第14話 歴史グルメへGO
改めて見回してみれば、辺りには無数の人骨が散らばっていた。
ああ······彼らの仲間入りするところだったんだな。
背筋が冷たくなる。
「あの大蜘蛛にも生贄を捧げながら用心棒として飼っていたのかもしれないな」
「随分とゴツい用心棒ね、この先にあるものに期待できそうだわ」
史部さんと鏡子さんが再び目を輝かせ始める。
「こんなにまでして守ってる物を確かめないとな」
と言う訳で、更に奥へと進む。
その後は微かな生き物の気配は感じつつも、大蜘蛛のような危険生物との遭遇は無かった。
ただ、どんどん暑くなってきた。地面からも壁からも蒸気が発せられているようで、マグマの息吹を感じる。
いきなりブシューって熱湯に襲われそうで怖いんですけど。
内心ビクビクしていたら、唐突に辺りが明るくなった。青白く烟る大気が光を受けて、ぬらぬらと畝って見える。
「これは······」
一陣の風が吹き抜けて視界が復活。そこに広がっていたのはターコイズブルーの美しい湖と蠢く溶岩。
期せずして俺たちは外にでてしまったのだった。
「これは、予想外だな」
流石の史部さんもこの結末は想像できなかったらしい。
「シーモス山の火口の一つね」
「黄色い結晶がそこかしこにある。硫黄だろうな」
「ということは、彼らが守っていたのは硫黄ってことかしら?」
「まあ、あり得るな」
「あの、硫黄ってこの時代の人達にとってそんなに貴重なんですか?」
俺の基本的な質問にも、鏡子さんは厭うことなく答えてくれる。
「そうね。抗菌作用があるから医薬品として使われたり、作物の肥料として使われたり。着火剤として優れているから火薬には欠かせないけど······」
「この時代のこの国に火薬があった史実はないけど、可能性がゼロでは無いな」
つまり、この硫黄を独占することは、医療、軍事、交易を把握できるって訳か!
アイレス王の治世が安定していたのは、先ほどの水場とここの硫黄のお陰かもしれないな。
探索するまでもなく、ここにも石台が設置され儀式の痕跡があるも、周りの人骨に火葬の痕跡は見られなかった。
「通ってきた道に他の石台や儀式の痕跡は無かったわよね」
「パイロエレフの杖が見つかった現場は洞窟の中、
え、噴火!? それって危険だから早く逃げないと。
まさかそれで遺体が火葬された状態になっていたとか······ぶるぶる。
「つまり、まだあの遺体は生きているってことか」
「そうね。これだけ探して見つからなかったんだから、生きているわね」
なるほど。じゃあ、一旦帰ってこの後の日時にもう一度時空転移して来ればいいんだな。
そうだよね。一発で神器を見つけられるなんて発想は甘いって事だよね。
「生きてるだって!? 一体どこにいるんだ?」と東郷少佐。
「腹が減って仕方ないんだが」
隆田大尉が腹を押さえれば「美味しい物食べたいですね」と柊さん。
「これは情報収集が必要だな」
「トルティ(キッカの実の粉餅)とミモラ(ミラと言う穀物で作ったドーナツ)を持って帰らないと風花さんと天華さんに殺されるからな」
「クリスタル······」
「じゃあ、町へ行ってみましょうか」
「「「おお!」」」
え、そんなことしていいのかよ!
これ以上歴史改変、事故遭遇で大暴れしちゃマズいですよね!?
でもみんなノリノリ。
「修蔵君、アレを」
「うっす」
今度取り出されたのは生成り地のシンプルな服。
「これに着替えていくわよ」
ここの人々と同じような服に着替えれば、確かに目立たずに済みそうだけど、そんな簡単にいくのかな。
「後、これね」
「おう、先立つものが無いと食えねぇもんな」
カカオ? あ、物々交換で使うってことか。
隆田大尉は喜んでいるけど、未来の種を持ち込むのはマズいんじゃないかな?
