第27話 三者会議と並行世界

 前回までのあらすじ。

 最百華、魅音、鈴華の三角関係がこじれて、最心用までもが鈴華に言い寄る事態に発展した泥沼。

 百華と心用の兄弟喧嘩を終えて、鈴華は百華と魅音を交え、三人で話し合うことになる。

 果たして、この複雑怪奇な恋愛模様に、解決の糸口を見いだせるのか……?


「というわけで、三者会議を始めます」


 百華の言葉に、うなずく鈴華と、戸惑っている魅音。


「あの……わたくしは何故ここに呼ばれたのでしょうか……?」


「話すと長くなるんだけど……」


 女帝の演技を辞め、鈴華は己の境遇とこれまでの経緯を、魅音に語って聞かせた。

 魅音は鈴華の話を聞いても、あまりよくわかっていないようである。


「つまり、貴女様は女帝陛下ではない、ということですか……?」


「うーん、なんて言ったらいいのかなあ……。女帝の体を借りている『鈴華』という私と、経朱がいるから女帝とも言えるし女帝じゃないとも言えるし……」


「陛下は二重人格、ということですか?」


「いや、うーん……」


 答えに窮している鈴華に、百華が助け船を出す。


「要するに、未来の異国から来た『スズカ』という少女の魂が、どういうわけか経朱の体に宿ってしまったのだ。そうでしたよね?」


「そう! そういうこと!」


「はあ……よくわかりませんが、そうなんですか」


 魅音はあまり事態が飲み込めておらず、どこかぽやっとした態度で二人を見比べていた。


「それで、結局なぜわたくしが呼ばれたのでしょうか?」


「ええっと、さっきも説明したんだけど、乙女ゲーの世界ではあなたが主人公で、百華を始めとした四皇子と結ばれる運命なのよ」


「おとめげー……はあ……」


「だから、私はあなたと百華が結ばれたらいいなって思って、百華の侍女にしようとしたわけ」


 鈴華は身振り手振りで一所懸命に説明するのだが、百華も魅音もなんだか納得がいっていないようだった。


「その、おとめげー? というものに従わないと、宝玉宮に厄災が降りかかる、といった感じなのでしょうか……?」


「え? いや、そういうわけじゃないと思うけど……」


「納得がいきませぬ。なぜ我々がそんなわけのわからないものに運命を決めつけられねばならないのですか?」


「え、えぇ……?」


魅音も百華も、乙女ゲーの方針に従うつもりはないらしい。

鈴華はすっかり困惑してしまった。


「で、でも、ゲームではそうなっているから……」


「げーむ……そちらの世界の遊戯のようなものでしたか。わたくしはそんなものには従いませぬ」


 ツン、と顔を背けた百華に、鈴華は慌てる。


「なんで!? ゲームの内容に従ってくれないと困るよ!」


「何が困るのです? それに従わないとスズカが元の世界に戻れないとは確定しているわけではないでしょう?」


「それは……そうだけど……」


「スズカ」


 百華は女帝の手を取り、真剣な眼差しで見つめた。


「スズカは我々を、遊戯の中でしか存在しないものだと思っているのですか? 今までの交流で、我々が血の通った生きている人間だと感じてはくださらなかったのですか?」


 鈴華はハッと息を呑む。

 そうだ。彼らはまごうことなき「この世界に生きる人間」だ。

 世界観は限りなくあの乙女ゲーに近いけれど、彼らは一度たりとも、そのゲームに従って行動などしなかった。

 おそらくここは――ゲームの世界に近い並行世界パラレルワールドなんだ。


(でも……じゃあ結局、私はどうしたら元の世界に帰れるの……?)


 黙って考え込む鈴華に、魅音はおずおずと話しかける。


「あの……そのおとめげーに従わなくても良いのでしたら、わたくしは陛下のおそばに引き続き侍ってもよろしいのですよね?」


「え? うん、それは構わないけど……そういえば気になってたんだけど、あなたはなんで百華のそばに行きたがらないの?」


 たとえ百華が好みでないとしても、彼は宝菜国で一番と呼ばれる美形。性格も決して悪くはない。

 彼の傍に仕えたいと考える女官は星の数ほどいるというのに。


 鈴華が疑問を呈すると、魅音はほのかに顔を赤く染めた。


「わたくしは……陛下の可憐でありながら優雅、それでいて戦いにおいても勇敢な姿に惚れ込んだのでございます。先日の春雨国を滅ぼした戦いでの指揮は素晴らしいものでございました。あれ以来……わたくしは、陛下のおそばにお仕えしたいとずっと夢みていて……」


「あ、そ、そうなんだ……?」


「陛下の中におわしますスズカ様も、たいへんお可愛らしい方ですのね。わたくし、ますます陛下とスズカ様のことを良く知りとうございます」


 興奮しているのか、顔を赤くしながら息も荒く女帝に顔を近づける魅音。

 百華はそれを面白くないというように鋭く言葉を浴びせた。


「魅音、控えよ。それ以上、陛下の近くに迫ることは許さぬ」


「はっ……! し、失礼いたしました」


 魅音は百華の言葉に我に返り、素早く身を引いて跪く。


「以上で、三者会議は終わりだ。魅音は疾く下がるように」


「はい。陛下の湯浴みの準備をしてまいります」


 百華は一方的に会議を解散させ、魅音も宝玉宮の奥へと下がった。


「あの魅音って子、変わってるね」


「スズカ、あなたはもう少し警戒心を持ったほうがよろしいかと」


「え? どういう意味?」


「いえ……。なんでもありません」


 百華がハァ、とため息をついたのを、鈴華は不思議そうに眺めていた。


 とにかく、鈴華が元の世界に帰る方法を探るのは、またもや振り出しに戻ってしまったのである。


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