第13話 探検してみる

 目が覚めました私はきっとドラゴン。

どれくらい寝てたのかわからないけれど、お腹もちょっとだけ満たされてぐっすりと眠れたのもあってかなり元気が戻ってきた。

なので私が次にやらねばならないのは現状の把握だ。


いったい私の身に何が起こったのか?無色領であの赤い槍を受けた後どうなったのか…そもそもどれくらい時間が経っていて、そしてここはどこなのか。

知らなければいけないことがいっぱいだ。


ネム達にも心配をかけてるかもしれないし、できることならすぐにでも山に帰りたいのだけど…どうしたものかなぁ。


「あぶぅ~…」


そういえば取り急ぎ確認を取りたいことがあったんだった。

私が眠りにつく寸前、アザレアの肩の上にニョロちゃんがいた気がするんだよね。

人違い…いや、蛇違いの可能性もあるけれど私が今更ニョロちゃんのこと見間違う?と思ったり思わなかったり…。

でもあれがニョロちゃんだとするとなんでこんな場所にいるのかがわからない。

あの子は基本的に森の住処から遠くには行かないので人里に一匹で降りるなんてこと絶対にないと思うのだけど…。


「だーう~…」


うーん…それにニョロちゃんも私に気が付かないなんてことあるわけが…あるか。

今こんなんだし。


うごうごと小さな手足を動かしてみる。

お?ご飯を食べたからか意外と動くようになってるぞ?もう少し力が付けば起き上がれそうな気もする。


「メアたん~そろそろおきましたでしゅか~?ご飯にちましょうね~」

「ばぁう」


神がかかったタイミングでアザレアがやってきた。

手には白いお皿と匙を持っているのでご飯の時間らしい。

…ご飯を食べて寝て起きたらすぐにまたご飯とは…なんたる究極的生活なのか。


「ああよかった目が覚めてましゅね~。メアたん丸一日眠ってたんでしゅよ~。寝る子は育つと言っても心配したでちゅよ~」

「だぁ!?」


丸一日寝ていたとな!?まったくそんな感覚なかったからびっくりだ。

でも確かに言われてみればお腹がすいた気がするな!さぁはやくご飯をよこせ人間!


「いい子にしてたメアたんのために今日はちゃんとしたミルクを持ってきまちたからね~。この辺りでは赤ちゃん用のミルクなんてめったに手に入らないんでちゅよ~」

「あぶぅ~」


どうやら私のために貴重なものを持ってきてくれたらしい。

よこせだなんていってごめんなさい(言ってないけど)。大事に味わわせていただきますです。

でもできればその気味の悪い喋り方をやめていただければ幸いにございます。かしこかしこ。


「はい、メアたんあーんちてくだしゃーい」

「あー…」


当然私の要望など伝わるはずもなく、口に運ばれてきた白い液体をすする。

おぉ…なんだろうこれ…ミルクのようではあるけど、不思議な味だ。

薄い…いや違う、そもそも舌に触れる感じがミルクのようにこってりもったりとした風でななくて、さらさらとしていて…そしてその中にも「ねろっ」としたものが混ざっている。

ほほう…これが赤ちゃん用…新鮮な味でうまい!これは止まらないよ~!


「ネムたん本当によく飲むのね…凄い食欲だこと…ちょっと心配になるくらい…まぁでも元気であることの証でもあるか…昨日の食事で具合が悪くなったりしてないか心配したけど杞憂だったみたいでよかった」


アザレアがやさしい手つきで私の頭を撫でた。

むむ…こやつ手慣れているな?なかなかのテクニシャン…もしや私以外にもここには赤ちゃんがいるのだろうか?ちょっと聞いてみよう。


「あうえあ。あーいああだぁ~にゃふなう~う~」

「あらあらなんでしゅか~メアたんはおしゃべりでちゅね~」


うん、喋れないの忘れてた。

まだ慣れないなぁ…このままご飯を食べれば喋れるようになるかな?ならばせめてご飯のお代わりをおねだりしよう。

そう思いアザレアのほうに顔を向けると…その肩の上にいたニョロちゃんと目が合った。


いたよ、やっぱりどう見ても完全に、間違いなく絶対にニョロちゃんだ。

見間違えようがないほどにニョロちゃんだ。

よかった!こんな意味不明の状況に投げ出された中で、お友達がいることがなんと心強い事か!


「あう!あーう!だぁー!」


ニョロちゃん!わたしだよー!おーい!


「ん?どうしたのいったい…あ、こらクロロ~出てきちゃだめって言ってるでしょ」


アザレアがニョロちゃんの下あごを指でくすぐると気持ちよさそうにニョロちゃんがチロチロと舌を出した。

ニョロちゃん!こっちも見てー!私だよー!


「あぁーだめよメアたん。かわいく見えてもクロロは結構危ないからね。何かあったら大変だから。ほらクロロも大人しくしてて」

「――」


ニョロちゃんは私に気が付かないまま、アザレアの服の下に潜って行ってしまった。

ちょっと待ってよー!お願いだから少し話をさせてー!ニョロちゃーん!!


結局そのまま私のご飯タイムは終了し、アザレアはまた私を一人残して部屋を出て行ってしまった。

私は再びご飯後のスリープモードに入り…そして起床!!

