第8話 「まぼろし鉄道」 01 そしてぼくたちは鉄路を目指す。
「ねえ……?」
誰かがぼくを呼んでいる。
首がかくかくする。
あ、揺すられているのか……。
ボーっという音。あれは汽笛か?
ああ、やっぱり。視界の隅に走り去る蒸気機関車が見える。
「ねえ……?」
なんか、かわいい声だぞ。
この声は? 視線を降ろすと……
あり得ない展開に考え込むこと数秒。うーん。
「ほ、ほのかちゃん……?」
上目遣いでぼくをじーっと見ている。
どうやら草の上にぼくはうつぶせになっていた。
そして下に、ほのかちゃんがいてぼくが両腕で抱きしめていたのだ。
「……私のこと好きなの?」
いきなりの展開にぼくはあわてた。
あり得ない。こんなことあり得ない。
……ぼくの中の野獣が目覚めたの? そしてほのかちゃんに襲いかかったの?
「ねえ、答えてよ……?」
ぼくはあせりの中で必死に考えた。
……一体全体どういうことから、ぼくはほのかちゃんを抱きしめているんだろう?
そんなことが頭に浮かんだとき、ああ、これは夢なんだと気がついた。
すると見える風景もしらじらしいものとなり、ゆるやかにゆるやかに現実の意識が覚醒してきた。
そして目が覚める一瞬もう一度、耳に野太い汽笛が響いた。
こうしてぼくは目が覚めた。
「体調でも悪いのか?」
首からタオルを提げたカズキが部屋に入ってきた。
顔を洗ってきたようだ。
ぼくはまだ夢の余韻を残していて、広いたたみの部屋の布団の上にぼんやり座っていた。
「いや……、そうじゃない大丈夫」
「ホント大丈夫か? なんなら虫取り延期してもいいぞ?」
ぼくたちは昨晩カブトムシを捕まえに行く約束をしていた。
「うん……違うんだ。夢を見たんだ。
……なんか妙に生々しい夢だったんだ」
「夢? どんな? 女の子といいことしてる夢か?」
ぼくはどきりとした。
だがカズキは気がつかなかったようだ。
「いや、夢自体はたわいないものなんだけど、汽笛がなんだかリアルでね。
……まだ耳鳴りみたいなのが残ってる……」
「汽笛? 船なんかのボーっていう音か?」
「うん。蒸気機関車の夢だったんだ」
「機関車か、いいな。ちいさいときに乗ったときの記憶とか?」
ぼくは首を振る。
「いや、乗ったことないよ。博物館で見たことはあるけど」
「俺は乗ったことあるぞ」
カズキは胸を張る。
「ホント? すごいね」
「ああ、ちいさい頃、親父にせがんで乗せてもらったんだ。
あれはすげえ迫力だった。すげえカッコイイぞ!」
はるか昔に現役を引退した蒸気機関車だけど、この現在でも観光用として日本にいくつか走っている。
カズキが乗ったのもその中の一両らしい。
「まてよ……。
そういえば俺もボーッってのを夢で聞いたような気がしてきたな」
カズキは腕組みをして考え込んだ。
「うーん駄目だ。俺は見た夢をほとんど覚えていないからなあ……」
「残念だね。もしかしたら同じ夢を見てたのかも。
だとしたらすごい偶然だけどね」
これがぼくたちの今朝の会話だった。
やがて隣で寝ていた女の子たちも起きて来たので機関車の話はおしまいになった。
朝の涼しさもすぐに消え、照りつける強い日差しが今日も暑くなることを告げていた。
「フン。機関車?
