第3話人里におりてみる
「ねーお嬢様~考え直しましょうよ~マジで想像してるより人間の営みってのはめんどくさいっすよ?」
「もう山降りちゃったから~」
あれから考えるのがめんどくさくなった私はずっとぐちぐち言っているくもたろうくんを無視して初めて自分の意志で住処だった山を出た。
ここから先は完全に未知の領域…人間の住処。
…と言っても実は山の中腹くらいまでしか行ったことはなかったから、すでに未知の領域は超えていると言えるのだけれどね。
「ふおおおおここが人間の生息地かぁ~空気がまずいぜぇ~」
「そりゃ山の頂上に比べればどこでもそうっすよ」
「ふむん…そんなもんかぁ~。ところで私はこれからどこに行けば?大きなお城があって、同じくらい大きな教会?がある場所…ほらくもたろうくん、早く案内してくれたまえ」
「だからわかんないですって。赤の領地だとは思うっすけど…でもそんな場所にお嬢様が足を踏み入れたら最後、えらいことになりますって~…」
「しつこいなぁ。なら逆に一回そのえらいことになってみようよ~。このままどれだけくもたろうくんに諭されても一回くらいは経験しないと納得しないよ?我、納得せぬぞ?」
「ええ…うーん…じゃあこう言うのはどうっすか?」
そうしてくもたろうくんがしてきた提案とは、このままどこかの人間が住む小さな集落か村に遊びに行ってみるというものだった。
それで私の容姿…というか黒髪がどれだけ人の常識というものの中でとんでもないものか確かめてみよと。
正直めんどくさいけれど、ここでそんなことを言っていたらさすがに悪いのは私になってしまう。
ちゃんと妥協案を提示してくれたのだから付き合うべきだよね。
そもそもくもたろうくんは私を心配して言ってくれているのだし。
でもね?私としてもせっかく山を自分の脚で出れたのだから山ではできなかったいろんなことをしてみたいのだ。
それこそ冒険とか…まぁ第一目標は生きることだけどね。
そんなわけでいきなり山に帰れだなんて言われたら私だって嫌っ!って意固地になってしまうわけで…まぁだからこそ実験は必要か…。
さすがにくもたろうくんが盛っているんだとは思うけれど、めちゃくちゃ怖がられたりするのなら遊びに行くにも対策が必要になってくるしね。
「はい、そうしてやってきました人の住む地~」
「お、お嬢様ぁ~…」
ついに新天地にたどり着いたぞという達成感に両手をあげて喜ぶ私。
震えながら私にしがみついて後ろに隠れるくもたろうくん。
何やら叫びながら物を投げてくる人々プラス険しい顔で武器を突きつけてくる人々。
なんてこったい大惨事。
「まさかこんなことになるとは夢にも思わず」
「いや、ずっとウチが言ってたじゃないっすか~!」
言ってたけどまさか…ねぇ?ここまですごいとは思わなかったよ。
「あんな完全な黒髪…なんて悍ましい…」
「しかもあの容姿…成人はしていないのかもしれないが…十代半ばくらいか…?」
「黒髪でか…?ば、バケモンだ…呪われてる…」
「こ、ここから出ていけ!化け物めー!!」
そこまで言わなくてもいいじゃないかってほどにボロクソだ。
人によって私を怖がっていたり、敵意を向けてきていたりで違いはあるけれど…共通しているのはいい感情を持ってはいないってところなわけで…。
「どうしよう?処す?」
「いや、これでわかったでしょお嬢様!とにかく今はいったん逃げるっすよ!」
こうして私と人間のファーストコンタクトはくもたろうくんに引きずられて強制終了となったのだった。
すたすたと走ること約10分。
手ごろな崖に腰を掛けて小休止中です。
「いやぁまさかあそこまでとは思わなかったね~」
「…言っておくっすけどあれでもマシな方ですからね」
「そうなのん?」
「ええ…あそこは無色領にあった村でっすから」
「無色領?」
そう言えばさっきから黒神領だとか赤の領地だとか色?のなんかが話に出てきてるよね。
髪とかにか関係あるのかな?
