第90話 お披露目してみる
突然ですがみんなバリアーってなんだ?って考えたことはあるでしょうか?
当然あると思います。
私にもありましたので、えぇ…。
私が新たに開発した技を母にぶちかましたら「はいバリア~」ってされて悔しい思いをしたものだ。
そもそも皮膚もカッチカチでまともな攻撃が通らないのにもかかわらずバリアをわざわざ張ってくる意味が分からない。
なんなんだあの女。
と言った感じでもんもんとしつつも枕を涙で濡らしたものですよ。
ふっ…若かりし頃の恥ずかしい思い出と言うやつですな。
そんなわけで私は一時期バリアーってなんだよと考え続けたころがあったのですよ。
少し考えてほしい。
何もしていなくとも恐ろしく硬い外皮と魔法的なバリアー…力では突破できず、魔法的アプローチも難しい。
そんなでたらめな防御を突破するためにはどうすればいいだろうか。
私はとにかく考えた。
考えないことを信条としているこのブラックドラゴンこと私が考えに考え、悩みに悩み、ご飯を食べ…その末に一つの答えにたどり着いた。
――単純な力が通用しないのなら、圧倒的な力をぶつければいいのだと。
これに気が付いた時はあまりの自分の頭脳に震えたものだ。
自分はなんて柔軟な思考ができるのだろうと自画自賛をしたものだ。
あの頃の私は少しだけナルシストだったのかもしれない。
しかしどんな形であれ答えにたどり着いたのは真実。
よくよく考えてみて欲しい。
バリアーとはつまり魔法的、もしくは非物理的な盾のことだ。
何がどうあっても盾という事実は変わらないのであれば、限界はあるはずで…壊そうと思って壊せないはずはないのだ。
最強の盾などこの世にはない。
なぜなら見たことがないから。
ならば壊せる。
圧倒的な力をもってすれば何もかもを薙ぎ払う事が可能!
ちなみにこれは母の言葉だ。
バリアーを突破する方法はわかった。
なら次は?そう、実行である。
幸い私も気にしていたし銀龍さんも気にしていたのか、お互いにお墓からは離れるようにして戦っていたから巻き込んでしまう心配はない。
「というわけでお久しぶりに披露しませう!長らく封印していた超必を!」
超必…つまりは超必殺技。
私には7000と928(税込み)の必殺技がある。
しかしそれとは別の超必殺技と呼ばれるか隠し玉が存在するのである。
必殺技と超必殺技の違いは「母にダメージを与えられたかどうか」であり、当然ながら超必殺技は母に有効だったものとなる。
かつて山を一つ吹き飛ばしたのもこの超必殺技の余波であり、「お前それをよそで使ったら死ぬほど説教するからな?」と母に何度も念押しされたので封印していたのだ。
その封印を…いまここでちょっとだけ解く…!
ちょっと戦ってみた感じ、銀龍さんの反射バリアーはとても強い。
おそらくだけど「なんちゃって黒龍ブレス」も跳ね返されるだけだろう。
あれを反射されるとさすがに私側にもやんごとない被害が出そうなので下手な高火力技を使うべきではないと判断…さらにさらに母と旧知の仲というのならあれくらいでたらめな可能性もあると見て行動すべきだとも思う。
どちらにせよ戦闘不能にはなってもらわないといけないのだ。
殺す気…とは絶対に言わないけれど、倒すつもりではやるべきだ。
なにより久しぶりに撃ってみたい…!!
発散したいと言い換えてもいいかもしれない。
私はどれだけミニマムぷにぷにぼでーになろうとも母の娘…最強にして最大級の黒龍の娘なのだ。
たまには派手にドカンとやりたくなってしまうのだ。
はい!方針決定!即実行!
