第16話 おねだりをしてみる

 アザレアが落ち着いたところで改めて事情説明。かくかくしかじかでうんたらかんたら…。


「そ、そう…つまりメアたんはクロロのお友達だったのね…?」

「うん」


今更だけど、どうやらクロロと言うのはニョロちゃんのことで、このおうちでお世話になることになった時に付けてもらった名前らしい。

まぁ喋れないから自分ででニョロちゃんですって言えないしね。


「………え…?説明終わり?」

「うん」

「――」


説明は必要最低限…いや、必要分を明らかに下回っているような気がしないでもない。

いや私としては全部話すべきだとは思ったのよ?でも龍の事とかを話そうとすると、私の身体に巻き付いているニョロちゃんが止めてくるから喋らないほうがいいらしいという事で黙っていることにした。

よくわからないけれど、ニョロちゃんが止めてくるという事はそれなりの意味があるんだろうからね。

お世話になってるんだしいつかはちゃんと話したほうがいいとは思うけどね!


「せ、せめて一つだけ教えてくれないかな…?メアたんはその…人間なの…?」

「たぶん」


心はドラゴン…でも身体は今のところ人間のような気がする。

少なくともドラゴンボディーではない。

なんて言えばいいのかな~…身体が小さいだとかそういうんじゃなくて、純粋に「違う」って感じるんだよね。

身体を動かしている感覚が明らかに違う。

特徴からしても今の私の身体は人間…だと思うんだよね。


「そっそっかぁ…うん、ならいいのかな…?人間の子供がこんなに成長が速いはずがないとは思うけれど、小さなことよねそんなもの。メアたんが可愛い…それだけが真実…というかそもそもちっちゃいこににょろにょろとしたものが巻き付いてて…そっちの方が気になってそれどころじゃないわ…」

「――」


アザレアがボソボソと何か言っていたけれど、聞かせるつもりがないのなら聞かなくていいんでしょう。

それよりもせっかくこうして話せるようになったんだから、アザレアから何か聞けないかな?

もしくは…山まで連れて行ってもらうとか出来ないかね?


「ねーねーあじゃれあ(あざれあ)。やましってるー?」

「やま?…山?」


「うんー。こくしんりょうとーむしょくりょうのあいだにあるおおきなやつー」

「ああ…あの何年か前に魔物の縄張り争いか何かでめちゃくちゃになったところかしら?」


「!?」


縄張り争い!?何それ知らないよ!?どういうことかとニョロちゃんを見ると私に巻き付いたままで、頭だけ俯いていた。

これはいよいよ何かあったことは間違いなさそうだけど…ただ一つ気になることがある。


「すうねんまえ?」


あの山で縄張り争いがあったなんて記憶私にはない。

山がめちゃくちゃになるほどの騒ぎなんてものも当然なかったはずだ。

それなのになんでそんな話が出てきているのかわからない。


「そうそう数年前。あの時期はほんといろいろなことがあって…そのせいで余計にウチが呪われた地だとか他寮から後ろ指さされてほんと困ってるのよ…とくにあれ…メアたんが今言った山を無色領側に降りてちょっとくらいのところに教会があったのだけどね?その近くで真っ赤な光を伴った爆発が起きて…周囲を消し飛ばしたの。原因はいまだ不明…でもそのあとにあの山で魔物同士の争いが起こってその余波はこっちにまで来ちゃって…ほんとうに大変な数年間だったわ…まぁメアたんには関係のない話よね」


開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。

山を降りた近くの無色領で起こった赤い光の爆発…それはたぶんだけどあの槍の事だろう。

でも…だとしたら本当にあの日から数年もたっているってこと…!?

嘘であってくれとニョロちゃんにまた視線を向けると…肯定するようにこくりと頷かれてしまった。


「す…すうねんまえって…ぐたいてきにはどょれぐらい…?」

「えーと…三年前くらいかしらね?だいたいだけど…」


う、うそでしょ…?と言いたいけれど、そんなことを言っていてもしょうがない。

ネムは…くもたろうくんにスピちゃんはどうなったんだろうか…ニョロちゃんが居場所を知らないと言うくらいだからアザレアのいう「縄張り争い」がいったいなんなのか気になって仕方がない。

あの子たちが今更そんなことをするとは思えないし…でも私が三年もいなかったのなら母がいない今、他の魔物同士ではそれが起こった可能性もある。

群れというものはそれをまとめ上げるボスを求めるものだから…それをくもたろうくんとニョロちゃんが止められなかったとは思えない。

二人は見た目からは想像できないほどに強いから…でも実際に問題は起こってしまっているわけで…そしてそれの発端となったのはやはり私の軽率な行動なのだろう。


「にょろちゃんごめんね…わたしのせいで…」

「――!――!」


そんなことないよって言いたいのかニョロちゃんが頭をぺちぺちと頬にあててくる。

でもやっぱり私に何の責任もないとは思えなくて…ならばやることは一つ。

行方不明らしい皆を探すことだ。

そして同時に…私に何が起こったのかを突き止めなければいけない。

わかること、出来ることから一歩ずつやっていこう…まずは…。


「あじゃれあ(アザレア)!」

「ん?なぁにメアたん」


「わたちをやまにつれていってくだしぁ!」


まずはあの山がどうなっているのかを知りたい。

今は誰が納めているのか…魔物たちはどうなっているのかを。


「んー…でもあの山はもうないのよ。形は一応残ってるけど…」

「え…」


山がない…?それはいったいどういう…?

