第125話ウサギとクモ
【11月8日】
今後の投稿についてのお知らせを下部に後書きとして書いております。
目を通していただけると幸いです。
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ウーは地面を蹴って高く跳んだ。異常なほど高く。
いくら幼い子供の見た目故に体が軽いと言っても説明ができないくらいに何メートルも高く物理法則を虫いたかのように高く高く昇っていく。
だがウーはけして空を飛んでいるのではない。
あくまで脚の力で地面を蹴った…それだけだ。
つまりは込めた力の分だけ上昇すればあとは重力に従って地面に向かって墜ちていく。
いや正確に言うのならいまだ動かずにじっとウーの姿を見上げているくもたろうに向かって墜ちていく。
「ぷちって潰れてももんく言わないでよ」
「やってみろと言ったすよ」
「あっそ!」
空から迫る小さな足がくもたろうの立っていた一から数センチほど離れた場所に墜ちた。
その瞬間、衝撃により地面が揺れウーを中心に円形に凹んでしまった。
いくら高度を稼いだために落下の力が乗っていたのだとしても幼い子供がただ落ちたにしてはあり得ないほどのそれであった。
まるで体重などないかのように跳び上がり、常軌を逸した質量をもって落ちてきた。
ただ人化できるだけのウサギではない。
黒の色を持つが故の異常性を持っているのだ。
「…脅しのつもりっすか。わざわざすれすれで狙いを外すなんて」
「くもちゃぁん。これはね説得って言うんだよ?あたしはクモちゃんのことそこまで好きじゃないけど、ママのお友達だもん。力の差って言うのをさ?理解してもうウーちゃんにちょっかい掛けないって約束してほしいなぁ」
「なんか勘違いしてる見たいでっすけど力の差なんて見せつけられるまでもなくウチは理解してるっすよ。ウチなんて所詮は後天的にお嬢様の力の一部を貰っただけのただの魔物…それに比べてアンタさんはどこから生まれたのかは不明でも間違いなくお嬢様か黒龍様から剥がれ落ちた力から生まれた直系の眷属…んなもん比べるまでもなくウチの惨敗でっすよ」
「それが分かってるならさぁ~もうどっか行って欲しいなぁってウーちゃんは思うよ?」
「だぁから勘違いすんなって言ってるっす。力の差は確かにある。でもアンタさんとウチが戦った場合、勝つのはウチっす。まぁアンタさんにその意味は分からないでしょうけどね」
「いっらぁ~…じゃあもう…ちょっと怪我するくらいいよね?アタシちょっと怒っちゃったもん」
ブンと風を切りながらウーの小さな足が鞭のようにしなりながら蹴りとしてくもたろうに向かって放たれた。
まるで重さを感じさせない…あくびをしながら片手で止められるような蹴りにしか見えなかったが、くもたろうはそれを腰を折り、頭を下げて大げさにそれを躱す。
そしてカウンターとばかりにウーの身体を支えている片足に向かって足払いを仕掛けた。
本当ならばそれでウーは体勢を崩し、地面に倒れるはずだった。
しかしウーの足はその場に埋め込まれた金属製の太い柱かのようにびくともせず、逆に無防備となってしまったくもたろうに向かってウーは振りぬいた足を思いっきり地面に叩きつけた。
空を見上げるほど巨大な魔物が地面を踏みしめたかのような衝撃が地面を揺らし、舞い上がった土埃が周囲の景色を覆い隠す。
パラパラと小雨のように落ちてくる小石や土を無視し、ウーは今しがた自分が踏み抜いて陥没させた大穴をじっと見つめる。
未だ視界は確保できていないが、かろうじて見える足元からはくもたろうが着ていた服の無駄にひらひらとした装飾が覗いていた。
「…くもって脱皮するの?」
ウーが地面を踏みつけていた足を浮かせるとフリルにまみれたエプロンが土埃に乗って飛んでいく。
そこにくもたろうの姿はなかった。
「当然するっすよ。みんなそうやって大きくなっていくんす」
背後から聞こえた声にウーが振り向くとそこにいたくもたろうは裸…ではなく先ほどどこかに飛んで行ってしまったはずのエプロンさえ身に着けたままだった。
「どういうこと?」
「知らねぇんすか?蜘蛛は脱皮すれば千切れた脚すらも元通りになるんすよ。ウチにとってフリルとはなくてはならねぇ身体の一部。当然脱皮すればこうなるってもんすよ」
「わけわかんないですけどー」
「まぁ気にしちゃ負けっす」
当たり前の話だがくもたろうは先の攻防で突如として脱皮した…わけではない。
そもそも人化している状態では脱皮などできはしないのだから。
ならばいったい何が起こったというのだろうか?
ただ一つだけ言えることは「フリルは決して脱がない」。
それがくもたろうの持つ信念だという事のみだ。
「あっそ。じゃあくもちゃんが泣いちゃうまでその服を剥ぎ取っちゃおうかなぁ~?にっひっひっ。ウーちゃんは優しいから今ごめんなさいしてくれたら許してあげちゃうよ?」
「泣いてごめんなさいするのはそちらさんっす。まだ気づいてないっすか?自分の状況に」
「…?ってなにこれ」
土埃が収まり、ようやく周囲に景色が戻る。
すると真っ白な糸がウーの全身を絡めとるようにして巻き付いているのが見えた。
眉をひそめながらウーは身体を動かそうとするが、ちょうど関節部分を固定するようにして糸が巻き付いているためにうまく動かすことができない。
さらに見た目に反して糸自体にかなりの強度があるらしく、引き千切ろうとしてもギシギシと嫌な音をたてるだけでほとんど損傷しない。
そしてその糸は周囲の木々に繋がれているために移動もできず、まさに蜘蛛の巣に絡めとられた獲物と言う状態になっていた。
「ふーん…あの一瞬でこんなことできるんだ。凄いんだねくもちゃんって」
「おーそういうのはもっと声を大にして言うっす。誰からでも褒められるの好きっすよ自己肯定感が高まりまっすからね。自己肯定とは可愛さに最も必要な栄養素っす…っとそれよりもウチが言ってんのはアンタさんの事じゃあねぇっすよ」
くもたろうが人差し指をピンと伸ばしどこかを指差した。
ウーは僅かに動く首を動かしてその指の先を追っていく。
そこには地面に倒れ身体を丸めて苦しんでいる様子のリンカの姿があった。
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【あとがき】
ほんとうにすみません…更新がかなり間隔があくようになってしまっていますが、本格的にお休みさせていただこうと思います。
期間は一週間から一か月を予定しています。
理由はすこしリアルの方が忙しすぎて追い詰められてしまっており、執筆に割く時間と余裕が捻出できないためです。
この作品を楽しんでくださっている方を待たせてしまうのは本意ではないのですが、この肉体的にも精神的にも追い詰められている状況で無理やり書いても絶対に面白くはならないと思いますので少しばかりお待ちいただければと思います。
ただたびたび言わせていただいていますが、本当に現在忙しすぎて余裕がないだけで飽きたとか、書きたくなくなったというわけではありませんので早ければ1~2週間ほどで戻ってくる予定です。
この作品が完結しないまま消えるという事は私の家に衛星軌道上からサテライトキャノンが放たれない限りはあり得ませんのでそれまでお待ちいただければと思います。
いつも応援ありがとうございます。
感想やフォロー応援いいね等大変励みになっております。
もしお待ちいただけるのならばこれからもお願いいたします。
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