この間約…時間が分からないので不明。


さて…そろそろ行動に出ようではないですか。

ちょっと身体に力を入れてみる。

うん…いけそうだ。


「あい!」


むくりと体を起こし、さらに立ち上がる。

脚が心もとなさ過ぎてふらふらする…さすがに歩くのは無理そうだけど、手も使って這って行けば移動はできそうだ。

あとはこのベッドを囲む木の柵を何とか出来れば自由行動できそうなんだけど…。


「う?うー?」


なんか急に口の中が痒くなってきた。

むずむずすると言うか…なんだろう…?

恐る恐る指を突っ込んでみると硬い何かが触れた。

これまさか…歯!?おおー!やったー!なぁーんだ歯が無いなんてご飯食べられないじゃんって絶望してたけど、意外と早く生えるんじゃん。

よかったよかった…とにかくこれで柵も何とかなりそうだ…ちょうど小腹もすいてたしね。

それではいただきます。


「あー…」


────────────


無事に部屋を脱出して私がいる謎の場所を探検すること数十分。

いやぁ…扉に鍵がかかっていたらどうしようかと思ったけれど、そもそもそんなものは無い押戸だったおかげで助かったよね。


そんなわけで無事に部屋を出て四足歩行で進んでいるのだけど…この場所めちゃくちゃ広い!

どこまでまっすぐと歩いても終わりが見えず…そしてその割には全く人がいない。

いまだ誰ともエンカウントせず、本当に広すぎる建物を這っているだけだ。


「うーうー、だぁ~う~わうっ!わうっ!」


暇なので怪音波を出して遊びながら地面を這う。

なんと言われようとも私こそがドラゴン。

そうやって進んでいるついに私の怪音波以外の音が…いや、声が聞こえてきた。

それも二人分だ。

一人は…たぶんアザレアでもう一人は…男の人っぽい声だ。

ニョロちゃんもいそうな気配…よし!今度こそニョロちゃんとコンタクトをとるぞ!


「いい加減にしないさいよアンタ!!」

「みゃっ!?」


いきなり大きな怒鳴り声が聞こえてびっくりしてしまった。

どうもアザレアの声みたいだけど…あの妙な喋り方をしていないってだけで違和感が凄い。

ただかなり怒ってるみたいで…何かあったのかな?


ひとまず息を殺して進み、声の聞こえている部屋をそれとなく覗いた。

そこにはやっぱりアザレアがいて…もうひり、背の高いひょろっとした金髪…に薄く黒が混じってる?男がいた。

どうやら二人は何やら言い争いをしているらしい。


「でけぇ声出して騒ぐなよ、うるせぇなぁ!」

「アンタだってでかい声出してるでしょうが!てか本当にいい加減にしてくれる?どんだけ家の金を使えば気が済むの!?まだ自分が金持ちだとか思ってるわけ?」


「金持ちなのはそうだろうがよぉ!ここは天下のエナノワール家だぞ?この辺りで一番偉い家なんだから金持ちだろうがよお!」

「それはこのあたりでの話でしょうが!ここがどこだか分かっているの?世界中から見捨てられた地…黒神領よ!いくら頭の悪いアンタでもわかるわよねそれくらい!ここいら一帯で見てお金持ちだからって領自体が貧乏なんだから余裕なんてないのよ!なんでそれが分からないのかしらね」


何の話をしているのかはわからないけれど、ここはどうやら黒神領らしい。

ひとまずそんな遠くまで来ていないと言うことに安堵した。


「だからそー言うのがうるせぇって言ってんだよ!いいだろうがよ金くらい。なんもねぇこんな場所…酒買って飲み歩く以外楽しみなんてねぇんだから」

「飲むならせめて一人で飲みなさいって言ってんのよ。わけのわからないチンピラや子悪党どもを引き連れて毎日毎日馬鹿みたいに…ねぇアンタさ、慕われてるとでも思っているの?アンタがつるんでる連中がアンタを持ち上げておだててるのは金を出してくれるからよ!慕われてなんかないのアンタは!わかってるわよね?わかってるからこそ、こうやって家から金を盗んでまで金を出してあげてるんでしょ?そうしないと人を繋ぎ止められないから」


「てめぇこの…!曲がりなりにも兄に向かってよくも生意気な口をききやがったな!」

「この家の直系の癖に無能すぎてよそから拾われてきた妹(わたし)に当主の座を奪われたのによくもまぁ威張れるものね。むしろ感心するわ」


「っぐ…く、くそ…!」


男がアザレアに向かって拳を振り上げ…プルプルと震えながら止まった。


「どうしたの?殴りたいなら殴ればいいじゃない。まぁできないか。クロロが怖いもんね?それどころか人を殴る勇気すらない臆病者だものね?そのくせお金を盗む事はするどうしようもない小さいクズ…それがアンタよ。ほら文句があるなら言ってみなさいよ。言っておくけど、このまま金を渡すなんて絶対にありえないわよ」

「…くそが!」


男が悔しそうに踵を返してこちらにやってくる。

おっとまずい、このままだと扉を開けられてしまうとぶつかってしまうので少し横にずれておく。

そして男が部屋から出てきて…。


「…あ?」

「う?」


目が合いましたとさ。

ひとまず私が新参者なので手をあげて挨拶をしておく。


「あ~だ。うーうー」

「こいつは…へへっ、いいこと考えた~っと」


男はにやりと笑うと私に手を伸ばしてきて────

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