第12話 青く光る溶岩洞
「ほら、選手はみんな手を縛られているだろう。あれは敗戦国の捕虜達で、負けたチームは生贄にされるんだよ。命がけのサッカーゲームってところだね」
「負けたら生贄って······酷い」
「普通はそう思うよね。でもこの国の人達にとって『生贄』は名誉な事であり、世界の安寧のためのに神に命を捧げることは、欠かす事のできない儀式と考えられているからね。罪悪感とかは無いんだろうな。それに、実際の生贄は他国の戦士だしね」
確かに、球技をしているのはガタイのいい傷だらけの半裸の男達。一目で戦士とわかる相貌だ。だから、身体の大きな隆田大尉が入っても紛れてしまっていた。
「それじゃ隆田大尉も」
「ま、どうせ拒否して大暴れだろうけど、目をつけられるのはやっかいだな。クソっ、黎明がいれば」
その時、イヤフォンから鏡子さんの声が聞こえてきた。
「史部、やったわね!」
「何のことかな」
マズい!
俺が集合場所を間違えたからみんなに迷惑をかけてしまった。入力数字を間違えないようにって、あれほど頭に叩き込んでいたのに······ちゃんと謝らないと。
でも次に聞こえてきた鏡子さんの意外な言葉に、トクンと心臓が波打った。
「史部、飛鳥君の記憶改竄したわね」
「ハハハ、流石鏡子。お見通しだね」
「どうせアイレス王でも見に行ったんでしょ」
「大正解。ただ、ちょっとしくじった」
「はあぁ〜」と大きな鏡子さんのため息。
「黎明、頼まれてくれる」
「察しが良くて助かるよ」
「私の助手に手を出した。許さないんだから。帰ったらお仕置きよ」
「ああ、甘んじて受けるよ」
なんだろう。この二人のセリフ、ゾクゾクするんだけど。
いや、それよりも。
ジ~ン―――
俺のミスなんてこれっぽっちも疑わないでくれた!
私の助手って言葉が、こんなにも心強いなんて。
嬉しい―――
その時、一際歓声が高くなった。試合の決着が着いたらしい。
負けたチームが前に押し出されて、アイレス王が立ち上がって何かを言っている。
隆田大尉はどこだろう? と焦っていたら、いきなり眼の前の空間から現れ出てきた。黎明さんと一緒に。
「すまない。
「······別にこれくらい」
身体の大きな隆田大尉が、背を丸めて謝っている。
「俺としてはこの後の生贄の儀式も見たいけど、まあ、凄惨なシーンになるだろうし、鏡子のしばきが増えるのも嫌だし、移動しようか」
こっちは全然反省していないけど。
黎明さんを取り囲むように立てば、一気に身体が透けていく。
お、転移魔法と透明化魔法、前に感覚が似てるって言ってたよな。面白い!
「飛鳥君、飛ぶぞ」
史部さんの声に慌てて意識を集中させる。
なるほど。透過して飛べば目立たないもんね。
そして気付いた。
ここ、魔素が濃くていいなぁ。
シーモス山から続く緩やかな傾斜の最遠に、ポカリと開く大きな口。
はるか昔の噴火によって作り出された地底世界への入口は、ひんやりとしていて、清らかさと淀み、相反する魅力で俺達を誘い込もうとしていた。
初っ端からトラブル、と言ってもぜ~んぶ史部さんの仕業だけど、予定より遅れて溶岩洞の前に到着した。
こちらは先程いたピラミッドの表側の喧騒とは正反対。静かな裏側の世界。
「飛鳥君、よくやったわ。時空転移成功よ。誰かさんのせいで苦労かけたけど」
そう言って史部さんをギロリと睨んだ鏡子さん。腰の剣に手をかけてるけど、あれ、まさか本物じゃないよね。
「鏡子ちゃんよ。今それをぶっ放すと洞窟の入口壊れちまうぞ」
東郷少佐の言葉に、すうっと柄から手を離した。
鏡子さん、剣も使えるなんて。弱点が見当たらない
それにしても、やっぱりこの二人、どんな関係なんだろう?
