第127話 力の記憶
【11月26日】
お久しぶりです!お待ちいただきありがとうございます…!
現在私の生活を圧迫している事象がだいたい来年の三月くらいまで続く見込みでして、大変申し訳ない話になってしまいますがそのあたりまでは不定期更新としてやらせていただこうと思っています。
どれくらいの頻度で投稿できるかを私自身が把握できないので調子が良ければ一週間で何話も投稿されたり、本当に難しくなれば最悪月1更新とかになってしまう可能性もあります。
ただやはり執筆しているととても楽しいので出来る限り投稿していきたいという気持ちはあるので気長にお待ちいただけると幸いです。
この作品が途中で更新されなくなるというのは私の自宅の地下にセントラルドグマがない限りはありえないので、かならず完結までは執筆することは確定していると思っていただいて大丈夫ですのでもしよろしければお付き合いいただければと思います。
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「あ、あぁああ…っ…うっく…」
胸を押さえて座り込んでいるリンカの口から喉奥に詰まっているかのような呻き声が漏れ出す。
さらには尋常ではない量の汗が全身から流れ出し、それを吸った地面の色が目に見えて変わっていた。
明らかに異常な何かが起こっている。
ウーは絡みついた糸を少しづつではあるが力任せに引き千切りながらくもたろうを睨みつける。
「おまえおねーさんに何をした!」
「…びっくりすること言うっすね。あまりにもシームレスな責任転嫁で驚いたっす」
くもたろうはやれやれと首を横に振り、ウーの横をすり抜けて苦しむリンカの方に向かって歩を進め始める。
「責任転嫁…?なにいってんの!おねーさんに近づくな!あーもう!ちょっと「タン」!でてきて!この糸どうにかして!ちょっと!聞いてるでしょ!タン!」
足が自由に動く状態ならば地団駄を踏んでいたのではないかと思うほどウーは怒りを面に出しながら誰かの名を呼んだ。
しかし状況に変化は訪れず、さらに顔を赤くさせ糸を排除しようとウーは暴れ続けた。
「はぁ…やれやれっすね。暴れながらでもいいからよく聞くっす。この子をこんな状態にしたのはあんたんさんっすよ、うさタンク」
「…はぁ?なにいってるの!ウーちゃんそんなことしてない!」
「その言葉は嘘ではないのでしょうっね。でも現実としてこうなってるっす。あんたんさん本当に一回も考えなかったっすか?なんでこの人がお嬢様の眷属でありながらその力を発現させることがなかったのか」
「なに…?何が言いたいの!」
「そのまんまっすよ。ニョロはどういうわけかこの子ならいけると踏んだらしくお嬢様に鱗を与えさせて新たな眷属とした。まぁアイツの事っすから小さくなったお嬢様に今度こそ問題が起こらないように戦力が欲しかった…とかそんな理由だったはずっす。ウチは不甲斐ないことに捕まってていなかったっすしね。でもニョロはそのあとはこの子に対して一切なにもしなかった。戦力として駆り出すことも、眷属としての力の使い方を覚えさせることも…そもそも自覚させることさえしなかったっす。それは何故か」
リンカの元までたどり着いたくもたろうが手を伸ばそうとした瞬間、リンカの口から赤黒い血が零れ落ちた。
その血は汗のように地面に吸い込まれることはなく、霧のように周囲に広がってリンカの周囲を覆い始める。
「はぁ…見ての通り、この子には眷属になる素質はあったっすけど…その力を扱いきれるだけの力はなかった。そーいうことっす。そもそも脆い人の身でお嬢様の力を受け止めきれると考える方が間違いっすよね。少し考えればわかるっす。一人例外がいたせいでニョロも忘れてたみたいで気づいたのは全部終わった後だったみたいっす」
「え…そんな…じゃあ…」
「そうっす。この子が力を発現させずにいたのは一種の自己防衛機能…それを解放してしまえばこの通りそれを扱いきれずに自壊を始めてしまう。だからこのこは無意識にその力を封印していた…なのにあんたさんがそれを引き出しちまったから見ての通りの惨状っすよ」
「ち、ちがっ…!あたしそんなつもりじゃ…!ただお友達が…」
「それもわーってるっす。あんたさんがウチラと仲良くし辛い理由も全部わかってるっす。ウチラはお嬢様が以前の姿だった時に力を受け取った眷属。今の姿のお嬢様とは人格は同じでもやっぱり力の性質は完全には一緒ではないのでっしょう?だから同じ眷属と言ってもなんとなく波長が合わなくて仲間意識をうまく持てないと。そしてあんたさんは同じ波長を持った眷属にそれを求めた」
「…」