私の疑問を感じ取ってくれたのかアザレアが促さずとも続きを話してくれた。


「あの山で魔物たちが暴れだしてから被害がとても広がってね…ウチ側…黒神領のほうに被害が来るなら放っておくんでしょうけど、無色領のほうに広がり始めたから教会が腰をあげてね…執行官たちが派遣されたの。噂では枢機卿までいたらしいの」

「しっこうかん?すうききょー?」


「あぁ…えっと…世界中には教会って言う場所がたくさんあってね?そして国の中心にある一番大きな教会…そこを納める司教が国を治めてるの。そしてその全部を統括しているのが赤神領っていう場所にある一番大きな教会にいる大司教なのね?そして執行官っていうのは…なんと言うのが正しいのかしらね?それぞれの教会お抱えの…まぁ軍隊みたいなものなの。わかるかしら?」

「うん」


「メアたんは賢いでちゅね~。それでね枢機卿っていうのは一般には知られてない…というか存在しているかも怪しい「教皇」お抱えの謎の存在で執行官はもちろん、大司教よりも立場が上で合法的に殺人まで許可されてるヤバい連中なの」


そうやっていろいろかみ砕きながら教えてくれたアザレアの話をまとめると…人間の世界で一番偉いのは表向き、大司教と呼ばれる人物だけど…その上にさらに教皇と呼ばれる存在がいるらしい。

でも誰も姿を見たことはないらしくてあくまで噂…そしてその下には枢機卿というやばい連中がいて…そうでなくとも大司教以下、各地の司教たちもそれぞれ執行官という戦力を保有していると。


うん…よくわからん!!!

とにかく私がいない間、あの山で何かが起こって…それを納めるために各地から執行官が投入されて結果として山はほぼ消滅してしまったらしい。

そしてその執行官の中に枢機卿という上の連中の姿もあったとかなかったとか…という事らしい。

ニョロちゃんもその話は事実だと頷いたので確定…あの山はなくなってしまったらしい。


母との思い出がたくさんあった場所だから…少しだけ悲しい。

何回か住む場所を変えてるからあの山が特別だってわけじゃないけれど…それでもなくなれば少しくらいそう思ってしまうものなんだね。

とにかく山のことは分かった…実際に見てみたい気持ちは変わらないけれど、そちらはいったん後回しだ。

なら次…私にいったい何があったのかを確かめよう。

そしてそれは…今もだんだんと強くなっている「私を呼ぶ何か」に関係しているはずだ。

ならばもう一度行ってみようじゃないか…あの場所に。


「あじゃれあ!ならむしょくりょうのほうにつれていって!いきたいところがあるの!」


前回は不意を突かれたから不覚を取ったけれど…今回はすこし勝機がある…かもしれない。

あの赤い槍がまた飛んできても今度は大丈夫!…だと思いたい。

なにより…私を呼ぶ何かが意識をしたからかほんとうに強くなってきていて、気味が悪い…いや、なんだかモヤモヤする。

どうしても…そこに行かないといけないのだと思ってしまう。

いかないと…絶対に後悔すると言うか、悪いことが起こりそうな予感がするというか…。

前回あんなことになったのに悪いこともないもないだろうとは思うんだけど、自分でもどうしようもない。

ならもう一度行くしかない。

行動あるのみだ。


「い、いや…メアたんは分からないかもしれないけれどメアたんが外に出るのは危険なの。特に無色領はあの赤い爆発事件から教会が吹き飛んじゃって、そのせいか赤神領の大司教がやけに大きな教会を建て直してて近づきにくいの。無色領なんてウチの次に他から見下されているのにやけに教会だけは豪華でね…そのせいで住民も調子に乗ってイキがりだしてるし、執行官も大勢配置されてるそうなのよ。そんなところにメアたんが訪れたら何をされるかわからないわ」


あぁ…また例の黒髪問題か…でもそんなことを気にしている場合ではないのよ!


「あじゃれあ!おねがい!」


ちっちゃなマイハンドでアザレアの手を握ってお願いしてみる。


「うっ…!い、いや!そんな可愛いことをされても無理なものは無理よ!子供に甘い私でも限度があるから!」

「う~!」


もうこうなれば一人で行くしかないか!?と思い始めた段階でニョロちゃんがなぜか私のほっぺに口を押し付け始めた。

ほっぺにちゅーをされている。

なになに?どうしたの?と目を向けると、ニョロちゃんは同じ行動を繰り返したのちにアザレアのほうに頭を向ける。


…まさかやれと?この私にほっぺにちゅーを?ネムにもしたことないのに?

いやしたことあるかもしれない。

ならいっか。


「あじゃれあ!!」

「な、なに?何度お願いされても無理なものは無理…」


「あたまさげて!」

「え?あ、うん…」


言われたまま頭の位置を下げてきたアザレアの頬に「ちゅっ」と唇を押しあてた。

そしてすかさずもう一度お願い!


「あじゃれあ!!連れて行って!…おねがい…だめ…?」


ピシッ…と音がした。

何かと思えばなぜかアザレアの眼鏡にひびが入っている。

どうしたんだ突然。


「メアたん…そこまで行きたいと言うのならわかったわ。何とかしましょう…ひとまず私はちょっとお手洗いに失礼するわね」


急に物わかりがよくなったかと思えば、急に話を打ち切り、急に立ち上がってアザレアは出口まで早歩きで向かって言って…扉に手をかけて押し開けた瞬間に大量に鼻血を噴き出して倒れてしまった。


「しんだ…」

「――」


その後すぐ起き上がったけどほんとにびっくりした。

彼女に身に何が起こったのか…謎が深まったがとにかく私は無色領に向かう事が出来るようになったのだった。

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