第89話 VS銀龍さんしてみる

 あーこちら本日のナレーションをお任せいただきました、黒い龍…ブラックドラゴンの幼体ことイルメアです。

本日の天気は雪、時々氷柱(つらら)に氷塊なり。


これをお聴きの皆々様方は外出の際は傘をさすなどの自衛をもって安全に行動していただければと思います。かしこかしこ。


そんなわけで隙間なく飛んできた氷柱をドラゴンクローで叩き落とし、それでも隙間が空かないので口で受け止めてかみ砕く。


なぁ~~にが時々氷柱だよ。

ほぼほぼだいたい氷柱だよ!!


「ぬっぐ…ぬぉおおおおおおおお!!!?がりがりがりがりごりごりごりごりもぐもぐもぐもぐもぐあむあむあむあむあむ!!」


あまりにもでたらめな数飛んでくるものだから私も私でびっくりするくらいシャカシャカ手と口を動かしている。

これは大変だ…大変すぎる!


めちゃくちゃ動いているからどんどんカロリーを消費してお腹が空いていく。

これではジリ貧だ。

いずれやられる未来しか見えない…!


氷は美味しいのだけど食べた気がしないのだ。

どれだけ食べてもまったくエネルギーに還元されないと言いますか…お腹にたまらない。

なんでだろうね?銀龍さんのだからってわけじゃなくて氷ならなんでもそうだ。


凍っている食べものなら問題はないのだけど…。

実は氷以外にもたまにこうなるモノがあるのだ。

それが不思議で仕方がない。食べればお腹にたまるだろうにね?不思議だね。


「いやそんなこと考えてる場合じゃ、ないっ!!」


この氷柱地獄を何とかせねば…。


「銀龍さん!いったん…いったんでいいから話を聞いて!お願い!」

「…」


くそう!無言だ!話を聞いてくれようとしているのかいないのかしらわからねぇ!いや…氷柱は飛んできてるから徹底拒否の構えなのだろう。

目が怒ってるしね…。


なんで銀龍さんが怒っているのか…という疑問はこの際おいておこう。

私は考えてもわからないことは考えない主義だし、同時に少し考えればわかりそうなことも極力考えないようにして生きてきたのだ。


馬鹿の考え矢の如くデモクラシーって言うしね。


「となればやることは一つぅ~!」


このような事態の時は大体私が悪いって学習してきたので申し訳ないかもだけど、一撃与えて大人しくなってもらうしかない!

拳を交えることで生まれる友情もあると思うのです私は。


「というわけでごめんよ銀龍さん!あとでごめんなさいするからねっ!させてね!」


氷柱をクローで弾くと同時にドラゴンネイルを放って直線状の氷を薙ぎ払う。

氷柱を作っているのは銀龍さんの力によるものだけど、氷柱自体はただの氷だ。

壊すのは簡単だ。


だからそうやってできた隙間をドラゴン流アルティメットダッシュで駆け抜ける!

さらにさらに私の100(小数点切り捨て)ある必殺技の一つ、ドラゴンハンマーを直接叩きこむ!


説明しよう。

ドラゴンハンマーとは片手を魔素で覆い、長方形の形にぎゅっと圧縮することでとっても硬い四角を作り出して殴りつける技である。


かつて母の外皮を傷つけることが難しかった昔の好戦的な時代の私が「傷つけられないのなら脳とか内臓に直接衝撃を与えればいいんじゃね?」という考えから生み出した若気の極みだ。


ただまぁ結果はお察しで…母にまともなダメージは入らなかったけれど、唯一足の小指にヒットさせた時だけはマジギレさせたいわくつきの技でもある。


これを銀龍さんの頭に軽く当てて一瞬だけくらっとしてもらい、無力化して改めてお話する…これが最適解だ!


「いっけぇえええええええ!!」


氷の隙間を縫い、銀龍さんとの距離はおよそ数メートル…これならいけると飛び上がり、ドラゴンハンマーを振り下ろした。


ガキィ!と重たい音がしてハンマーからの衝撃が腕に伝わる。

確か私は何かを殴りつけた…そのはずなのにハンマーは届いてはいなかった。


「うぇ…?」


銀龍さんとハンマーの間に…何も見えないのに何かがある。

私はそれを殴りつけたらしい。


「これは…バリアー…?」


仕方がないのでもう一度殴りつけようとしたのだけど、腕を持ち上げると同時に私に銀龍さんの方からドンッ!と衝撃のようなものに襲われ吹っ飛ばされてしまった。


「うぐぐぐ…今の感じは…私の…?」


確実だとは言い切れないけれど、ハンマーに込めていた力をそのまま返されたように感じた。

ただのバリアーではなく…衝撃を反射されたという事だろうか?


「なら…っ!」


私は先ほどよりも力を込めてドラゴンネイルを放った。

先ほどまではなるべく怪我をさせないようにとセーブしていたけれど、確かめたいことがあるからそこそこ力を込めた。


ネイルは進行上の全てを薙ぎ払いながら銀龍さんに向かっていくけど…やはり届く前に何かに阻まれるようにして霧散してしまい…その数舜後に何かが私に向かって飛んでくる。


それを咄嗟に躱したけれど、わずかに間に合わなかったようで…何かが私の横を通り過ぎると同時に髪が少しだけ切れてしまった。


間違いない。

ドラゴンネイルをほとんどそのまま返された。

間違いなく銀龍さんは反射の力をもっているのだ。


…この銀聖域に来るときにあった結界の存在を考えてみてもおそらくそう言う系統の能力を持っていると見て間違いはないと思う。


妹とせーさんに学んだ龍が司る概念というものなのかな?


「でも…だとするとおかしい…」


私の攻撃を跳ね返したバリアーは間違いなく魔法じゃない。

それくらいなら見ればわかる。

だから龍の力だろうと予想しているのだけど…だとすればこの飛んできている氷は何だろうか。


原理は分かる。

空気中にある水分と魔力を流した魔素で凍らせ形作っているのだとは思うのだけど…それも魔法ではない。


やっていることは魔法のようだけど…うまく説明できないけど魔法を使う上で踏まないといけないプロセスを一切踏んでいない。


ご飯を作るときの「素材」を「料理道具をつかって」「調理」して「出来上がり」の真ん中二つの工程を踏んでいないと言えばいいのだろうか。

つまりまともな力じゃない。


だから私ははじめそれが龍の力なのだと思ていたのだけど…もう何が何だかと言う感じだ。

バリアーと氷…この二つを要する概念などあるのでしょうか…?

あー!訳が分かんなくなってきたー!!


「考えるな!感じるのよ私!」


為せば成る!森羅万象ありとあらゆる事象はなんやかんやでなんとかなるし、なるようになる!毎度おなじみ母の教え!!

私がいま理解しておけばいいことは氷が飛んでくることと、攻撃が反射されることだけ!細かいことは知らん!


そしてそれを突破する手段はただ一つ…!!

私は圧倒的なドラゴンセンスをもつ自分の頭脳が導き出したあまりにもインテリジェンスで確実な方法を実行に移すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る