第99話 使い切ってみる
粉塵爆発というものがある…らしい。
らしいというのは私がその現象のことをうまく理解していないからだ。
これは生前の母から昔聞いたことで、当時の血の気が多かった私は「爆発」や「粉砕」という言葉にとても惹かれた時期だった。
なのでその強そうな四字熟語に興味を引かれて母に何度も何度も質問を繰り返したものだ。
若気の至りと言うのかもしれない。
無邪気で可愛い子供時代が私にもあったのだ。
母も質問をすれば答えてくれはしたのだけど…どうもあの女、曖昧な知識で私に話をしていたらしく、聞くたびに内容が違ったのだ。
曰く粉に火を付ければ爆発する。
曰く空気中に舞っている粉に静電気が流れれば爆発する。
曰くなんか爆発する。
曰く、曰く、曰く。
何度も言うけれどとにかく血の気が多かった若かりし頃の話なので、今なら「そーなんだー」で流せるのだけど、当時はとにかくモヤモヤしたし、それが行き過ぎてイライラもしてきた。
そんな私がどういう行動に出たかと言うと…当然爆発させようと思ったわけだ。粉を。
別にセンドウくんみたいに研究に興味があったわけじゃない。
原理が気になって解明したいと思ったわけじゃない。
とにかく爆発をさせてみたかったのだ。
なので私はその日から粉を爆発させるべく行動を開始した。
母はできっこないとでも思っていたのか、あるいは私が爆発に夢中な間はある意味で大人しくしていたからか特に口出しはしてこなかった。
それをいいことにあらゆるものを粉状に摺りつぶし、火をつけてを繰り返した。
もうほんとうにいろんなことを試した。
そして私はすっごいざっくりだけど粉塵爆発とやらの原理を理解した。
火のつきやすい小さな粉を一定量の酸素濃度がある場所にばらまき、いい感じの火種を与えることで爆発を起こす。
そして粉から粉へ連鎖的に爆発が広がっていく。
正解を教えてくれる人がいないので間違っている可能性はあるけれど、とにかくこれで私は粉を爆発させることに成功した。
さて…ここで少し考えてほしいのはこんな技術を手に入れた私が次にどういう行動に出たのかと言うことでしてね?
…当然私はこれを母との戦いに応用できないかと考えた。
粉塵爆発は確かに面白いけれど、あくまで広範囲に爆発が広がるだけ…威力はそうでもない(圧倒的ドラゴン基準)なので母には傷一つ付けられない。
せいぜい砂埃で身体を汚せる程度だろう。
ならば実践に持ち出すにはどうすればいいか…そんなもの威力を上げればいいだけだ。
なので私はさらなる研究に没頭した。
結果、産み出してしまったのだ…とある必殺技を。
その名も「ドラゴン・エクスプロードコレダー」…超必ではなく必殺技である。
なぜ超ではなく、ただの必殺技なのかと言うと結局この技で母にダメージを通すことはできなかったから。
それでもこの技は大変な成果を上げてしまったので必殺技ながら超必と同じく封印指定されていた。
原理としては簡単なもので燃えやすい粉の代わりにどこにでもある魔素を使用し、魔法で火をつける…それだけだ。
魔素は魔力を与えることで指向性を持たせることができる。
水に向かせれば水に、火に向かせれば火にと魔力次第でどんなものにだって出来る。
そこに注目し、私は魔素で火を作り出すのではなく、魔素に着火性という指向性を与え直接燃やしたのだ。
火で燃やすという魔法ではなく、火を与えることで燃えるという魔法を作った…と言えばわかりやすいかもしれない。
空気中にいくらでも漂っている魔素…それが粉塵の役割を果たすようになってしまえばどうなるか…そんなもの考えなくてもわかるだろう。
火をつけた瞬間とんでもない広範囲がどかんだ。
もう一度言うけれど魔素なんて空気中にいくらでもある。
さらにさらに当時の私はほんとうにイカレていたので魔素に着火性の指向性を与える魔力を同時に放出することで爆発によって運ばれた魔力が、さらに広範囲に広がって本来なら力が届かない…範囲外の魔素をも変化させるようにしていた。
つまりは爆発が止まらないのだ。
少なくとも空気中に流した指向性魔力が尽きるまではどこまでも爆発が広がり続けることになる。
一度の爆発では母にダメージを与えることはできずとも、延々と爆発を続ければ何とかなるのではないか?という発想のもとに開発され、そして実行されたこの魔法は…結果として当時住んでいた山を消し飛ばす一因となった。
あくまでも一因だ。
他にもいろいろと重なった結果の悲劇だけれど、あれが引き金になったのは言い訳のしようがない事実です。ごめんなさい。
その後、母に死ぬほど怒られてご飯とおやつを抜きにされた挙句、超必と同じく封印指定されてしまいました。
さて…どうして私が現在こんな話を長々としたのかと言いますと…封印されていたこれを思わず使ってしまったからなんですねぇ!!
