、鹿肉のステーキとなっております。鹿肉の芳醇な旨味を逃さぬようレアに仕上げてございます。味付けは塩と胡椒でシンプルに、ソースがさらについてございますので、こってりとした味も楽しみたいときはそちらをつけてお召し上がりください」
「レア……? 鹿肉の生食は危険だと知らんのか!」
国王は真っ赤になってこぶしをテーブルに叩きつける。
「あ、寄生虫のご心配をされているのですね。こちらの鹿肉は全て寄生虫チェック済みですので安心してお召し上がりいただけます」
「チェック済み……?」
「はい、内部に至るまで極秘の方法で安全性を確保しております。寄生虫は白いひも状になっていますがそのようなところは無いですよね?」
「ひも状……。うーむ、確かに見当たらんが……。しかし、ピリッと舌に刺激が来たぞ!」
「それは胡椒というスパイスでございます」
「胡椒……?」
「はい。南国のスパイスで刺激はありますが、肉のうまみを引き出してくれる魔法の調味料です」
「毒……ではないのか?」
「毒性はありません。自分は毎日食べていますが、この通りピンピンしています」
ユーキはニッコリと笑って手を広げた。
「お父様、お肉に合ってとっても美味しいですわ」
王女が試しに食べてフォローする。
「ふむ……。そういうことなら事前にちゃんと言っておいてもらわんとな……」
国王はふぅと息をつくと、鹿肉を頬張り、味わった。
「んむ……。ほぅ……。なるほど……。そういう物だと分かれば確かにこれは凄い……」
「配慮が足りず申し訳ありませんでした」
ユーキはペコリと頭を下げ、大きく息をついた。
お客様を不安にしてしまっては料理人として失格なのだ。ユーキは改めてそういう配慮について学ばねばならないと気を引き締める。
「いやいや、ちょっとビックリしてしまってな。悪かった」
国王は鹿肉の旨味を楽しみ、相好を崩す。
「あなた、胡椒はクセになる味ですわ」
王妃はニコニコと嬉しそうに言った。
「うむ、確かに……。肉料理にこのスパイスはいいかも知れんな……。これはどこで手に入るんだ?」
「そ、それが、知人の
「う、売ってない!? はぁ……なさけない……」
国王は肩を落とし、首を振る。この国では食文化があまり発達していないことを国王は日ごろから憂いており、これもまた懸案の一つとなってしまった。
「その知人の伝手で王宮分だけでも融通してもらえんかね?」
「えっ!? 私の方で手配ですか?」
『値段は金と同じと言っとけ』
レヴィアはユーキの耳元で囁いた。
ぶふっ!
思わず吹き出してしまうユーキ。
「ん? どうした?」
「い、いえ……。それがかなり高価で金と同じ価格がするらしいんですが……」
「金!? ほぉ、なるほど……。構わんよ。まずは一袋用意してくれ」
「み、御心のままに……」
一キロの袋で金が一キロ。そんな大金をもらってしまって大丈夫なのかユーキは冷汗を浮かべた。
◇
その時だった。外がにわかに騒がしくなる。国王と王妃は顔を見合わせ、眉をひそめた。
ズン! という衝撃音と共に建物が揺れる。
「な、なんだ!? 何があった!」
国王はほほを引きつらせ、叫ぶ。
ダーン! とドアを激しく押し開け、執事が青い顔で駆けこんでくる。
「魔物の襲撃です! 早くお逃げください!」
「ま、魔物だと!?」「あ、あなたぁ……」「ひ、ひぃぃぃ」
キンキン! と刃物が火花を散らす音があちこちで響き、悲鳴や罵声が廊下から伝わってくる。すでに警備の最終ラインまで攻め込まれていた。
「くっ! マズい。急ぐぞ!」
国王たちは逃げようとしたが、廊下を荒い足音が駆けてくる。魔物はもはや目前にまで迫ってきてしまった。
「ひぃぃぃ、こりゃイカン!」
執事は慌ててドアを閉め、カギをかけるが、ガン! ガン! と激しくドアが叩かれる。
近衛騎士団の警備が突破されるなど前代未聞の事態に、皆真っ青となって顔を見合わせるばかりだった。
直後、激しい衝撃音と共にドアが吹っ飛んだ――――。
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