第二章 一角龍と生贄の王子

第10話 カリスト遺跡

 火の神―――


星成記ホシナリノキ』では炎姫ホムラヒメとして登場する。


 今から三千年前(前世界歴五百年頃)の葦ノ原王国は、数多くの豪族が利権争いを繰り返していた。武装集団の急襲に怯える人々に心を痛め、争いのない平和な国を作ろうと立ち上がったのが、初代国王、明寿建王アシタケオウだ。


 遠征前、統一成功の祈願をしたのが炎姫を祀る『鳳凰山ホウオウヤマ』麓の神祠。 

 遠征中炎に囲まれても慌てること無く、炎姫の加護を信じて戦った明寿建王アシタケオウの胆力、信心に心を動かされた炎姫が力の一部を宿した『杖』を授けたとされている。


 これが神器『呼操ノ杖コソウノツエ』だ。

 パチモンだったらしいけど。


 だから、俺達考古学資料室のメンバー+国王軍の三人は、本物の杖をゲットする旅に出ることになった。決行は一週間後。


 兎にも角にも時空転移魔法の成功が必須となるので、俺はこの一週間、鏡子さんと練習しまくった。

 二人でタイムトリップなんて言うと聞こえはいいけど、実際は過去へ飛んで直ぐに戻ってをひたすら繰り返す、地獄の猛特訓。三半規管ぶっ壊われ放題の鬼時間だった······


 うっ、思い出すだけで吐き気が。

 ケロリとしていた鏡子さんは、一体どんな身体をしているのやら。


 ヘロヘロで動く気力も無く机に突っ伏していたら、軽やかな足取りが近づいてくる。


「飛鳥君、お疲れ様。鏡子に相当しごかれたようだね」

「······はい」


 史部さんの大きな温かい手が背中をさすさすと撫でてくれた。


「ま、気楽に行こうよ」

「はい。ありがとうございます」

「じゃ、カルナ国のカリスト遺跡について、少し予習しておこうか」

「······はい」


 うっ、ここにも鬼が······

 思わず菩薩顔になる俺には頓着なく、史部さんは嬉しそうに語りだした。


 今回のミッション先、カリスト遺跡。

 世界歴千八百五十六年、活火山シーモス山麓の樹海の中で発見されるまで忘れ去られていた古代国家。階段式ピラミッドと思しき巨大建造物を中心に、区画整備された街並みが明らかにされつつあった。

 

「この遺跡はなかなかに興味深いんだよ」

「そ、そうなんですか」

「年代測定の結果、石段は世界歴六百年頃から段階的に作られていて、一番上の階層で千百年頃だから、長くこの地は栄えていたと思われるんだ。実際石碑もたくさん発掘されていて、その栄華の様子も描かれているんだけど、ある時を境にぷつりと情報が途絶えてしまうんだ」


「自然災害か戦争が起こってこの地を捨てたということでしょうか」

「おそらくね。でも、その裏付けとなる資料は何も発見されていないから、憶測の範疇でしか無いけどね」

「あ、だからアイレス王の治世、千百二十一年に行くんですね」


 俺の言葉に、史部さんがニヤリとする。


「飛鳥君、察しがいいねぇ。謎が一つ解けるかもしれないだろ」

「自分の目でそれを見れたら最高ですよね」


 俺の言葉にますます嬉しそうに笑った史部さん。


「おお、将来有望な新人で嬉しいよ。でさ、このピラミッドの役割なんだけどね」


 あ、しまった!?

 話に火を付けてしまったぞ。

 落ちかける瞼を必死に支えながら、続きを傾聴するポーズだけは崩さないようにする。


「石碑からの考察では、溶岩洞、つまり火の神の化身である『一角龍ユニオピス』の出口を塞ぐためだったと考えられているんだ。生贄を捧げてね」


 生贄〜!?

 エグッ!


 現代では非科学的で人道的にも問題ある行為とされるけど、当時の人々にとっては死活問題だったんだろうなぁ。


「実際、パイロエレフの杖が見つかったのはピラミッド内部じゃ無くて、後ろの溶岩洞の中。火葬された遺骨に抱えられた状態で見つかっているんだよ。な、ソソられるだろう!?」


 いえ、ちっとも。全然全くもって人骨なんて見たくもありません。

 でも、そんなこと言えるはずもなく。


「はい」

「遺骨の主と杖。一体どんなドラマがあったんだろうね」

「神器を持っていたくらいだから、時の権力者とかじゃないですか?」

「うーん、そうだねぇ。人骨にはあちこちにヒビや骨折の跡と治癒した跡があって、戦士だったのではと推測されているんだけど······実はパイロエレフの杖は最近までガラクタ扱いされていたんだよね」

「ええ、どういうことですか?」

「カルナ国王家には、別の『杖』が伝えられているからだよ。一角龍の角でできた神器『ユニオピスの杖』がね。だからカルナ国では神器じゃないんだ」


 俺の耳元にすうっと史部さんの顔が近づいてきた。


「ただね、今頃になって分かったんだ。あの黒い火成岩キンバーライトの棒の中はダイヤモンドがゴロゴロしているってね」

「火成岩とダイヤ······パイロエレフの杖は金属製じゃ無いんですね」

「カルナ国は公表していないけれどね」


「俺がこの目で確認したから間違いない」

「うわぁ!」 


 突然、目の前の空間から大きな嘴の鳥人間が出現した。

 ぎ、ぎやぁ······う、黎明さんか。

 もうヤダ。この人心臓に悪い。


「い、いつからここにいたんですか?」

「ん、ちょっと前」


 なんて大雑把な答え。

 でも、火成岩の中身を見られるなんて、黎明さんの目って中性子ビームでもついているのかな。


「透明化すると視界が変わる時があるらしいよ。黎明が優秀な探索者ってことがわかっただろう」

「はい、凄いです」

「······」


 自分のことのように自慢気に言う史部さんとは対象的に、黎明さんはいつものうっすい反応。


「でも、そうすると謎だらけですね。二つの杖の真実と遺骨の主。気になります」

「そうだろう、そうだろう! それでこそ考古学資料室メンバーだ」


 マズい! また史部さんのスイッチを押してしまった。

 思わずガクリと首を折った俺。予想を違えることなく、そこからまた長ーいお話が続く。

 いつの間にか黎明さんは、文字通り空気となって消えていたけど。


 ああ、早く帰りたい······



「決行日、楽しみにしていてくれたまえ」


 ようやく講義を終えた史部さんの意味深な笑みに、嫌な予感と不安しか湧き上がってこなかった。

 

 ああ、どうか無事に帰って来れますように!



【作者より】

 大変遅くなりましたm(_ _)m

 ようやく続きを書き始めまして、旅の部分に突入しました。タグ詐欺にならなくてよかった(笑)

 とりあえず、毎日更新を目標に(目標はあくまでも目標ですがw)頑張りますので、よろしければお付き合いいただけると幸いです。



 

 


 

 


 

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