銀龍さんが私の前から飛んでいってしまった後、どうしようかと考えながら果物を食べていると「あの気配」がした。
例の呪骸とかいうあれだ。
瞬間ブチギレぷっつん。
果物を食べている最中だったというのが悪かったのかもしれない。
口の中にあの「まずい」感じが広がっていくような錯覚を覚えて…もう全てを振り切って現場に急行した。
そしていざ呪骸の気配がする場所に来てみれば…母のパチモンみたいなのがいた。
黒い靄で作られた…母みたいな姿の龍。
細部は当然違うけれど、人の要素がない龍の姿なんて母しか見たことないからそういう意味でも私の中の大切なものを汚された気がして余計に腹が立った。
あれはノロちゃんの身体の一部なのだし、あんまり悪く言うのは良くないとも思っているのだけど…どうしても冷静になれない。
あれだけは認めてはいけないと理性よりも強い本能が叫んで止まない。
頭に血が上りすぎて…血の気が多かった時代に戻っているかのような気さえする。
だからそれをぶつけようとしたところなぜか私の後ろの方で苦しそうに倒れている妹がそれを止めた。
なんでそんな苦しそうにしているのかとか、ぐったりとしているエクリプスちゃんはとカナレアちゃんにその妹ちゃんはどうしたのとかいろいろ気になって…でも怒っていて自分で自分がどういう状態なのかわからなかった。
妹の言葉もほとんど聞こえてなかったけれど、どうにも龍として戦うのはまずい…らしい。
誰かに見られてるとか。
…でもあの呪骸を…とにかくいい感じに叩きのめしたくてしょうがないのだ。
ノロちゃんの身体だから破壊はしない。
それくらいの理性はある。
でも…それでも壊さないギリギリくらいまでは追い詰めたい。
でも全力はダメだという。
誰かに覗き見されてるかもだってさ。
だからそのどこにいるかもわからない覗き魔さんを周囲ごと吹っ飛ばそうと思った。
そうして私は怒りのままに封印を破り、ドラゴン・エクスプロードコレダーを使ってしまった。
妹たちは巻き込まない、呪骸が壊れてはこまるのであの龍も巻き揉まない。
そう言う条件のもと範囲を指定してそれ以外は爆破した。
魔素を普通に火の魔法に変換することでその場の魔素を消費し、爆発の範囲から外す…それが最初に使ったフレアサークルの役割だ。
そうして怒りのままにやらかしたところで…やや正気に戻った。
「…やっちゃった」
派手にドカンとやったことでスッキリしたのかもしれない。
思考力が戻り、周囲に気を配れるようになった結果…よその国を大爆破したという暴君もかくやという自らの所業に汗が止まらぬ。
今からでもなかったことにできないだろうか。
出来ないですよね。
…家の壁に穴をあけたところではない。
さすがに銀龍さんに怒られてしまうかもしれない。
どどどどどどどどうしよう!?
「ゴギャアアアアアアアアアアア!!!!」
「ぴっ!?」
なんか目の前に黒いもやもやとした身体の龍がいて私に向かって咆哮をあげた。
なにしとるんじゃてめぇええええええ!と怒られでもした気分だ。
そう言えば呪骸の気配がするこれと戦おうとしてたんだった。
いやしかし困ったな…万が一でも呪骸が吹き飛んでしまったらノロちゃんが困るからって爆破範囲から外したのが良くなかったのかもしれない。
これは…困ったも困ったし不味いかもしれない。
あらためて説明するとドラゴン・エクスプロードコレダーは魔素を連鎖的に爆破する技だ。
つまりこれの使用後は一時的にだけど周囲から魔素が消失する。
本来ならどれだけ素早く呼吸をしようがその場から酸素がなくなることはないのと同じように、空気中に漂う魔素がなくなることなんてなく、すぐに空気の流れに乗って補充されていく。
だが…今は連鎖爆破させているところで私の流した魔力が尽きるまでは魔素は爆発し続ける。
つまりは補充されていくそばから爆発に変わるというわけだ。
と言う理由からもう数分ほど魔素は補充されない。
つまりは魔法やそれに準ずるものが一切使えないのだ。
…どうやって戦えと?
あまりにも不利ではないでしょうか。
だれだこんな理不尽な状況にいたいけなぷにぷにぼでーを追い込んだのは。
私ではないと信じたい気持ちだけは人一倍ある。
叫びながらこちらに向かってくる龍を見つめながら…私はどうしようかと考え続けるのだった。
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