第91話 引き抜かれてみる
「むぎゃー!?」
大爆発を起こした我が超必殺の爆風に私の身体は面白いほどに吹き飛ばされていく。
昔ならいざ知らず、今の自分が風が吹けば吹き飛ぶ貧弱幼女であることを忘れてしまっていた。
なんとか翼を使い、空中で体勢を整えようと努力したけれど間に合わず…私の視界は暗闇に包まれた。
…いや意識を失ったとかではなくて、たぶん飛ばされた先で積もっている雪に顔から刺さった。
冷たくて気持ちいぃ~…なんて言っている場合ではない。
はやく抜け出さなくては…と体に力を入れようとした瞬間…ずぼっと何者かに足を掴まれて雪から引き抜かれた。
気分は勇者に引き抜かれた伝説の剣だ。
しかし私を引き抜いたのはかっこいい勇者ではなく、狼みたいな見た目の銀髪のお姉さんだった。
「あ、どうも~」
「…」
この状況…不味いと思うのは私の勘違いではあるまい。
調子に乗って超必をぶちかました私。
その私の足を掴み、逆さに持ち上げているお姉さんこと銀龍さん。
この素材から出来上がる料理の名は「死」だ。
どうしよう…土下座をすれば許してもらえるだろうか。
しかし残念ながら今の姿勢から土下座は不可能だ。
やろうと思えばできるが足を掴まれて持ちあげられている状態で腹筋を使い、空中で土下座をすることになるために土下座にみえるのか疑問である。
私とてこれがガチバトルならばここから口から波動とか目からビームとか出すよ?
でもこれはあくまで話し合いの場につくための戦い…必要以上に本気になってしまうのは避けたい。
超必を撃ったドラゴンの言葉とは思えない?奇遇ですね、私もそう思いますよん。
「あの…どこかで行き違いがあったと言いますか、お互いの間に誤解のようなものがね?あると思うのですよ私は。なのでここは穏便にひとまずお茶でも…」
なんとか場をつないでみようとするも、おそらく次の瞬間に返ってくるのは無言かパンチだろう。
できればパンチの方でお願いしたい。
無言はどうすればいいのかわからなくなるので!!
そして銀龍さんからの返答は!!
「あなた…黒…の、なに…?」
言葉が返ってきた。
まさかのまさかである。
小声だし、途切れ途切れではあるけれど、綺麗で澄んだような声だった。
おっといけない。
びっくりしすぎてフリーズしてしまっていた。
何故かはわからないけれど、話す気にはなってくれたのだ。
こちらも会話をしなければ!
えーとなんだっけ?「あなた黒のなに?」…なにってなんだ。
黒と言うのは…母の事だろうか。
知り合いだったらしいし、私関連で黒と言うと私本人か、母の事しかないだろう。
だからたぶん銀龍さんは私が母のなんなのか…つまり関係を聞いているのだと推理してみた。
となれば返答は一つ。
「娘どす」
「むすめ…」
「あいむブラックドラゴンいずmusume。いえぁ」
「…でも…あなた…あか…かった…」
「あか?」
そう言えば銀龍さんが起きた時にもそんなことを言っていた。
どういうことなのだろうか?「あか」とは何を指すのか…「あかかった」と言うからには私の状態を見てそうなっていたという意味だと思うのだけど…。
やっぱり意味が分からない。
その時も否定したけれど「赤」が一番意味が通るのだけど…私は誰がどう見ても黒いはずだからあり得ない。
ならいったい…?
「むむ…?ちなみに今も「あか」?」
「…いまは…くろ…」
今はくろときた。
それじゃあやっぱりあかとは赤のことではないか。
…いやだから黒いけど…だめだ頭がこんがらがってきた。
「正真正銘、黒龍の娘ですん。信じて!」
「…銀シャリ」
「あえ?」
「…銀シャリって…それは…黒が…呼んでた…」
そこで私は突如浮かび上がってきた記憶のことを思いだした。
そうだそうだ思わず「銀シャリ」って口にしたんだった。
どうやら銀龍さんはお話モードに入ってるみたいだし、ちょっと母の記憶を探らせてもらうタイムにして頂こう。
そうして脳内検索をして母の記憶の中の銀シャリというワードを調べた結果、二つの記憶が引っかかった。
一つは食べ物。
端的に言うと酸っぱいお米らしい。
主に生魚の切り身を載せてみたり、各種食材を混ぜてみたりして「お寿司」というものを錬成するための素材らしい。
なにそれおいしそう。
ちょっと後ほどさらに詳しく調べてみる必要があるようだ。
しかしそれは一旦、おいておいて…置きたくないけど歯を食いしばってなんとか置いておく。
重要なのはもう一つの記憶。
どうやら母は銀龍さんの事を銀シャリというあだ名で呼んでいたらしい。
銀射龍…ぎんしゃりゅう…ぎんしゃり…銀シャリ。
母のネーミングセンスだけはどうかとマザコンの私も思う今日この頃。
いやマザコンじゃないですけどね。
「えっと…ドラゴンは親から記憶を一部受け継ぐので、その母の記憶にあった言葉をとっさに呼んでしまいましたん」
「…そう…黒は…?」
「あっと…母は数年前に寿命で…」
「…」
母の死を伝えると銀龍さんは逆さにして持っていた私をそっとひっくり返しながら地面に立たせ、優しい手つきで汚れを払ってくれた。
「あざます」
「…わ、る…いことを…した」
「う?」
「…」
何のことを言われたのか一瞬わからなかったけれど、おそらく襲われたことを言ったのだろうか?
だとすれば無茶苦茶やってしまったのは私だし、謝られるのは違う気もする。
しかし謝られてしまったのでわたしも「ごめんなさい」と頭を下げておいた。
「ところでなんで襲ってきたの?」
「…む――」
喋りつかれたのかただでさえ小声だった銀龍さんの声がほとんど聞こえないほどに小さくなった。
でも口の動きでなんとなくわかった。
むすめたちがいない。
そう言ったと思う。
状況から察するに目覚めると娘さんがいなくなっていて、その犯人を私と思って襲い掛かってきた…ということだろうか?
あっているのかはわからない。
赤とか黒とか言ってたし、私も誤解させるようなことを無意識にしていたのかもしれない。
コミュニケーションって難しいね。
しかし今はこうして会話ができている。
母の記憶がきっかけだったので、もしかしたら母が助けてくれたのかもしれない。
いまだに世話をかけて申し訳ないね。
しかし少しうれしくもあり…複雑な娘心と言うやつだ。
とまぁ無事に面倒事は解決という事でここに来た目的を果たそう。
みんな忘れてるかもしれないけれど、ここにはせーさんからの依頼できたのだ。
とりあえず妹も呼び戻して…。
「…!」
突然銀龍さんがぐりん!と勢いよく首を明後日の方向に向けて目を見開いた。
すごく遠くを見つめているような目だ。
「銀龍さんどうし――」
私が訪ねるよりも早く、銀龍さんは飛び上がり、目にも留まらぬ速さでどこかに行ってしまった。
「えぇー…」
一人取り残された私は呆然とその場に立ち尽くすしかなかった。
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