第5話女の子と話してみる
…大変なことになった。
いざ戦ってみた人間が妙に手応えがなくて…なにか隠しているのかと思い、私の数ある必殺技の一つである「なんちゃって黒龍ブレス」を放ったらみんないなくなってしまった。
ちなみに「なんちゃって黒龍ブレス」とは母が口からそれはそれはすごいブレスを吐けるのだけど、それがまたかっこよくて私も真似をしたかったのだけど、どうやら私の口にブレスを吐ける機能は搭載されていないようで…それでも諦めきれなくて編み出した技なのだ!
両手を上下から挟み込むようにすることで龍の口を手で再現し、そこにエネルギー的なものを圧縮してチャージし、一気に押し出す。
単純ながらもなかなかの破壊力を持つ一撃なので重宝している。
それはひとまず置いておいて、とにかく大変なことになった。
多少手加減をしたとはいえ、人の脆さを考慮しておらず…周囲の木々や崖ごと消し飛ばしてしまった…母が相手だと母が全部受け止めてくれてたからその辺をまっっっったく考慮していなかった。
ごめんよ偉大なる自然達…大いに大反省である。
「それはそれとして」
隣に倒れていた人間さんの死体…の腕を拾い上げる。
このひとは首以外は全身残っていたはずだけど…ブレスで吹き飛んでしまったらしく腕しか見当たらない。
でも一部分だけでも残っててくれてよかった…生き物を殺したのなら、ちゃんと食べるのが命に対する礼儀だからね。
「いただきます。あー…」
「お、お嬢様!」
「…ん?」
いざ実食…というところでものすごい勢いでどこからともなく、くもたろうくんが走ってきた。
かなり必死なご様子…何かあったのだろうか。
あったか。
消し飛ばしたわ、周囲。
「いやぁ…ごめんくもたろうくん。ちょっとはしゃぎすぎちゃった。巻き込まれなかった?」
「えぇそれはいいんでっすけど…」
いいのか。
まぁ確かにくもたろうくんはそこそこ強いのであの程度の直線的な攻撃は避けることができるだろうけどね。
万が一ってこともあるから次からは本当に気を付けよう…ということで実食再会。
「あー…」
「お嬢様!少し待つっす!」
「…ん?なに?」
「えっと…ひとまずその人間の腕を食べるのをやめないっすか!?」
「えー?なんでー?もぐもぐ…」
「もう食べてる!?話してる途中なのに!!」
おっと、つい。
私は食事という行為が呼吸と同じくらい恒常化しているらしく、気が付けば何かを食べてしまっている。
普通はご飯を意識して食べるらしいけれど、私は食べないことを意識しないと永遠と食べ続けてしまう。
母にも以前注意されてたんだけど…どうしても直らない。
ご飯おいちぃ。
「どどどどどうしよう…ちなみにお嬢様…なにか変わったことはないっすか…?」
「ないけど。なんで?」
「いや…お嬢様人間を食べるのは初めてっすよね…?なにか特別な感じとかします…?」
「別に?普通だよ。モグモグ…まずくはないけど風味が独特だね~これなら獣肉のほうがマシかなぁ」
わざわざ狩りに出てまで食べようとは思わないかもしれない。
いわゆるリピはないなと思うタイプの珍味だ。
「食レポを聞きたいわけじゃないっす…でもまぁ何もないならいいんすかね?」
「なんなのさ」
あー…でもなんかちょっと変な感じがするかもしれない。
なんだろうこれ?ちょっとお腹が痒いと言うか…ん~?…まぁいいか。
「さて」
骨まで残さず食べて、くるりと半回転。
目が合った人間の子供がびくっと身体を跳ねさせた。
「大丈夫だった?えーと…くもたろうくん。この子ってオスかなぁ?それともメス?じゃなくて男かな女かな」
「…女の子じゃないっすか?たぶんっすけど」
じーっと子供を見つめてみるけれどちっこいからよくわからない。
「キミ女の子?」
「は、い…」
女の子らしい。
黒髪の人間の子供の女の子。
「ん~…ねーねーくもたろうくん」
「はいっす」
「この子って「シュジンコウ」なんじゃないかなぁ?」
「えぇ…?そんなまさか」
私もそんなまさかとは思うけれど、黒髪だし人間だしで可能性が微塵もないという事はないはずだ。
「黒髪の人間ってすぐに殺されちゃうんでしょ?人間の子供ちゃんキミ何歳?」
「…7」
ギリギリ聞き取れるくらいの小さな声で女の子がそう言った。
7歳って。そんなんじゃ卵から孵化さえしないじゃん。
ベイビーどころか卵だよ卵。
でも人間というものは母の記憶によれば寿命も100年ないし、生まれて20年もすれば大人になるらしい。
ということは母の予言に出てくる私を殺す「シュジンコウ」に条件的にはあっているのではないだろうか?
事件が起こる10年くらい前は子供…って言っていたはずだし。
という私の考えをくもたろうくんにも伝えてみた。
「ほら、なんかそれっぽくない?」
「確かに…てかお嬢様なんか妙に人間についての知識があるっすね?」
「だって私も龍だし」
龍は親から卵として産み落とされる際に親の記憶を一部だけ受け継ぐ。
ただそれはいわゆるエピソードとしての記憶ではなく、経験としての記憶で「言葉」や「知識」などが受け継がれるものにあたる。
私が生まれてすぐに言葉を話せたり、言葉を理解できたのはこれのおかげだ。
他の生き物にはこの受け継ぎがないって言うのだから聞いた時は驚いた。
どうやって言葉を覚えるんだよって話だよね。生命の神秘!
とにかくこの龍としての特性のおかげで私は人間についての簡単な知識を得ることはできたわけだ。
ちなみにこの受け継いだ記憶だけど、言葉のようなものは自然と身につくのだけど知識は探らないといけないから面倒なんだよね。
なんと言えばいいんだろう…受け継いだ知識はそのまま私の物になっているんじゃなくて…「母の知識」というあえて覗かなければ見れない本が頭の中に存在しているような感じだ。
「ほほ~あいかわらず不思議っすね~龍って。まぁしかし7歳の黒髪なんて確かに何人もいるはずがないっす。考えれば考えるほどこの人間が「シュジンコウ」の気がしてきまっすね」
「でしょん?へい人間の女の子ちゃん。キミが「シュジンコウ」なのかい?ですのかーい?」
「…?」
子供は何を言われているのかわからないと言った様子で首傾げた。
シュジンコウじゃない?あれー?やっぱりたまたま通りかかった場所でたまたまシュジンコウに遭遇するなんてことあるわけがないかぁ。
そんな都合にい話があるわけないもんなぁ~…。
ということはまた振り出しかぁ…。うーむ…。
「あの…」
人間ちゃんがボロボロのてで私の手を握ってきた。
いや、手が小さいから指を握っているという感じか。
「あ!この!お嬢様にそんな汚い手で…!」
「まぁまぁ、なんだい人間ちゃん」
もしかして「シュジンコウ」に心当たりがあるとか!?と期待に胸を膨らませてみる。
そして人間ちゃんの口から放たれた言葉とは…!!
「もしかして…お姉ちゃんですか…?」
「はぇぇ…?」
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