第117話 欠陥品の愛3
「まぁ~ちなみにぃ~ですが~やろぉと思えばできますよぉ」
「う?」
エクリプスが人差し指でそっとメアの頬を撫でる。
そこには先ほどからメアが口にしているお菓子の破片が付着しており、次の瞬間メアはそのままエクリプスの指ごとそれに喰いつく。
「…あのぅ~、痛いです」
「ごめんちゃい。それでなにがやろうと思えばできるの?」
「ぽいんぽいんにですよぅ。私ぃ~そういう力があるのでぇ~」
指を拭きながら何でもないことのようにエクリプスは言い切った。
「そうなの?ぽいんぽいんにできるの?」
「できますよぉ~ぅ。実際にソードがあそこまでむちむちなのは私の仕事ですからぁ~」
「ほぇ~すごいねぇ」
「でしょぉ~?まぁ~実際にはぽいんぽいんにする力ではなく、肉体操作の一環なのですけどもねぇ~。あんまり急にぽいんぽいんになるとぉ~違和感が勝つのでぇ少しでいいのならやってあげますよぉ~ぅ」
「うーん…」
少しだけ考えてメアは「じゃあ胸だけおねがいしまっす」と菓子を食べながら頷いた。
「ほいほい。ではでは~」
エクリプスが先ほど頬を撫でた指で今度はメアの胸元にそっと触れる。
そして――
「…おや?」
不思議そうに首を捻った。
「どうしたの?エクリプスちゃん」
「いえ…んんー…?えー…?メアさんそのお菓子ぃ~カロリーオフとかじゃぁ~ないですよぉねぇ~?」
「う?たぶん?」
「ですよねぇ~…?ならなぜぇ…?夕食後にぃ~異常なほどカロリーを消費する運動とかぁ~し~まぁ~しぃ~たぁ~?」
「うさタンクとお散歩はしてたけど?」
「うーん…その程度でぇあの焼肉分のカロリーなんて消費できないですよねぇ~…」
「???」
エクリプスはいつも通りの間延びした口調で喋ってはいたが、その顔には明確な困惑の感情が浮かんでいた。
彼女は触れた人間の肉体をゆっくりと、かつ僅かではあるが変化させることができる。
ただし通常の肉体では起こりえないことを起こすことはできない。
人間の爪を伸ばすことはできるが、鋭い獣の爪に変えることはできない。
また若返らせたり、老いさせたりという事も出来ない。
何のために存在しているのかよくわからない類の能力ではあるがエクリプス本人からしてみればかなり有用な力だ。
そしてその力が向けられるのは主にソードに対してであり、定期的にエクリプスはその力を行使していた。
高カロリーな食事をとった後に、余分に生まれる脂肪を操作して胸や尻、脚に盛っていき理想の女体に仕上げていく…それがエクリプスにとって至福を感じる時間の一つだ。
そしてメアにもほんの少しだけその力を行使しようとしたのだが…メアの身体には余分な脂肪がほとんどなかった。
当然脂肪が存在しないわけではない。
メアの身体は誰が見ても頷く幼児体系であり、太っているわけでは断じてないが幼子特有のぷにぷにとした身体つきなために脂肪自体は探さなくともそこにある。
しかしそれは子供にとっては必要なものであり、不要な脂肪ではない。
それを操作してしまうと身体に何らかの不調が現れてしまうこともあるために実質的にメアに力を使う事が出来なかったのだ。
しかしそこで疑問なのが、なぜメアに余分な脂肪が存在していないのかという事だ。
夜は常人では何日あろうとも消費できないだけの獣肉を使った焼肉であった。
それが脂肪に変わるのには時間がかかるが、エクリプスは身体に蓄えられた栄養を脂肪に変換することもできる。
だが…メアの身体にはそれすらなかった。
今この瞬間も砂糖が使われているであろう菓子を食べているのにもかかわらずだ。
どこにも脂肪もなければ、それに変換されるであろう栄養もないのだ。
「…龍の特性…?いやそれならソードにも同じことが起こっているはず…ならどうして…?そもそもこんな状態でどうやって肉体の維持を…?」
「エクリプスちゃん?」
「おっと…何でもないですよぅ~ただメアさんの身体はいじれないみたいですのでぇ~ごめんな~さぁ~い~ねぇ~」
「そっかぁ~まぁいいよ、うん。受け入れますとも…ちくせう」