なにこどもみたいなこと言ってんの」
朝食後、ぼくたちが庭先の物干し台に布団を干しているときだ。
彩音ちゃんが鼻で笑う。
「そうかな? 蒸気機関車ってかっこいいと思うんだけどな?」
ぼくがつぶやくように言うとカズキが大きくうなずいた。
「そうだ。蒸気機関車は男の憧れなんだ。
真っ黒くて力強くて、もうもうと煙を吐いて坂でもどんどん登るんだ」
「あきれた。
それって単なる環境破壊じゃない。今の特急の方が速いしデザインだってクールよ」
彩音ちゃんが答える。
ちなみに女の子たちは洗濯物を干すのを担当している。
「……わかってないな。
自らの体内に火を熾し、二の腕の力こぶで動輪を回すってのが魅力なんだ」
「……アツいのね。カズキくん」
ほのかちゃんはくすくす笑っている。
「そうさ。
石炭をがんがん燃やしてボイラーに蒸気を蓄えるんだ。熱いのは当たり前だろう?」
カズキは布団たたきを振り回し熱弁をふるう。
「……バカ。
ほのかが言ったのはあなたが熱血バカって意味じゃないの」
ぼくと彩音ちゃん、ほのかちゃんは笑った。
「ここら辺りもずーっと昔には走っていたって聞いたわねえ。
でもとうの昔になくなってしまったんだよ」
新しい洗濯物を持って来た政代さんがそう言う。
その言葉にカズキの演説は中断された。
「走っていたんですか?」
ぼくは尋ねた。
「そうさ。でも鉄道自体が廃線になってしまったんだよ。
乗る人が減っちまってねえ。バスになってしまったんだよ」
「ふーん。そうなんだ」
空になった洗濯かごを抱えながら政代さんは向こうの山を指さした。
「でも山向こうには線路は残っているんだよ。
景色がとってもいいんだけどねえ……」
「おばさん! 線路が残ってるって?」
カズキが食いつくように尋ねる。
「ああ、そのまま残っているねえ。
草や蔓に埋もれているんだろうけどねえ……」
「政代さん。
景色がいいってどういうことかしら?」
彩音ちゃんもすかさず訊く。
「ああ、とっても深い谷になっててねえ。
線路はその谷川に沿って走っているんだよ。それはそれはきれいなもんだよ」
「つまり渓谷があるってことね?」
政代さんはうなずいた。
「……だけどあんたたち、行こうって思ってるなら駄目だよ。
とてもとても危ない場所なんだからねえ」
ぼくとほのかちゃんはうなずいた。
「あなたたち、まさか行くつもりじゃないんでしょうね?」
政代さんの姿が消えた後、彩音ちゃんがカズキを見て言った。
「安心しな。俺たちは今日虫取りに行くんだから」
カズキは胸を張る。でもぼくはなんだか悪い予感がした。
そしてそれは当たった。
ぼくとカズキは虫取り網とかごを持って出かけた。
それなりに長い冒険になるので、水筒とかおにぎりなんかも持っている。
大地はもうすっかり暑くなっていて、遠くの道に逃げ水が見えている。
「まずいよ。だって行くなって言われてるじゃないか?」
ぼくは食い下がる。
「そうさ。俺たちは虫取りに行くんだ。
で、そのついでに線路まで行ってみようって言ってるんだ」
でもカズキはどこ吹く風だ。
「同じことだよ」
「違うね。
虫取りと線路がまったく同じ方角なんだ。
それで結果たどり着いてしまったのは不可侵条約って言うヤツだ」
「……それは不可抗力だと思う」
「そうか? ま、そういうことだ」
言い出したら聞かないのがカズキだ。
ぼくはよっぽどひとりで引き返そうと思ったが、それだとやはりカズキが心配だし、なによりもぼくだけ帰ってきたら、それはカズキの行き先を無言で伝えていることになる。
「わかったよ。
でも線路に着いたらすぐ引き返すって約束できる?」