蓄えていたカロリーをすべて吐き出すつもりで全身から魔力を迸らせる。
くもたろうくんと戦った時みたいに魔素で真っ黒な翼と角に尻尾が構成されていく。
「く……ろ…?っ…!」
銀龍さんの方から飛んでくる氷柱がその勢いと数をさらに増した。
でも…もう味は覚えた。
銀龍さんに魔力を流し込んだ時に取り込んだ髪の毛。
あれから感じた味はこの飛んでくる氷たちを構成しているそれと同じだった。
覚えた味から銀龍さんの魔力を再現し、一部だけ氷柱の主導権を奪い、ぶつかり合わせる。
それですべてが防げるわけではないけれど、私に飛んでくるものは無視できるくらいには減ってくれた。
これがうまくいったという事は妹の時のことも考えると銀龍さんの龍としての力はこの氷の方…という事になる。
ならバリアーの方は?と思うけれど、今はどうでもいい。
溢れ出す膨大な黒い魔力を右腕の手のひらに集中させ、無理やり圧縮して小さな小さな玉を形作る。
私のミニマムハンドでさえ完全に握りこめるほどに小さいけれど、そこに込められた力はとんでもなく、こうして保持しているだけで腕が吹き飛んでしまいそうになる。
なのでその前に完成させなくてはいけない。
私が放つのはいくつかある超必殺技の中で最も一点突破力が高い技。
水も圧縮して小さな隙間から放出させれば恐ろしいほどの破壊力を生み出すように、この魔力玉も同様の性質を持っている。
今にも暴発しそうなドラゴンの魔力を、そこに集ってきた魔素をありえないほどに圧縮し、そこに小さな穴をあけ、さらに螺旋状の回転を加えることでドリルのような貫通力を持たせる。
「超必殺…ドラゴンスパイラルフルブラックビィィィィィィイイイム!!!」
私の右の手のひらから放たれた一本のビームが氷柱や氷塊…そして周囲の雪すらも消し飛ばし蒸発させながら銀龍さんのバリアーにぶつかった。
「あはっ!すごい…!やっぱり反射されてる!」
「っっっ…!!!」
母の外皮を突破しわずかとはいえ血を流させた技なのに銀龍さんのバリアーはそれを押し返そうとしてくる。
こうなれば根競べだ。
あのバリアーはどうやら力をのしつけて返すものではないようで、ほとんどの受けた力をそのまま返してくる。
つまり私がビームを維持している限りは拮抗し合って跳ね返ってくることはない。
そして拮抗している間にバリアーを割ってしまえばいいのだ。
私はさらに魔力を込めてビームをパワーアップさせる。
絶対に割って見せる!!ブラックドラゴンの意地にかけて!!
「…わ…」
銀龍さんが小さく口を開いた。
「我…こそは…「銀」…万の事象…塵芥を…拒絶する…反射の銀…銀射龍…シルバー…オブ…リフレクト…!」
龍としての名が先制されると同時にビームを拒むバリアーがその拒絶性を増したのが分かった。
一点を貫くはずのビームがバリアーに触れた瞬間から周囲に拡散し、その破壊の力が周囲に広がっていく。
雪の積もった大地が
廃墟のような建物たちが
周囲にあった何もかもが削れて崩れて消えていく。
まるでかつて山を消し飛ばした光景を再び再現しているようだ。
懐かしい…懐かしいなぁ!まるで母と一緒に楽しく遊んでいたあの頃に戻ったみたいだ!
そこでふと私の頭の中に突然とある記憶が浮かび上がってきた。
私の物ではない。
これは受け継いだ母の記憶だ。
母のことを強く思い出していたからだろうか?
その記憶とはたった一つの言葉…意味はよくわからない。
母の記憶なのだからさらに辿ればわかるかもしれないけれど…そんなことをしている暇はない。
訳も分からず私は頭に浮かんだその言葉を口にする。
「…銀シャリ…?」
「…」
それとほぼ同時に空間内で拮抗していた力が限界を迎え…雪を巻き込みながら大爆発を起こした。
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