第3話 最重要機密

 連れられてやってきたのは騎士団の本部――王国を守る要と言ってもいい場所だ。

 王宮すぐ近くにあって、田舎暮らしのリッティアからは慣れないものばかりであった。

 騎士団長室――さほど着飾れていない部屋で、リッティアは眼帯をした女性の対面に座る。

 長い黒髪の女性は、自身の目の前に置かれたカップを一口運んでから、


「私がオーリエ・バルトー。この王国騎士団においては、騎士団長を任せられている。君がリッティア・ベルロードだね」

「は、はい。お、お会いできて、光栄、です」


 さすがのリッティアも、騎士団長を前にしては緊張する――だが、オーリエは笑みを浮かべて、言う。


「畏まる必要はないよ。騎士団長と言っても、私は貴族ではないからね。騎士にも多く貴族はいるが――あくまで実力主義だ。だからこそ、君も知っているフェイン・ケルフェンは若くして聖騎士に選ばれた」

「……騎士団長様もお若く見えますが」

「ははっ、世辞はいいさ」


 世辞ではないのだが――あまり言いすぎるのもよくないのかもしれない。

 今は部屋に二人きりで、連名で呼び出されたはずなのに、フェインの姿はない。


「気になるか、幼馴染の様子が」

「! い、いえ、その――はい」


 いったんは否定しようと思ったが、事実だ。

 リッティアはフェインとの再会を楽しみにしている――彼女が、自分のことを覚えていてくれたことが何より嬉しいからだ。


「彼女は今、自室にいる」

「自室、ですか。えっと、それはこの建物の……?」

「そうだ――と言っても、本部のある聖騎士専用の部屋を使っているのは、彼女くらいのものだが」

「そ、そうなんですか。それで、えっと、本人は……?」

「ここには来ないのか、ということかな」


 オーリエの問いに、リッティアは頷く。

 呼び出されたのだから、何かフェインからリッティアに伝えたいことがあるのだと思ったが。

 すると、オーリエは神妙な面持ちで、口を開く。


「……ここからは王国騎士団としては最重要の機密になる。他言は無用になるが、いいかな?」

「! え、さ、最重要機密、ですか……?」

「ああ、そうだ。外に漏らすようなことがあれば――君を無事で返すことはできない」


 いきなりそんなことを言われてしまうと、リッティアも動揺する。

 それなら、話を聞かない方がいいのではないか――そう思ってしまうが、


「……フェインに関わること、ですか?」

「察しの通りだ。彼女が騎士でいられるかどうかについても、これからの話に関わってくる」

「……なら、聞かせてください」


 リッティアは迷わずに答えた。

 だって、そうだ――活躍している幼馴染が何か困っているのだとしたら、助けになりたい。

 それくらいの気持ちは持っているのだ。

 オーリエは少しだけ驚いた表情を浮かべるが、すぐにくすりと笑みを浮かべる。


「そうか。迷いのない、いい返事だ。さすが、あの子が自ら選ぶだけはある」

「……選ぶ、ですか?」

「回りくどい話はなしにして、まずは結論から言おうか」


 オーリエはそう言うと、再びゆっくりとカップの飲み物を口に含み、飲み干してから――言い放つ。


「フェイン・ケルフェン――彼女は獣人だ」

「はい」

「獣人には発情期というものがある、それは知っているかな?」

「はい……はい?」


 思わず、リッティアは聞き返してしまった。

 あまりに予想外の言葉を耳にしたからだ。

 発情期――確かに、獣人にはあると聞いているが。


「フェインにもきているようだが……それ以来、調子が悪い。本来、発情期は本人が解決する問題なのだ。だが、稀に本人だけでは解決できないものもある――一種の依存症、あるいは禁断症状と言えるものらしいが」

「えっと、何の話をしているのか……」

「言っただろう。最重要機密だと――フェイン・ケルフェンは発情期を迎えている。この状況を解決するために、フェインが選んだ相手が君だ」

「………………は?」


 今度は、開いた口が塞がらなかった。

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