第68話 人質にとられてみる

 ポーズを決めてドヤ顔のカナレアちゃんとに対し、それを崇めるかのように周囲の鎧の人たちが首を垂れる。


まだそう歳も重ねていないように見える女の子一人にたくさんの大人がそんなことをしている光景をいざ目の当たりに知るとなかなか面白いものがある。


初めて見たよこんなの。

…何か引っかかる気がしなくもないけど、おそらく気のせいだろう。


「…それでその巫女様とやらが僕たちに何の用なのかな」


妹が胸を揺らしながら一歩前に出て物怖じせずにそう聞いてくれた。

いやぁ妹がいると話が早くて助かりますね。

私はお腹が空いてるので現在は役立たずドラゴンです故に。


「そっちのちっこいのに用はないっ!この私ちゃんはお前にだけ用事があるのだよっ!」


どうやら私には何もないらしい。

なら先にご飯だけ恵んでいただけないだろうか。


ぐぅ~…。


ほらお腹なったったし…。


「…先になにか食べ物を貰えないかな。お金なら払うよ」

「ならこっちにくるといいよ!ちょうどおやつの時間だったのさー」


おやつとな!?それはぜひご相伴にあずからなければ。

私は妹の手を引いてカナレアちゃんの後に続いた。


そうして大きな丸いテーブルが置かれた小屋?に案内され、そこにはお皿に盛られたたくさんのお菓子があった。

戦争中らしいけど、いがいとこういうのは手に入るのかな?


「遠慮せずに食べたまえっ!私ちゃんに感謝しながらな!」

「わーい、いただきまぁす」


手近なところにあったクッキーを手に取って食べる。

うん…サクサクしてて美味しい。


強いて言うのなら中に何らかの毒…いや薬?のようなものが混ぜられてる味がするけど隠し味だろうか。

まぁ美味しいので問題は無し。

舌がピリピリするので痺れ薬的なあれだろうか。


「さてそこのおっぱい!」

「…僕?」


カナレアちゃんが大きな声をあげたがこの場におっぱいと呼ばれて該当する人物なんて妹しかいないだろう。


「そう!名はなんというのだー?」

「…ソード」


「ほう!私ちゃんほどではないけれどかっこいい名前じゃないかっ!気に入ったよ!」

「それはどうも」


「ところで今この国ではゲ…こほん、戦争が行われている。それは知っていてやってきたの?」

「そうだね、僕らはわけあって旅をしているのだけど、この国には珍しい教会があるって聞いたから是非一度見てみたくてね」


…教会?そんな話だっただろうか。

いや、銀龍さんがいる場所って意味なのかな?うーん?


「ほほう!この国には教会はないよっ!でもあれかな…「銀聖域」の話をしているのかな?」

「銀聖域?」


「うん、おか…この国に降り立った銀の神が住んでいるとされる神聖なる地のことなのだ!この国の中心に銀聖域はあって、結界が張ってあり普通では出入りができない」

「結界?誰がそんなものを?」


「知らん!いや、たぶん銀の神様だろうねー。人間と魔物がずっと騒がしくしてるから神様が怒って銀聖域を閉じてしまったんだ。だからこそっ!私ちゃんは魔物を滅ぼし、この国のすべてを人間の手に収めることで銀聖域を開いてもらおうとしているだっ!」


カナレアちゃんが立ち上がり、ビシッ!とポーズを決める。


その行動は謎だけど、つまりはその銀聖域にいる銀の神様とやらが銀龍で…せーさんがいっていた何故か入れなかった場所と言うのが結界がはってあるというその場所なのだろう。

そしてそれはやはり国の中心にあるらしい。


「どうしようか姉さん」


妹がっこっそりと耳打ちをしてきた。


「どうしようも何もまずはその結界がある場所に行ってみないとじゃない?もしかしたら無理やり入れるかも」

「…母さんが入れなかったらしいからどうだろうか。少なくとも僕には無理だと思うけど」


ふむん…確かにせーさんが入れなかったのならば正攻法で突破はできないかもしれない。

…一か八か食べられないだろうか?結界。

そんなもの食べたことないから味も気になるし。


「そこ!私ちゃんがかっこよく決めてるのにこそこそ話すな―っ!」

「あぁごめんごめん。とにかくその銀聖域?に行ってみたいけれどどうすればいいのかな」


「だから結界が張ってあるからいけないよ。それにあそこには近づけさせられないからね。どうしてもと言うのなら一つだけ方法がある」

「それは?」


カナレアちゃんがにんまりと玩具をみつけた子供の様に笑った。


「さっきも言っただろー?魔物からこの国を取り戻せばいいのだっ!つまーり!どうしてもと言うのなら私ちゃんに協力したまえ!ソード!」

「…それは僕にキミたちの味方をして魔物と戦えという事かな」


「そう!その通り!聞いたぞー?聞いちゃったぞー?ソードめちゃくちゃ強いんだろー?その力!私ちゃんに貸しておくれっ!そうすれば魔物の領地を奪いたい放題だ!」


なんだか話がおかしな方向に転がりだした。

ほらーやっぱりめんどくさいことになったじゃん~…誰だよ付いていこう言ったやつー…私でないことはおそらく確かだ。


「残念だけど断るよ。言ったけど僕らは旅をしているだけなんだ。戦争に参加するつもりはないよ。銀聖域とやらの場所を教えてもらえれば勝手に見学して勝手に帰るよ」

「ふっふっふー。こちらも先にもいったが銀聖域は特別な場所…素性も知れぬし見方でもない奴らを近づけるわけにはいかんのだっ!」


「キミたちも言っていたように僕は強いよ。無理やり押し通ることだってできる」


まぁ妹がちょっと頑張ればこの場から逃げ出すことなんて簡単だ。

でもカナレアちゃんがそこそこ余裕そうに笑っているのが気になるところ。

何かあるのかな?と痺れ薬入りクッキーをサクサクしながら考えてみたけどわからない。


そうこうしていると鎧を着た人の一人がなぜかカナレアちゃんを立ち上がらせて小屋の外に連れていく。


「む?なんだー?」

「この者たちの説得は我々が…巫女様は隊の者にお声がけをお願いします」


そして入れ替わりで小屋に入ってきた鎧集団が私と妹を取り囲む。


「…これは何なのかな?」

「そちらの妹君の菓子に薬を入れさせてもらった」


え?!妹のおやつに薬が!?…いや、なぜそれを妹に言っているの?妹に薬を盛ったというのなら私に言うべきなのでは?


「…妹?」

「ああお前たちは姉妹なのだろう?ならばそっちの小さいのは妹のはずだ。そこまで強い薬ではないが幼い子供には少々危険かもしれんぞ」


なんてこったいシスターコンプレックス。

私まさかの妹だと思われてた。

お姉ちゃんなのに。

これはショックだ…ハートブレイクドラゴンだ。


「…どういうつもりかな?」

「取引だ。妹を助けたければ我らが巫女様の提案を受け入れ、汚らわしき魔物と戦う戦力となれ。家族を失いたくはないだろう?」


…どうやらほんとうにめんどくさいことになってしまったようだ。

それにしてもクッキー美味しい。

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