「飛鳥君、心配しないで。これはカリスト遺跡から発掘されたカカオの外皮からクローン栽培した実。生態系に影響は無いはずよ」
すみません、心配性で。
「でもまあ、考える事は昔も今も一緒でね。偽造貨幣ならぬ偽造カカオもあったらしいわよ」
いや、そんなこと言って自分たちの行いを正当化するのは如何なものかと······
ここまで用意周到なのは素晴らしいけれど、最早最初から行く気マンマンだったよね。確信犯ってヤツ。
ツッコミどころ満載だけど、こうなったら楽しんだ者勝ちだー!
飛行魔法で一気に麓の町まで飛んで行く。人気の無い城壁沿いに降りて、後は徒歩。
「この石の組み合わせ凄いよな。紙一枚隙間に入らないぞ。これを切り出せる技術があるという事だね」
嬉々として城壁を触りまくっている史部さんを追いて、みんなは一目散に市場を目指す。
石造りの町並は綺麗に区画整理されていて、道の横には水路まで設置されている。想像していたよりも生活しやすそうだ。
お目当ての中央広場では、雨除け布を貼っただけの屋台が所狭しと立ち並ぶ。美味しそうな食べ物から日用品、怪し気な装飾品まで。
行き交う人々の顔ぶれも驚くほどバラエティに富んでいた。
黒髪浅黒い肌の戦闘民族の中に俺達が入ったらさぞ目立つだろうと思っていたけど、心配する必要なかったな。
「ここは交易の最終目的地なんだね。戦闘民族だけど、それはあくまで戦士同士に限定されていて一般の人々は普通に暮らしているんだな」
いつの間にか追いついた史部さんの解説。
だけどみんなは目の前の食べ物に夢中だ。
「おお、肉を焼くいい匂いがしているぞ」
「あっちの蒸し料理もいいな」
「ねえ、鏡子ちゃん、ミモラ一緒に食べましょう」
「うん」
「鏡子さん、あれ、ラモンじゃないすか」
「修蔵君ありがとう。ラモンの種から作られたトルティーヤ、逃したくなかったのよね」
「螺鈿の仮面だ······」
ワイワイ言いながら、最初に行ったのは焼肉屋。と言っても牛や羊の肉じゃない。
マナティーの塩漬け肉だった。滴る脂がジュ~っと鳴けば、端の焦げ目が香ばしさを運ぶ。シンプルにそのまま齧り付くと、身は思ったより柔らかくて、塩味と旨味がふわりと口いっぱいに広がった。
「うめぇ~」
「うまい!」
「「美味しい〜」」
至福の一時だ。
隣には干し魚で出汁を取ったスープの店。
山深いここが塩と魚介類で溢れていると言うことは、いかに強い国なのかを肌で感じた。
風花さんと天華さん作成のイヤフォンとチョーカーのお陰で、現地の言葉が理解できるからストレスフリー。
史部さんと鏡子さんは、話好きの屋台のおばちゃん達にさり気なく色々聞いている。
「お姉さん、この辺りで『杖の伝説』なんて聞いたことあるかな?」
「あら、旅の人? 杖の伝説なんて聞いたこと無いわよ」
「『
「どんな伝説なんだい」
「シーモス山に住む火の女神は太陽の暦に合わせて生まれ変わるの。百一年に一度」
「その時青い龍となってこの町までやって来ると言われているわ。恵みと災いを授ける為に。捧げた生贄の数によって恵みと災いの量が変わると言われているから、アイレス王とフィリウス王子がたくさんの生贄を捧げてくださっているのよ。ありがたいことだわ」
「あなた達も五日後の聖誕祭を見に来たのでしょ」
五日後の『聖誕祭』だって?
もしかして重要情報なのではないだろうか。
「まあね。ところでフィリウス王子って?」
「アイレス王の弟君よ」
「物凄く強くて、遠征の度たくさんの捕虜を連れ帰ってくるんだから」
もしかして、球技場でアイレス王と話していた戦士かな。
史部さんも同じ事を思ったらしい。
「そんな凄い戦士に会えたら光栄だね。会いたいな」
「史部さん会えるわけないですよ」
「会えるわよ」
「え!」
「遠征の後はサルファー川の湯で傷を癒しているからね」
「川が温泉ってこと?」
「そうよ。万病に効くの。これも
「私達も良く行くわよ」
史部さんだけじゃ無い。みんなの目がキランと輝いた。
嫌な予感······
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