第4話 解決策

「……えっと、冗談か何かですか?」

「冗談ではなく、本気で言っている」

「発情期って、その、発情期、ですよね?」

「それ以外の意味合いはない」


 念のために何度か確認して、結局それが事実であるということが分かってしまった。

 リッティアが呼び出された理由――それは、フェインが発情期を迎えたから。

 確かに、彼女は獣人で、時々耳や尻尾を触らせてもらおうことはあった。

 性格的にはあまり感情を表に出すタイプではなくて、いざ発情期、と言われてもイメージが湧かない。

 そもそも、そういうデリケートな話を――騎士団長とはいえ相談するものなのだろうか。


「その、相手に私を選んだっていうのも、よく分からないというか……どういう状況なんでしょうか?」

「獣人は非常に高い身体能力を持っている――その中でも、フェインはさらに突出した才能を持っていると言えるだろう」


 それは、リッティアもよく知っている。

 フェインは才能があって、だから聖騎士にも選ばれたのだろう。


「発情期を迎えて上手く処理ができないと、獣人もその能力を十全に発揮することができない――という話だ。稀な症状であるために、あまり知られていないことだが」

「そう、なんですね……」


 オーリエの説明を受けて、改めて実感する。

 呼び出された理由に嘘はなく、冗談でもないということ。

 リッティアは、フェインに必要とされて呼ばれたのだ――発情期を解決するために。

 だが、リッティアに何ができるというのだろう。


「一先ず、私からの説明はこれで終わりだ。後は、本人と話してみるのは早いだろう――ああ、このことはくれぐれも他言無用で頼むよ」

「それは、分かってます」


 当たり前だ――幼馴染の発情期、などわざわざ他人の口外するようなことでもない。

 ただ、重要なのは能力を十全に発揮できないこと――おそらく、こちらの問題なのだろう。

 今のフェインがどの程度の実力なのか分からないが、求められている能力に足りていない、ということか。

 そして、このままでは、フェインは騎士として務めることが難しい、とも取れる。

 ――だとすれば、協力した気持ちがあるのは確かなのだが。


「……この部屋だよね」


 一人で行った方がいいだろう、とのことで――教えてもらったフェインの自室までやってきた。

 この辺りになると、誰でも出入りできる場所ではないらしい。

 聖騎士というのは、騎士の中でも特別扱いのようだ。

 この中にフェインがいる――久々の再会だが、リッティアは少しだけ呼吸を整えて、いざ部屋のノックをしようとしたところで、勝手に扉が開いた。

 出てきたのは、リッティアより少し背が高くて、美人の女性。

 そう表現するのは、自分の記憶にあるフェインの姿より、遥かに成長していたからだろう――彼女は、扉を開けるや否や、リッティアに抱き着いてきた。


「……!? フェ、フェイン……?」

「うん、そうだよ、久しぶりだね……リッティア」


 すんすんっ、と何故だか頭の匂いを嗅ぐようにしながら、フェインはリッティアを強く抱き締める。

 力が強くて、引き剥がすことはできない。

 その状態のまま、フェインは言葉を続ける。


「ずっと、あなたに会いたかった。ここに来てくれたってことは、私の悩みを解決してくれるんだよね……?」

「な、悩みって……」

「わたしに、えっちなことしてくれるんでしょ?」

「――」


 何をすればいいのか分かっていなかったが、発情期に対する解決策というのは、つまりはそういうことなのだと、フェインの口から直接答えを聞くことになった。

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