第3話 王家の秘密
「えっと、まずは飛鳥君には私の助手を務めて欲しいの」
美人室長の助手だって!? 美味しすぎる······
一気に天国へと誘われた俺。
配属早々心臓発作で死んだらしい······ま、こんな死に方も悪くはないか。
いやいや、実際には死んでないけど。
「俺······が、暁室長の助手······」
「待って、やっぱりなんか落ち着かないわね。堅苦しいのは好みじゃ無いから、飛鳥君もみんなと同じように鏡子さんって呼んで」
「え、いいんですか!」
「いいも何も、そう呼んで欲しい」
「は、はいっ! 仰せのままに」
き、きょうこさん······
服従の魔法でも掛けられたように思わず跪いた。俺の肩にそっと手をかけてくれた鏡子さんは、そのまましゃがみこんで視線を重ねてくる。
その瞬間、空気感が変わった。
「飛鳥君、これから話すことは他言無用よ」
そう言って、俺の唇に人差し指を押しあて誓約の魔法を唱え始めた。
「これでもう、話したくても話せないけど」
勝ち誇ったような眼差し。
冷たくて理不尽なのに―――美しくて熱い。
俺はもう、暁鏡子という
俺に手を差し伸べながら立ち上がった鏡子さんは、予め中に用意されていたミニチュアの椅子を勧めてくれた。
思ったより座り心地がいい。
「飛鳥君は『
「あ、アシハラ語に訳されたものなら、歴史の勉強の時に」
「そう、じゃあまずは風花と天華にミコトノハを学んで原書を頭に叩き込んで欲しいの」
「『星成記』の原書をですか」
「ええ」
『星成記』とは、俺達が住んでいるこの星、『
それによると、闇と光、火と水と大地の神々が協力して『天球』を作り出したとある。葦ノ原王国では幼い頃に読み聞かせる絵本にもなっているくらい、ポピュラーな話だ。
と言っても、今は魔法と同時に科学も発展し続けているので、星の成り立ちなどは科学的説明が既になされている。
それでも神話が否定されていないのは、この世には科学で説明しきれないことが、まだまだ山のように存在するからだ。
魔素や魔法術についてはその筆頭事項だ。
鏡子さんは『星成記』から何を知るべきと思っているんだろう?
その問いへの答えは直ぐに得られた。
「その中で、それぞれの神が使う道具があるでしょ」
「はい。闇の神は笛、光の神は鏡、火の神は杖を、水の神は方角石、大地の神は斧でしたよね」
「そうよ。その神器は今何処にあると思う?」
「それは、王宮内にある、
ま、俺も一応貴族の端くれだけど、生憎三男坊だから結界責務云々とは関係ないんだよね。
俺の答えに、鏡子さんは満足げに頷いた。
「そう、そうよね。国民はそう習い、それを漫然と信じている」
「あの、それが何か?」
「いえ、別に。神器はちゃんと斎蔵に保管されているから心配しなくても大丈夫よ。でも、これから話すことは最高機密だから心して聞いてちょうだい」
「······はい」
背筋を駆け上がる嫌な予感。
俺はもう、後戻りできないところへ引きずり込まれてしまっているのではないだろうか?
「飛鳥君は、古都、
「
「あの山の中腹には魔法で隠された秘密の通路があって、山の内側へと続いているの。ここは王の直轄地となっていて、限られた人しか出入りできないから、国民の大部分は知らない真実」
きたー、禁断の王家事情!
あれ? もしかして考古学資料室ってやばいところなのか?
葦ノ原王国を実は裏で牛耳っている裏ボス的な存在だったりして。
過去の遺物を整理するだけの仕事―――そんな風に、馬鹿にしていたさっきまでの俺を殴りたい。
「そこは不思議な空間になっていて、足元には神器を嵌め込む穴が、壁面は鏡で覆われ、天井はまるでプラネタリウムみたいなドーム型をしているのよ」
「あの、き、鏡子さんは実際に見たことがあるんですか?」
返事の変わりに艶やかな笑み。
「ただ、困ったことに、神器の形がちょっとばかり違うの」
「へ!?」
それって、もしかしてもしかしなくても······
確認するのが怖いけれど、聞かずにはいられない。思わず声を潜めて尋ねた。
「神器と言われている物は、実は偽物だったということですか?」
「偽物ってわけでも無いんだけど、鍵となる神器では無いって感じかな」
可愛らしく言ってるけど、要するに斎蔵にある神器は『星成記』に語られる神器じゃないって事ですよね?
それって大問題なのでは!
王権の失墜。詐欺罪。
不味い。これは非常に不味い問題。
ああ、だから他言無用でこんな秘密の部屋でしか語れない内容って事なんですね。
納得と戦慄。
こんな重い真実を抱えながら、うら若き鏡子さんは考古学資料室長を担っているなんて。
事の重大さに押しつぶされそうになったが、鏡子さんの助手に抜擢されたという誇りを思い出した。
「本物の神器を探すこと。それが考古学資料室の真の目的なんですね」
「御名答! 察しが良くて助かるわ。そのために、『星成記』と、後『
「『竜翔紀行』もですか」
「ええ。あれは単なる旅の記録じゃないと私は睨んでいるのよ。神器に繋がる情報が紛れているはず」
「鏡子さんがそう思われたのでしたら間違い無いです」
「うふふ」
嬉しそうに笑った顔は少女のようにあどけなくて、俺の心臓は再び爆音を奏で出す。
「飛鳥君、期待しているわ。じゃ、そろそろ帰ろうか」
もっと二人だけで居たいです、なんて言えるわけもなく。
鏡子さんが箱の壁をこんこんとノックすると、ぱあっと頭上が明るくなった。修蔵君がそうっと手を差し入れて鏡子さんを救い出す。今度は俺の番だと身構えたが、そのままぶわりと身体が伸びて元に戻ってしまったので、危うく箱を踏み潰してテーブルから転げ落ちるところだった。
直前に飛行魔法を唱えておいて正解だったよ。
「······」
不機嫌そうな顔で俺をひと睨みしてきた修蔵君。
あ、なーるほど。そういう事か。
着任早々、先輩の嫉妬をかった俺。
でもこの時はまだ、考古学資料室の本当の厳しさを分かっていなかったんだ。
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