第67話 巫女様にあってみる

私と妹は今よくわからないことになっていた。


襲ってきた魔物を妹がバッタバッタと薙ぎ倒したのちに今度は数人の人間たちがやってきた。

人間さんたちはみんな、同じような銀色の鎧を着ていて周囲の魔物たちを一瞥すると先頭にいたオジサンが私たちに声をかけてきた。


「これをやったのはキミか?」


キミ…キミたちではなく個人を指しているのでどちらに声をかけられたのか一瞬分からなかったけれど、オジサンの視線は妹に向いていたのでおそらくそちらに声をかけたのだろう。


「そうだね。というかここに駆けつけてきた速さからしても状況は見ていたのでは?」

「…ここいらでは見ない顔だな。いや、「我らが」国内でも初めて見る容姿だ」


オジサンをはじめその後ろにいた人たちも妹のあまりにもあんまりな格好を見てそんなことを言った。


でしょうね!こんなおっぱいそうそういないよね。

おっぱいから逃れてもお尻がやってくる二段構え…いや、ふっとい脚もあるから三段構えかもしれない。

よう育ちおってからに妹め。


昔の私だって此処までではなかった…いや、スラーッとしていたので妹の中のせーさん遺伝子が強いのだろうか。

うむむむ…。


「あぁ僕らは旅人でね、先ほどやってきたばかりなんだ」

「…なるほど。しかしここがどういう場所なのかわかっているのか?現在この国は汚らわしき魔物が闊歩しており、それを討つために緊迫状態が続いている。おおよそ旅で立ち寄るような場所ではない。ましてやそのような幼子を連れてな」


オジサンが私を険しい目で見つめてきた。

幼子ではあるけれど、私はその子の姉なのよー。


「ははは、知らなかったんだ、忠告ありがとう。ではこれで」


妹が私の腕を引いてその場を立ち去ろうとしたのだけど「待て」と引き留められる。


「なにか?」

「我らが「巫女様」がお前に会いたいと言っている。すこしばかり同行していただきたい」


どうしよう…めんどくさくなる気配が凄い。

めんどくさくなる気しかしない。


妹と「どうする?」とお互いにアイコンタクトをとってみるけれど、やはりどうしても厄介ごとになりそうな気がしてならない。

私たちの目的は銀龍さんに合う事…ならここは丁重に断って…。


ぐ~っ。


おっとお腹がご機嫌ななめだ。

こんな状況下でも空腹を訴えかけてきおったわ。

はっはっはっこやつめっ!


「…少しばかりだが食事も用意しよう。どうだろうか」

「いきましょう」


私は二つ返事で了承した。

となりから妹のため息が聞こえてきたけれど、先ほどありつけるかと思った食事を妨害したのは妹なのだ。

これくらいは許してほしい。

ご飯がないと私はダメになるんだ。わかっておくれ。


と、そんなわけで私たちは現在、鎧を着た人間さんたちに囲まれたまま荒れている道を行進していた。

途中人間さんの一人が子供にはきついだろうからと抱っこをしてくれた。


断ろうとも思ったけれど、まだ距離があるのなら私が疲れずに歩けるというのもいらぬ疑念を与えるかもしれないという事でされるがままだ。


ちなみにだけど銀神領に入るのと同時に髪を後ろでくくって大きなフードを頭から被っているので黒髪は見えていない。

私としては隠したくはないけれど、まぁ仕方がない。


そしてずっと無言な空気に耐えられなかったのか、それとも暇になったのか妹がふと口を開いた。


「あとどれくらい歩くのかな」

「数十分ほどだ。我々は先ほどの魔物に奪われた地を奪還するための作戦を遂行中だったのだが、そこにキミたちが現れ、あの場を占拠していた魔物たちを倒していた…という次第でな」


「なるほどね」


この人間さんたちはあの後、一匹一匹丁寧に動けなくなった魔物たちを殺して回っていた。

せっかく妹が殺さなかったのにと思ったけれど、さすがに事情も知らずにそんな綺麗事は言うべきではないよねということで妹と口は出さないことにした。


私にとっては人間も魔物も差はなくて、どちらも等しく命だから思うところはあるけどね。


「それでその巫女様というのは?」

「巫女様はこの地において銀の神が祝福を受けた最も尊いお方だ。あの方が立ち上がり、御旗になってくれたからこそ、我々人は魔物と戦うことができるのだ」


再び妹と目を合わせてアイコンタクト。

銀の神…それはもしかして銀龍さんのことだろうか?


もしそうならその巫女様から話を聞くことができれば何らかの情報を得ることができるかもしれない。

そもそもせーさんの話では銀龍さんはいるかいないかもわからないのだ。


そこを確定させる意味も含めてやはり人間さんたちについていくのは得策だったのではないだろうか。

よくやったぞ私の胃袋。


やがて人間さんたちに連れられ、私たちは小さな…村?たぶん村にたどり着いた。

そこからさらに歩いていくと小さな村には不釣り合いなほど豪華なでおおきな天幕に覆われた台座があった。


なんとなくだけど黒神領の私が教徒たちに囲まれながらご飯を食べているあれに似ている。


そして――


「ふはははははー!よくきたな!歓迎するぞ旅人どもめー!」


そんな元気の有り余っているような大声を携えて台座の上に現れたのは銀色の衣装が施されたローブを纏った赤い髪の女の子だった。


「ご紹介します。彼女こそ銀の神が守護せし地にて我ら人間を導きし銀の巫女――」

「そう!私こそが!偉大な私ちゃんこそが!聖なる銀にして闇を切り裂くスーパーガール!その名もカナレア・セレナーデ!私ちゃんのかっこよさひれ伏せっ!」


ビシッ!という効果音が聞こえてきそうなほどキレのいい動きでポーズを決め、赤髪の女の子はそう自己紹介してくれた。


なぜ顔に手を当てて指の隙間から目を出してこちらを見ているのか…よくわかんないけれど愉快な子であるのだけは分かった。

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