第65話 銀神領に入ってみる

 せーさんゲート(私命名)を通り抜けてたどり着いた場所は…寒かった。


雪が積もってるし、流れている風は肌を撫でるところか切り裂いていくんじゃないかってくらいに刺々しい。


「なんで急に冬になったの」

「あぁ銀神領は年中雪が降り続けてるんだ。だから外から旅行に来るときは防寒対策をしてこないと危ないから気を付けてね姉さん」


「先に言わんかーい」


なぜたどり着いてから言うのか。

いや、正確にはせーさんゲートがつながった場所は国境ギリギリ?のところらしいのでたどり着いてはいないけどもさ。


でも絶対に今のタイミングで言う事じゃない。

まぁ別に寒くても平気なんだけどさ。


山に住んでた頃も冬は雪が降ってエライことになっていた中、私はお腹を出して寝ていたよ。

それくらい寒さには耐性がある。


「妹は大丈夫なのん?」

「うん。これくらいなら大丈夫。あと弟だよ」


妹も大丈夫なようなのでひとまず銀神領本土を目指していざ出発。

身体が小さいからか、雪を踏みしめるムギュッムギュッという感覚があの頃よりも大きめに伝わってきて少し楽しいかもしれない。


「それにしてもさ妹よ。寒いとあれだね~」

「あれ?」


「お腹がすくよね」

「…あぁ、うん」


熱を生み出そうとして身体の代謝が上がるからだろうか。

まぁとにかくお腹がすく。


しかし準備のいいドラゴンである私は少ないけれどおやつをバッグに詰めてきたのでこういう時にも対応できるのだ。

ふはっはっはっは、寒さなどおそるるに足らず。


「もぐもぐ…」

「もう何か食べてる…」


「お腹がすいたら食べないと。妹もおやつ食べていいんだよ?もってきた?」

「緊急用の保存食くらいは持ってきたよ」


そう言って妹は手のひらより少し大きいくらいの箱に入った四角いモノを見せてきた。

…足りないでしょそんなんじゃ。

おやつにもならないよ…。


「…もっと食べないとだめだよ?健康は食からだよ」

「姉さんは食べすぎだと思うけどね」


普段から暴飲暴食をしないことを心掛けている健康的腹八分目ドラゴンの私に向かってなんてことを言うのか、このおっぱいは。

おっと間違えた、妹は。


というか妹はいつの間にかいつもより厚着になっているけれど、それでもやっぱり胸とおへそとふとももは露出しているので防寒的意味があるのかさっぱりわからない。

なんならお尻も上半分は見えてる。


まさにファッションの基本、おしゃれは我慢…という事なのだろう。

うんうん、誰にもこだわりってあるよね。

私は否定しないよ。


あ、お菓子の包み紙おとしちゃった。

ポイ捨てダメ絶対。


「おや…姉さんが消えた…?おーい!ねえさーん!?」


なにやら頭上で妹が叫びだした。

消えてないよしゃがんだだけだよ。

なんでそれだけで見失うのさ…と呆れながら上を見るとあら大変。


なんと妹のお胸様で空が見えないではありませんか。

という事は妹からも私は見えていないわけで…冗談抜きでこやつ私の絶壁の1000倍くらいあるんじゃなかろうか。


そんな愉快な事件もありつつ、だいたい5時間ほど歩いて私たちは銀神領にたどり着いた。


たどり着いたらしい。

らしいというのは特に周囲の景色が変わっていないので、私にはよくわからないのだ。

しかし降っている雪に、積もっている雪も量は増えてきているのでそういう意味では変化はある…あるけど、どう見たってまだまだ森だ。


銀色の森…うん、綺麗。


「それで?目的の場所はどこにあるのー?」

「母さんが言うには銀神領の中心に銀龍はいる(かも?)らしい。だからこのまま中心に向かって進んでいけばたどり着くはずだけど」


「ふんふん。結構歩いたけどまだ平気?」

「大丈夫だよ。姉さんこそ大丈夫なの?おぶっていこうか?」


「んまっ、姉に向かってなんて生意気なっ。でも正直限界だよね」

「おや…ふざけたつもりだったんだけど、やっぱり疲れた?ならどこかで休憩を…」


「いやいや、疲れたんじゃなくてお腹が空いたの。おやつ無くなっちゃった」


ノロちゃんが超技術でカバンに詰め込んでくれたおやつもすべてなくなり、随分とやせてしまった。

私もお腹がすきすぎて瘦せてしまいそうだ。


「あんなにいっぱい持ち込んできてたのにいつの間に…僕なんだか怖くなってきたよ」

「そうだね、おやつが無くなっちゃうのは恐怖だよね…。どこかで補給できるかなぁ?人がいる村とかある?」


「…あるとは思うけど一つ問題があるんだよね」

「問題?」


「この国は人と魔物が戦争を続けてるって話したでしょ?んでざっくりと言うと銀龍がいるとされている場所…この国の中心に線を引いて左右で人と魔物の住処が分かれているんだけど…このまままっすぐ行った場合にどっちの領域に入ってるかわからないんだよね」

「ほほう?せーさんからそう言うの聞いてないの?」


妹はふるふると首を横に振った。


「意外とそういうところ抜けてるから母さん。まぁ聞かなかった僕も悪いのかもしれないけど…まぁだからお菓子を補給したいのなら運よく人間の領地に当たることを祈らないとダメかもね。魔物がどれくらい自らの領地を発展させてるのか未知数だけど…お菓子とかは期待できないかもだから」

「ふむふむ」


それならぜひとも人間たちのところに当たってほしいけれど、魔物なら魔物でくもたろうくんみたいに足が一本くらいなくなっても生えてくる子とかいるだろうし、頼めばくれるんじゃなかろうか。

にょろちゃんも脱皮した皮とかよくくれてたし。


そんなこんなで私たちはそこからさらに数時間歩き続け…ようやく町と呼べる場所にたどり着いたのだった。

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