「ちぇ。わかったよ」
カズキはちょっと不機嫌そうに言った。
その態度は守るつもりがないことを意味していたので、いざとなれば引きずってでも帰るつもりになっていた。
私と彩音ちゃんは暇だった。
言いつけられる仕事もなく持ってきた本やマンガは全部読んでしまったので、はっきりと退屈していた。
さっきまで、流れる真っ白な雲がなんの形に似ているかをクイズにして遊んでいたのだが、それも飽きた。
日陰になっている縁側にネコが上がってきた。
手を招く彩音ちゃんにすりよって甘えている。
「クール、元気かな……」
彩音ちゃんがぽつんとつぶやいた。
クールとは彩音ちゃんが飼っているネコだ。
「さみしい?」
「うん、ちょっとね。
……クールはね。私が小さいときに拾ってきたんだ。
でもね近所に恥ずかしいから雑種なんか飼えません、って怒られた。
でも私、ねばりにねばってとうとう飼ってもいいことになったんだ」
「ふーん。訳ありね。
……でもさ、なんでクールちゃんて言うの?」
「うん、目つきが冷たい感じがするから」
「そうなんだ」
彩音ちゃんはにやりと笑った。
「嘘。
拾ってきたとき雨に濡れてとっても冷たかったから。……そのくせにに暴れるんだから」
ネコはのどをさすられて気持ちよさそうにしている。
遠くから私たちを呼ぶ政代さんの呼ぶ声が聞こえた。
返事をして立ち上がろうとすると政代さんの方からやって来た。
「ご近所から野菜を頂いたのよ」
「わあ、すごい」
私たちは歓声を上げた。
一抱えもある大きなかごにトマトやキュウリなどの夏野菜やモモなどの果物がいっぱい詰まっている。
「あんたたち、好きなだけ取っていいのよ」
「これ、このまま食べられるの?」
「当たり前よ」
政代さんはゆかいそうに笑う。
ふたりしかいないので分け前が多かった。
手にしたときに水に濡れて冷たくて気持ちよかった。
「井戸の水で冷やしてあるさ」
政代さんはそういった。
私たちは両手いっぱいに野菜果物をもらって少しだけ食べた。
「おいしいね」
まず汁が多かった。
そしてしっかりと濃い味がした。夏の味だ。
「そう言えば男の子たちは?」
私たちが夢中でかぶりついていると政代さんが尋ねた。
マナツくんたちがいないことに気がついたようだ。
「虫取りに行ったんです」
私は答えた。
「……ホントこどもみたいなんだから」
彩音ちゃんは無愛想だ。
「あらそうなの?
どうせふたりはそこらにいるんでしょ? あの子たちに届けてやりなさいよ」
そう言って政代さんは更にいくつかの野菜と果物を置いた。
「どうして私たちが届けなきゃならないの?
匂いにつられて帰ってくるわよ。食い意地だけはあるんだから」
「そんなこと言わないの。新鮮な方がおいしいんだからね」
そう言って政代さんはかごを抱えて出て行った。
「あんまりたくさんだから、近所にお裾分けしてくるね」
私たちは姿が見えなくなるまでなんとなく政代さんを見ていた。
やがて彩音ちゃんが口を開く。
「ねえ、ほのか?
あいつらホントに虫取りに行ったと思う?」
「そうじゃない? だって虫取り網とかかごとか持ってたよ」
「それはカムフラージュかもしれないわ?」
彩音ちゃんはそう言って野菜たちを見ている。
「どういうこと?」
「もしかしたら、あいつら線路を見に谷川に行ったんじゃないのかな? って考えてたの」
私はピンと来た。
「あり得るかも……」
「でしょ?
マナツくんは別としても、あのカズキくんがすんなり従うっておかしいと思わない?」
私はうなずく。
「どうするの? 政代さんに言いに行く?」
立ち上がりかけた私の腕を彩音ちゃんが掴んだ。
「ほのか、いい?
