第28話 百合の花咲く宝玉宮
前回までのあらすじ。
最百華、魅音を交えて三者会議を行った女帝――の中の人、鈴華。
彼女は二人にこの世界が乙女ゲーの世界であること、魅音はその主人公で、百華と結ばれなければならないと説明するが、ふたりとも納得がいかない。
話し合いを進めていくうちに、鈴華はこの世界が本物の乙女ゲーの世界ではなく、自分が乙女ゲーの世界によく似た
そして、乙女ゲーの内容に従わない百華と魅音は、それぞれ女帝に引き続き仕えると決心し、三者会議は解散。
結局、鈴華が元の世界に帰る方法を探るのは、また振り出しに戻ってしまったのであった。
「うーん、これどうしたものかなあ……」
自室に戻った鈴華は思わず唸り声をあげてしまった。
一歩進んでは、また一歩下がっている感じがして、なかなか「夢から覚める」というゴールにたどり着けない。
「まあ、とりあえず、元の世界に帰る方法を考える前に、湯浴みをしよう」
湯浴み。いわゆるお風呂である。
この世界にやってきて女帝の体に入った際は、侍女たちに自分の体を洗わせるという行為に、恥ずかしいやら自分で出来るやら色々複雑な気持ちになったものだが、かなりの月日がたった今はいい加減に慣れてきた。
身分の高いものは、それ相応の待遇を受けなければならないらしい。
女帝という国のトップであれば、なおさらであろう。
(お風呂に入ってるうちに名案が浮かぶっていうのもよくあることだし、リラックスって大事だよね)
侍女たちに体を洗ってもらいながら、ボーッとする時間は元の世界ではなかなか体験できないことである。
そうして湯浴みをしていた女帝の耳元で、誰かが囁いた。
「陛下のお体は珠のようにお美しいですね」
「え? ああ、魅音か」
湯浴みの準備をすると言って下がった魅音であった。
今日は彼女が女帝の体を洗う担当だったらしい。
「白くてすべすべで、まるで陶器のよう……」
魅音が女帝の体に手を滑らせる。
「ふふ、くすぐったいよ魅音」
「陛下……」
魅音の声に熱がこもっている気がして、鈴華は少し疑問に思った。
彼女の方に首を向けると、その目はやはり、熱を帯びていた。
「お慕いしております、陛下」
「えぇ? ありがとう……?」
「そろそろ流しますね」
たらいに入れたお湯を、丁寧に女帝の体にかけて泡を洗い流す。
この世界では毎日のようにお風呂に入れるのは身分の高いものだけらしいので、鈴華は女帝の体に憑依できて幸運だと思った。
「きれいになりましたね」
魅音は女帝の唇にそっと触れる。
「少し唇が乾燥なさっているご様子。のちほど軟膏を塗りましょう」
「うん」
魅音は微笑んで、風呂から上がった女帝の体をやはり丁寧に布で拭う。
「はぁ……。陛下、なんとお美しい……」
心酔、という言葉がよく似合うその言動に、鈴華はようやく「なんかこの子、変だな」と思い始めた。
侍女たちが数人がかりで女帝に寝巻きを着せて、鈴華は私室に戻る。
その後ろを魅音がついてきており、唇に軟膏を塗ってくれた。
「何から何まで、悪いね」
「いいえ。陛下は貴きお方。このくらいの扱いは受けて当然なのです」
「なんか照れるな……」
顔が赤くなっている気がする。そのわりには熱を持っているのは唇だった。
「なんか唇がポカポカするね」
「軟膏の薬効でございましょう。口づけしたい気分になりませんか?」
はい? という疑問が言葉となって出てくる前に、唇を柔らかいものに塞がれていた。
目をパチパチさせると、魅音の可憐という言葉がよく似合う、クリクリと大きな瞳と至近距離で目が合う。
「……あの~、魅音さん?」
「ふふ」
魅音はいたずらっぽい微笑みを浮かべていた。小悪魔スマイル、という感じである。
「陛下、暖かくしておやすみくださいませ」
ベッドに寝かされ、布団をかけられて、魅音が部屋の明かりを消して出ていったあとも、鈴華は目を開いたまま呆然としていた。
――え? 今、魅音にキスされた?
彼女の脳内には宇宙が広がっていた――……。
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