「人間は世界を…住んでいる場所を領地で区切って生活しているんすよ。基本的にはでっかい教会とそこに祀られている神様に対応する髪色の人間が納めている感じなんですけど…意味わかります?」
「…?」
「えーと…つまりは赤の神様がいるとされている教会がある領地は「赤神領」と呼ばれてて基本的に赤い髪の人が支配階級…つまり偉い人っす。そんでもって住んでる人も赤系統の髪色をしている人が多いですね。全員というわけではないですけど」
「ほーん」
神様なんているのか~私は見たことないけど…強いのかな?私の中で最強は母なんだけど、どっちが強いだろうか?ちょっとだけ興味がある。
「んでじつはお嬢様がいた山は黒神領にある山なんですが…それを降りてきた場所がさっきの無色領だったというわけっす。領地の端っこにあるんですよあの山。そんでもって黒に近いのでまだ敵意が薄かったって事っす」
「んー?じゃあ山を反対に降りてれば問題なかったって事?黒の領地なんだよね?」
「いや確かに黒ですけど…完全な黒髪ってほとんどいないですから反応は変わんないと思いますね。酷いと生まれた瞬間に殺されたりするんで黒髪。基本的に長生きできないから大人はもちろん、ちゃんと成長してる子供もほぼいねぇっす」
そういえば母もそんなことを言っていた気がする。
「あれ?じゃあ黒神領と無色領の違いってなんなのさ」
「黒髪でなくても髪に黒がちょっと混じってたり、黒っポカったりするとそれだけで殺されたりはしないまでも迫害の対象になりますからね。そうやって追いやられた人の中でどちらかというと黒髪じゃない人が無色領に住んでて、どちらかというと黒寄りな人が黒神領に住んでるっす。絶対ではないですけどね。うっすらと濁った色なら無色、青黒とか黒く染まっていたら黒っす」
頭が痛くなってきた…なんでそうも髪の色にこだわってややこしくしているのか…話を聞けば聞くほど理解ができなくなっていくぞ人間たち。
まぁでもどうやら私は人間にとって受け入れがたい存在だという事はよくわかった。
さてどうしたものかな!!
「やっぱりなんとかウチがその「シュジンコウ」とやら探してきますよ。お嬢様にはあんまり人と関わってほしくないっす」
「え~…」
「…ウチは人間の街によく行ってるから何度も見たっす。人間の…黒髪の子供がひどい扱いを受けているのを。ウチはお嬢様にあんな目にあってほしくないっす」
「くもたろうくん…」
純粋な心配がくもたろうくんから伝わってくる。
それだけ…よくないものを見て知っているのだろう。
と、そこで私には一つの疑問が浮かんだ。
「あのさ、くもたろうくん。私と人間って――」
疑問を口にしようとしたその瞬間、私たちが座っている崖の下の方からなにやら怒鳴り声のようなものが聞こえてきた。
「ん…なんだろう?」
「人間の声っすね?揉め事かな?まさかウチらを追ってきたとか!?」
「いや…」
なんとなくそんな感じじゃない気がする。
勘だけどね。
「くもたろうくんはここで待ってて。ちょっと見てくるよ」
「うえ!?なんでっすか!?関わんないほうがいいですって!」
「確かめたいことがあるのー。それになんだか行ったほうがいい気がするんだよね~」
「ええ!?なんで!?」
「勘」
「お嬢様ぁあああああああああ!!」
背後から小声で叫ぶくもたろうくんを置いて、崖の上からジャンプして木の枝の上に着地。
これね、うまくやらないと体重で枝が折れちゃうから実はなかなかの高等テクニックなんだよ。
それはともかくとして木の上を伝いながら人の気配がある方向に向かって追いかけるように進んでいく。
「あ、追いついた」
いるわいるわ人がわんさかと。
ガッチガチに…鎧?を着込んで細長い武器…槍だっけ?あとは剣を持った人が5人と真っ白なローブを着た…薄紅色?の髪のたぶんオス…じゃなくて男が一人。
そしてそんな彼らの視線の先…いや武器の先端の先にもう一人。
「黒髪の子供?」
仰々しい見た目の大人に囲まれて、悲しいくらいにぼろぼろになった黒髪の小さな子供が…哀れになるほど震えて泣いていた。
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