私たちが言いつけられたのは、この野菜たちをあいつらに届けることなの」
彩音ちゃんは真顔になる。
「つまり私たちにはこれをあいつらに届ける義務があるの」
「うん。ま、そういうことになるわね」
なんか嫌な予感がした。
「仕方ないから届けに行こう」
「どこに?」
「あの山の向こうよ。
どうせ谷川に向かっているのは間違いないんだから」
……やっぱり。
「でもさ、山は広いし見つからないかも」
私は遠回しに引きとめた。
「駄目。行くの」
彩音ちゃんは頑として首を縦に振らない。
「あのさ、それを口実に谷川を見物するつもりなんでしょ?」
彩音ちゃんが一瞬引いた。図星のようだ。
「そうね。正直言えばそうなるわね。
でもね、あいつらを追っていて渓谷に到着しちゃったらそれは不可抗力でしょ?」
「うーん……」
「それにカズキくんの声、大きいんだから行けばわかるわよ」
私は考え込んだ。
「……なら、ひとつ約束してくれる?」
「なあに?」
ひとつ咳払いをする。
「ふたりを見つけたら絶対に引き返す。例え谷川に到着しても、よ」
「……わかったわよ」
彩音ちゃんはしぶしぶ同意した。
こうして野菜果物を届けるという大義名分を建前に私たちは山へ出かけることになった。
ぼくとカズキは山の中に来ていた。
クヌギやコナラの木々が立ち並ぶ雑木林だった。
ここからだとまだ里が遠くに見える。
林には道がないので迷いそうになるかと思ったので、ときどき姿を見せる太陽と持参した方位磁石で方角は確かめていた。
足下はずっぽりしめっていた。
地面を見ると川とは言えないほどの小さな水の流れが林の斜面にいくつもあった。
「うわっ」
ぼくは転んだ。
いきなり足がすべって派手に尻餅をついた。
「バカだなあ。ぬかるみを大股で歩けば転ぶに決まってるだろう?」
先頭を歩くカズキが振り返って見ていた。
「こんな道なれてないから」
立ち上がるとお尻に泥がついている。
ぬぐってもすでに下まで染みこんでいて気持ち悪い。
「俺は山育ちだからな。こういう道はなれている」
「そう言えばそうだったね」
「転校するまで俺は毎日暗くなるまで山で遊んでいたんだ」
カズキは二年生まで田舎に住んでいて三年生のときに東京に引っ越して来たのだ。
「さすが幼少期からワイルドだね」
それからしばらく歩いたときだった。
「そこの木ひっくり返してみろよ」
ぼくはカズキに言われるまま転がった太い枝を裏返しにした。
「す、すげえ」
そこには大きなクワガタがいた。
少し赤みがかったノコギリクワガタだ。
「こういうしめった木にいることが多いんだ」
確かにカズキは山育ちだった。
適当な木を見つけるとするすると登り、降りてくるとかごにはなん匹かの虫が入っている。
得意気に差し出すカズキからかごを受け取るとそこにはノコギリクワガタだけでなく、カブトムシまで混じっていた。
「すごいもんだね」
ぼくは感嘆した。
「この山は荒らされてないからな。ここに研修に来て正解だったよ」
「どうして?」
「だってこれ高く売れるぜ」
ぼくはうなずいてかごを返した。
「そうだね」
「俺さ、なんだかこの研修を途中棄権してもいいかもって思い始めた」
「な、なんで?」
ぼくはカズキの真意がわからない。
だがカズキは大声で笑う。
「だってさ、そしたら来年もここに来られるじゃないか。虫を取り放題だぜ?」
「冗談やめてよ」
これまでけっこう怖い思いやあぶない思いをしてるのだ。
……そのときだった!
