第1話 時間の中の秘密
ある日曜日の午後、ハルトはいつものように自室の机に向かっていた。宿題の山に囲まれながらも、彼の心はどこか遠くを彷徨っていた。その時、母親が「お茶よ」と言いながら、熱い緑茶を一杯彼の机に置いた。いつものことながら、この小さな行動がハルトの心を温かくした。
彼はお茶を一口飲み、時が止まるのを待った。そして、その瞬間が来た。部屋の中の音がすべて消え去り、時間が静止した。この奇跡のような現象が最初に起きた時、ハルトは怖くて仕方がなかった。しかし今では、この時間を止める能力が彼の生活に溶け込んでいた。
時間が止まっている間、ハルトは机から立ち上がり、家の中を歩き回り始めた。彼はこの特別な時間を、自分だけの探索と観察の時間として使っていた。リビングには、テレビの画面が凍ったように動きを止めており、母親は微笑みながらコーヒーカップを持ったまま凍っていた。父親はソファに座り、新聞を読む姿勢で静止していた。
ハルトは外に目を向けた。庭の木々は風に揺れることなく、鳥たちは空中で静かに停止していた。この静寂の中で、彼は普段は気づかない多くの美しい瞬間を発見した。時間が止まっていると、世界はまるで異なる美しさを見せる。
彼は、時間が止まるという能力について深く考え始めた。なぜ自分だけが動けるのか、そしてこの能力は一体何なのか。疑問は尽きなかったが、ハルトはそれを恐れるよりも、もっと深く理解しようと決心していた。
お茶が冷めていくにつれ、ハルトは自室に戻り、机に座った。コップのお茶がなくなると、時間は再び動き出し、世界は元の騒がしさを取り戻した。彼はこの現象について誰にも話せない孤独を感じつつも、この秘密が自分に与えられた特別な贈り物であることを知っていた。
第1話の終わりに、ハルトは自分の中に湧き上がる新たな好奇心と、未知の世界への一歩を踏み出す勇気を感じながら、宿題に取り組み始めた。彼の心は静かな冒険に満ち溢れていた。
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