「修蔵君、アレお願い」
「OKっす」
鏡子さんの言葉に、修蔵君が懐から取り出したのは小さなビー玉。それがあっという間に大きくなって透明な仮面が七つ。
ん、七つ?
黎明さんはいつものペストマスクを装着済みだった。
どんな時もブレない人だった。
「この仮面には琴音ちゃんにお願いして強力な浄化魔法を付与してもらってるの。だから防毒マスクとしても有効なのよ」
確かに、洞窟の中はどんな毒ガスが噴出しているかわからないもんな。
準備の良さに舌を巻く思いだ。
「じゃあ、中に入ってみましょう」
『盾の継承者』の隆田大尉と『アシハラの
黒光りする岩の中は湿って滑りやすい。慎重に踏み出す足先はしばらく水平に、山の懐奥深くへ誘われていく。光魔法だけが頼りの視界に加えて、音を吸収する岩肌のせいで、無音の圧まで感じる。
圧迫感凄え!
浄化マスクがあるのに、なんとなく息苦しい。
その上閉塞感が時間の観念を狂わせる。
一体どれくらい歩いただろう?
いつの間にか周りは黒から白へと色を変えた。と同時に上下から白いつらら石に攻められて、徐々に道幅が狭まっていく。
そこかしこで雫の音がこだましている。
音が戻ってきた!
物凄くホッとした自分に気づいて、五感の大切さを思い知った。
それにしても通りにくい。背を丸めたり反らしたりしながら歩く。身体の大きな隆田大尉や東郷少佐は辛いだろうな。
「天然の要塞だね」
楽しそうに呟く史部さん。
確かに、侵入を拒んでいるみたい。でも、神器を隠すにはうってつけの場所だよね。
唐突に、ポッカリと開けた大きな空間に出た。
「これは!」
「綺麗」
皆が一様にそう呟く。
地底湖だった―――
天井部分に亀裂があり、一筋の光が階段のように差し込んでいる。
水面が青く輝き、緩やかな風が光を揺らす。白い壁が煌めき冷えた空気を和ませる。
「泉······水源ってことは、まずいな」
史部さんの言葉に、皆の緊張の色が濃くなった。
何が不味いんだろう?
その時、ゴリッと足を取られて転びそうになった。その感触が何故か気になって仕方ない。思わずしゃがみこんで手に取れば······人骨だ!
ヒュンッ
頭上の空気が切り裂かれた。
「矢だ! みんな下がれ!」
ぐいっと修蔵君に首根っこを引っ張られる。元いた場所には複数の矢が突き刺さっていた。
「トロすぎ」
相変わらずの憎まれ口だけど、素直に感謝。
あの時しゃがまなかったら、修蔵君が引っ張ってくれなかったら······蜂の巣だったんだよね。恐ろしい······
ブォンと巨大な透明の盾が出現。
これなら攻撃の様子を見ながら守れる。表面に突き刺さることなく矢が砕けていく様は、強度の強さを実感させてくれた。
「隆田大尉、皆を頼みます」
鏡子さんはそう言い残すと、東郷少佐と共に飛び出して行った。
降りかかる矢を剣で薙ぎ払いながら、飛行魔法で射手の元へ一直線。「ぎゃッ」と言う声がして人が鍾乳石の塔を転がり落ちる。
こっちも凄えかっこいい!
俺達は盾に守られ水辺から素早く撤退。
だが、やはり相手は歴戦の戦闘民族だった。
一体どこに隠れていたのやら。わらわらと踊り込んで来たのは半裸の剣士たち。
「隆田大尉、彼らを頼む」
今度は史部さんがふらりと前に出た。
ええ!?
そんな無防備に出たら殺られる!
力を限りに襲いかかる数十本の切先。
スッと流れるように眼鏡を取り去った史部さんから、強烈な魔力が揺らぎ出た。
「いい夢見ろよ」
猛々しい雄叫びが一瞬にして静まり返る。バタバタと折り重なる様にして倒れ込むと、数十名の大男達がガーガーと鼾をかき始めた。
「みんな寝ちゃったから」
え、強すぎだろ!?
気づいたら鏡子さんと東郷少佐も戻って来ていた。
制圧、早っ。
「さあ、今のうちにお宝ゲットよ」
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