第66話 ご飯を探してみる

――前回のあらすじ。

町にたどり着いたよん。終わり。


「ついたはいいけど…なんか変な感じだね?妹よ」

「そうだね姉さん。弟だけど」


たどり着いた場所は見た感じだけで言うのなら結構大きくて広くて立派な町に見えた。

でもなんと言いますか…寂れてる?


そこらじゅう荒らされてるし、穴が空いて崩れかけてる建物とかあるしで、なにかあった感が凄い。


「…ちょっと危ないかもしれないし、僕から離れないようにしてね姉さん…姉さん?」


遠くの方で妹の声が聞こえた気がしたけれど、私は視線の先にあった食べ物屋さんらしきお店が気になって仕方がなかったので話を聞くよりも先にそちらの方に吸い寄せられた。


「だれかいますかー」


お腹が空いたのでご飯を売ってくださいな。

そう声をかけてみたけれど、誰もいなくて…しょんぼりドラゴンである。


あ、でもお店の奥の方にお菓子とか果物とかが散らばってる。


くんくん…匂いからしてそこそこ長い間放置されてて熟成が進んでいる感じだ。

…お金置いておけば貰ってもいいかな?


黒神領では黒くなった果物とか食べようとするといろんな人に怒られるのでこんな時くらいは食べてみたかったり。

旅行気分ってやつだよね。


アザレアはもちろん、センドウくんも怒ってくるし、教徒の皆さんにもすっごい怒られる。

意外なところではウツギくんにも怒られる。

もうほんとすっごいみんな怒ってくる。

人間の世界では食べると怒られるものがある…メア覚えた。


「でも今は誰もいないからいいよね~お邪魔しまぁす」


誰もいないお店に不法侵入。

もはや旅行気分では言い訳できないかもしれないけれど、誰もいないのだから仕方がない。

お金は大目においていくから許してくだちぃ。

お腹が空いているんです。


「ぬきあっし、さしあっし、しのびあっしー」


そうやって私が散らばっている食べ物に手を伸ばした時だった。


「ぎしゃぁああああああああ!!!!」


物陰からなんか出てきた。

なんと言えばいいのだろうか…人型なんだけど、顔が虫だ。

魔物さんだろうか。


それが奇声をあげながらたぶん襲い掛かってきてる。

いや…あんまり勢いとかないし、遊んでほしいのかもしれない。


でもごめんよ。私は今お腹が空いているのだ。

知らない人と遊んであげる余裕はない。


「ほいっとして、てーい」


適当に魔物を掴んでお店の外に放り投げた。

思いのほか力が入ってしまっていたのか魔物さんは壁を突き破って想定より遠くに飛んで行ってしまった。


…まぁ多分死んではいないでしょう。おそらく。

そんなことより食べ物を…。


「姉さん何をやってるの…」

「およ」


騒ぎを聞きつけてしまったのか妹がやってきて、私の腕を掴んだ。


「まさかとは思うけれど「それ」を食べようとはしていないよね?」

「…泥棒はしないよ?ちゃんとお金は…」


「そう言う問題じゃないよね。悪食はダメだってあれほど言われてるよね?」

「あのね妹よ。悪食なんて言葉はおかしいと私は思うの。そもそもこの世界にある森羅万象はね何をどうやっても美味しく食べられるの。さらにそんなか、これらは食べられるためにこの世界に産まれてきた子たちなんだよ。だから食べてあげるのが食物に対する礼儀であり、正しい在り方なのね?それを自覚しているからこそ私はどんな状態であれ、食べてあげるべきだと思う…ううん、むしろこんな状態になったからこそ食べてあげないとかわいそうだと思うの。見た目が悪いかもっていうのはなんとなく理解できるよ?でもだからって差別するのは良くないよね。みんな違ってみんないい、みんな美味しくてみんないい。そこに貴賤はないの。食べ物は美味しく食べるためにそこにある。そして私はご飯をおいしく食べるためにここにいる。だから私がこれらを食べようとするのは当たり前のことで、当然のことで世界の摂理として正しい事なの。多少黒くなってるからってなんでもかんでもダメって言うのは暴論だよ。そもそも人間の世界にはわざと腐らせることで一つの料理にするものもあるんだよね?だから悪い事じゃないんだよこれは。少なくとも一方的にダメだって言われて止められるのはおかしいと私は思って――」


「アザレアたちに話したら戻ってからご飯抜きにされるかもね」

「ごめんなさい」


私は良い子なので悪いことをしたらすぐに謝れるのだよ。

だからほめて伸ばしてほしい。

具体的にはおやつをくれ。


「そんなことより姉さん、気づいてる?」

「んみゅ?」


「囲まれてる」


妹に腕を引かれながら外に出るとお店の周囲はいつの間にか多種多様な魔物の皆さんに囲まれてしまっていた。

なにやら全員殺気立っていて、種類によってはカチカチと威嚇のような音を出している個体もいる。


「むむむ…ここって魔物さんたちの領地だったって事?」

「いや…というよりも人の住処を襲撃して奪った感じに見えるね」


なるほど。

だからこの辺りは寂れていたわけね。

一昔前の黒神領よりも荒れているもの。


「どうする?私が行こうかー?」

「ううん、ここは僕に任せて。姉さんの手を煩わせたりはしないよ。それに姉さんの悪い癖が出ると困るからね」


…実は戦うことを口実に魔物さんから体の一部をいただこうとか考えていたけれど、バレているらしい。

くそぅ…優秀な妹め…。


「…ふぅ…これあげるから少し我慢して」


そう言って妹は携帯食料を渡してくれた。

いや…さすがに妹のものを奪おうとまでは考えてないのでこれはこれで困る。


「僕の分はまだあるから」

「…そういう事なら」


行為に甘えて封を開き、中に入っていた四角い保存食をモグモグと食べる。

うん、おいちぃ。


「さて、じゃあ少し待っててね」

「がんばえー」


もぐもぐしながら応援してみたけれど、正直応援なんていらないだろう。

だって周囲の魔物は弱いもん。

たぶん昔のくもたろうくん一人で殲滅できるレベルの弱さだ。


結局私の想像通り、妹はお得意の剣を使うまでもなく素手で周囲の魔物たちを黙らせてしまった。

一応は殺してないみたいだけど…そこそこ大変なダメージを追っているように見える子もいるのでお大事にしてほしいところ。


そんなこんなでこれからどうしようかーと妹と話していたところ数人誰かが近づいてくるような気配がした。

そうして現れたのは…今度は人間たちだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る