仁王立ちで笑うカズキの向こうの木の影でなにかが動いたのだ。
射抜くようにまっすぐにぼくたちを見つめる瞳…… 。
「しっ! なにかいる!」
ぼくは叫んだ。
カズキは、ぼくの顔を見て冗談じゃないことを悟って急いで向こうを見る。
「な、なんなんだよ。なにもいねえじゃないか……」
ほんのわずか一瞬でそれは姿を隠した。
「いや、いた」
「鳥か? それともなんかの動物か?」
「いや、違う」
「じゃあなんだ」
「こどもだ。人間のこどもがこっちをのぞいていた」
ぼくは断言した。
「……冗談はやめろよ。こんな山ん中で、こどもなんかいる訳ないだろ」
ぼくが見たのは確かに人間のこどもだった。
ちいさくてまだ幼稚園くらいの男の子だ。
とてもやせた男の子で目が細かった。木から顔を半分のぞかせて、こっちを見ていた。
ぼくたちは無言になって互いの顔を見た。
風がいきなり、ごうっと吹いた。
突風だ。
落ち葉が舞い枝がわさわさと揺れた。
ぼくたちは思わず顔を隠した。
――そして……。
「ねえ、見せておくれよ?」
いきなり声がした。
「うわっ!」
カズキが叫んだ。
見るとカズキが持ったかごに、ちいさなこどもがしがみついていた。
「な、なにするんだ。このガキ!」
ふりほどこうとカズキがもがくと男の子はいきなり手を離す。
カズキは勢いで二、三歩飛び足になった。
「これっぽっちか……。まだ少ないね?」
ぼくたちはあっけに取られて男の子を見ていた。
頭の上の枝がわさわさと揺れた。
また風がやって来たのだ。
ごうっと鳴ってそして止んだ。
「あれ? いなくなっちまった……」
「……ホントだ」
男の子の姿は消えていた。
ぼくたちはしばらくそのまま動けなかった。
「なんだよ。まだ気になるのか?」
林と藪の中を先に歩くカズキがときどき振り返ってぼくに言う。
ぼくが持った虫かごはもう中身はいっぱいだ。
あれからさらに虫を捕まえたので数えたら二十匹になっていた。
「うん。……なんだかね。気にかかるんだ」
ぼくにはさっき見た男の子がまだそこいらにいるような気がしていた。
ときおり感じるのは気配なのか視線なのか……。
その辺はわからないけど確かになにかを感じていた。
見晴らしのいい丘に出たのでぼくたちは昼食を取ることにした。
「どうしたんだ?」
おにぎりをほおばったカズキがぼくに話しかけてくる。
「うん。太陽の向きから方角を確かめていたんだ」
ぼくは岩の上に登っていた。
「コンパスがあるんだろう?」
足下からカズキが言う。
「うん。でも磁石だけだと不安だから」
ぼくはおにぎりに口をつけた。
そのとき、人の姿が見えた。
軽装だがリュックを背負った人物がちらっと木々の間から見えたのだ。
「あれ? カズキ、誰か登ってくるよ?」
「どこ?」
カズキが岩を登って来た。
だがその間に木々にまぎれて見えなくなっていた。
「駄目。見えなくなった」
「さっきのガキか?」
「違うと思う」
そのときだった。
「しっ! なんか聞こえるぞ」
カズキがちいさく叫んだ。
「水の音だね」
低い地響きのような重い水音が聞こえる。
だがそれだけではなかった。
「人の声もするね」
ぼくたちは耳をすました。
風に乗ってはしゃいだ声が聞こえてくる。
それは会話だった。少なくとも声の主がふたりはいることを意味している。
「女の子……。みたいだね」
「こんな場所で?」
カズキは目を丸くする。
「行ってみよう」
ぼくたちはなるべく物音を立てぬようにそっと進んだ。
やがて……。
「うわあ!」
思わず叫んでしまった。
いきなり視界が開けて向こうの山の絶壁と深く刻まれた谷底がいっぺんに飛び込んできた。
「す、すげえ!」
真下に見える太い流れが途中で折れて、真っ逆さまに何十メートルも落下していた。
「滝だ!」
滝は白い飛沫を派手にぶちまけて深緑色の谷川へと注いでいる。
こつんと靴に当たった小石がふわりと落下した。
石はしばらく見えていたがやがて水煙の中に消えて見えなくなった。
「……落ちたら死ぬな」
「うん。間違いなくね」
「危ないとこだった。走って飛び出したら俺たちあの下だぜ」
ぼくたちは遙か眼下の谷川をしばらく見ていた。
流れは激しく右に左にうねり大きな岩に当たって、ずっと向こうの崖の影で見えなくなっていた。
「来るなって言われたのは確かにわかる。でも来た甲斐はあったな……」
「うん。そうだね」
圧倒的な大自然が作ったこの風景の迫力はすごかった。
そして歩いてここまで苦労とか疲労とかそんなものがあったから、余計にきれいに見えたのかもしれない。
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