「ならなおさらあんたさんはウチラの話を聞くべきだったっす。知らねぇのは仕方がねぇっす。生まれた時から全知全能な存在なんているはずがないっすからね。誰も彼も失敗しながらいろいろと覚えていくもんっす。ウチも昔は本当に何もできなくてできなくて…っとそういうのは一旦おいておいて、取り返せない失敗と言うのはそれでもあるんすよ。今回のがそれで…そしてこの失敗は簡単な方法で巻き返せるものだったっす」
眷属の事だったのだから、ただ一度だけくもたろうたちと話をしていればよかった。
くもたろうはそれをあえて言葉にしなかったがウーにもそれは理解できた。
「ま!でも安心するっす。なんやかんやで今回はぎりぎり取り返しがつくっす。今回の事で痛い目はみたでっしょう。ちゃんと自意識をもって会話ができていると言ってもあんたさんはまだまだ幼い子供のベイビーちゃんっす。ウチラの事が気に食わないのは感情の話でっすから仕方ないっすけど、避けるよりも利用したほうが賢い…そう言う気持ちでいる方が便利かもっすよということを覚えて次に生かすがよいっす。さてと」
くもたろうがしゃがみ、リンカと目を合わせて手を伸ばす。
だがその手が触れる瞬間、その腕に何十倍にも威力を増した静電気のような感覚が奔り、気が付けばくもたろうの手首から先がきれいさっぱりと消し飛んでいた。
「おほぉ…これは中々っすね。ほんとに扱いきれないってだけで適正は相当なもんだったんすねぇ」
くもたろうは糸をどこからともなく出現させ、自らの止血を行うと同時に衝撃の正体である黒い血煙を払いのける。
そして残った手でリンカの頭を赤子をあやすように抱え込む。
「落ち着くっす。大丈夫っすから落ち決ませうでっす」
「わ、わた…わたし…!たくさん…たくさん殺し…ころ、して…!」
「まだ誰も殺してないっす。ウチの手が吹き飛んだっすけど脱皮すればなおるっすよ。クモでっす故」
「ち、ちが…お、おお父様とお母様、が!…っ…!」
「あぁーなるほろ一回どこかで力を暴走させた経験があるんすね?そんでその時の記憶ごと封印していたと。んで引っ張られるように思い出してしまったと。そっちの件はどうしようもないっす。自身の事は自分で向き合うしかないっすからね。だけど今は切り離して考えるっす」
安心させるようにトン…トン…と一定のリズムでくもたろうはリンカの背中を叩いた。
「頭が混乱するのはその情報を処理できていないからっす。なら考えるのは一旦やめておきまっしょう。どうせいつかは処理されて受け入れるしかなくなるんっすから焦るだけ損っす。今は切り離すっす。その記憶と今の暴走状態は別の話っす。自分がかなりまずい状態なってるのは混乱してる頭の奥の方で理解できてるっすよね?そっちに頑張って目を向けるっす」
「ぼ、ぼう…そう…?」
「っす。このままじゃあ辺り一面を吹き飛ばしたうえであんたさんもやんごとないことになるっす。落ち着く…ただそれだけで大丈夫っす。飲み込めない記憶とは切り離して力だけに意識を向けるっす。大丈夫、お嬢様の力は強大ではありまっすが凶悪ではないっす。その本質は何かを傷つけるものではないはずっすその力を持つ眷属ならわかるはずっすよ。ボールみたいに勢いがついて跳ねまわってるだけっす。今のウチのように力を優しく抱え込むっすよ」
「…かかえ…こむ…」
しばらくするとリンカの周囲を漂っていた血煙の勢いが緩やかになっていき、すでに半分ほどはただの血に戻り、地面にシミと化していた。
リンカは落ち着きを取り戻し始めていた。
自分の優しくあやしているくもたろうの温もりに少しずつ冷めた心がほぐされていくように。
くもたろうは男であったが来ているメイド服の素材がよほどいいものなのか、ふわりとした感触がそこに男性の肉体を感じさせず…それがリンカにはかつての母を思い起こさせ…。
それが仇となった。
「お、おかあさん…し、しんで…全部私が…あぁああああああああああ!!?」
「っ!おちつくっす!こんな状態でそんな乱れ方しちまったら…!」
母に結びついていた記憶が意識の外に追いやられかけていた暴走の記憶を再び呼び覚まし、沈静化しかけていた血煙が空中の一点に集まり膨張を始めたのだ。
「やべぇ!ちくしょうっす!」
瞬きをする間に破裂寸前まで膨れ上がった血煙からリンカを庇うようにくもたろうは上に覆いかぶさり…血煙が爆発した。
周囲に響いたのは鼓膜すらも破らんばかりの轟音。
そして何もかもを弾き飛ばす巨大な衝撃。
それらすべてがくもたろうとリンカを飲み込んで────
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