計らずとも疑問と謎を得てしまったエクリプスはこれを報告するべきだろうかと思考を巡らせる。
(…聖龍様…セラフィム様には伝えておいた方がいいかもぉ…?なにか知っているかもしれないしぃ…何か良くないことの前触れならばそれをいち早く掴んだという事で私に対するあの方の心証が良くなるかもぉ…うん…そうしようぅ)
メアに対する心配半分にセラフィムに対する打算が半分。
ひとまず上司であり、ソードの母親であるセラフィムには報告することはどちらの意味でもメリットになるだろうと方針を決めたところで。
「ねーねーエクリプスちゃん」
メアから袖を引っ張られて声をかけられる。
そちらの趣味はエクリプスにはないが、可愛さ全振りのような見た目の幼子に袖を引っ張られながら上目遣いで声をかけられるとそこそこ心を動かされるものがあった。
「なぁんでしょぉ~ぅ?」
「つまりはエクリプスちゃんが妹の身体をあんなにぷりんぷりんにしてるってこと~?」
「ですねぇ~ぃ」
「…なんで?」
「趣味ですぅ。先ほどもチラッと言いましたが個人的な趣向としてわぁ~女の子なんてぇ健康的でムチムチな方が可愛いと思っていますのでぇ~おっぱいなんてプルンプルンしてる方がいろいろと――っと子供に聞かせるような話ではないでしたねぇ~ぃ」
「私そこまで子供じゃないよ?」
「またまたぁ~…ってそーいえばソードのお姉さんなんでしたっけぇ…あのぉ同じ女性という事で失礼をご容赦してほしいのですがぁ~…ぶっちゃけおいくつでぇ~?」
「うーん…年ねぇ…」
やはり龍でも年齢の話は嫌なのだろうか?エクリプスはそう思ったが、メアが微妙な反応をしているのは違う理由からであった。
「実はわかんないだよねぇ…100までは記念にって覚えてたんだけど…それ以降は年を数えるのも面倒になったというかどうでもよくなったというか…だから正確には何歳かわかんないだよねぇ」
「長命種特有の感覚ですねぇ~」
「うーん…ただ妹の年齢差と言うのなら…確かせーさんが卵を身籠ったって言ってたのが最後に住んでた山に引っ越して50年くらいたった時で…その前は確か100と…いや200?くらい数えてたはずだから…妹とはそれくらいの差があるのかなぁ」
「だいたいで150から250歳差ですかぁ~スケールが大きな話ですねぇい」
聞いてみたのはいいものの全くピンとこなかった。
「というかそもそもさー。なんで妹を女の子に?」
「…聞いてしまいますかぁそれを~」
「聞いちゃいけないこと?なら聞かないけど」
「んー…まぁ私の弱みに繋がる話なのでぇ~…しかしそうですね…ソードの身内に話さないというものダメな話でしょうしぃ~なるべく他言は控えてくれればうれしいという事ですこぉしだけお話しましょうかぁ~」
「うん。じゃあ言わにゃい。見た目通り口が堅いよドラゴンなので」
見た目通りならば餅のように柔らかいという事になるが、別にいいかとエクリプスは話し始めた。
「何度も言っておりますがぁ~実はこう見えても魔物の一種でしてねぇ~…分類的には淫魔となりますのですよぅ。知ってまぁす?主に人間のうっふ~んやあっはぁ~んな精気をご飯に生きている魔物なのですねぇ?だからこそ人を誘惑できるようにかなり人に近い見た目をしておるわけですょぅ」
「ふんふん」
「ほいでまぁ見ての通り女なのでぇ…男性から精気を頂くわけでしてねぇ~?当然私もそうなるはず…だったのですけどぉ~そこで問題が起こったのですよぅ」
「問題って?」
エクリプスはそこで大きく息を吸ってゆっくりと吐く。
今となってはそれほど気にしていることでもないが、当時の彼女をそれこそ死ぬほど追い詰めたとある問題。
口にしようとするとやはり喉の奥に何かが詰まったような気分になる。
ただエクリプスとしてはすでに乗り越えたと思っている問題故に、そのまま口を噤んでしまうのは負けた気がするので構わず続きを吐き出す。
「つまりぃ~…私は女性からしか精気を吸収できなかったのですよぅ」
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