第五十話『これからのあらすじ-time spiral-』

 ある時、人類を進化させようとする計画があった。

 計画を立てた人達は邪悪な神を人類の敵と定義ていぎして、邪悪な神を倒せる人々を人為的に作ろうと企て、この計画を進化と定義した。

 ある時はデザインベビーで新人類を作ろうとし、またある時は生まれた赤ん坊を過酷かこくな環境に置き、またある時は子供に人類の進化の大切さと邪悪な神の邪悪さを説いた。

「何故、この世界は不完全で苦しみにちているのか? それは、この世界を作った神が邪悪で不完全で人間に苦しみを与えるからに他ならない! 故に、人間は霊的高次存在にならなければならない! 人間は霊的高次存在となり、邪悪な神の支配から解放されなければならないのだ!」

 この様な事を幼い頃から教えられ続けているのだ。それが正しいと思うし、それ以外の生き方等分かる筈も無い。


 そんな荒唐無稽こうとうむけいな話だが、彼らの計画は成果を上げていた。

 彼等の計画下で育てられた子供はかんが鋭かったり、他の子供のうそを見抜いたり、超人的と言っても過言ではない特技を持っていた。

 そんな物は新人類や、人類の進化ではない! と、そう言う人も居るだろう。

 しかし当人らにとっては大きな躍進やくしんであるし、そもそもその様な第六感染みた特技を見せられては一種の超能力とすら思える訳で、むしろ計画を立てた人々は大いに喜んだ。

 そんな事も有り、計画を立てた人達は更なるデザインベビーを、更なる過酷な環境を、更なる洗脳教育を子供に施そうとしていた。

「更なる計画を! 更なる進化を! 唾棄だきすべき過去の棄却を! より良き未来を! 我々の手で正しき神を、アイオーンの到来を成すのだ!」


 計画に携わっている人達が死んだ、全員死んだ。

 誰かに殺された訳では無く、検死の結果は心臓麻痺しんぞうまひと出た。

 計画の子供達は親も計画に携わっていたので孤児となり、施設へ行く事となった。

 その際、この子供達の持っていた常識じょうしきのせいで苦労をする事になったが、腐っても英才教育を受けた天才なのだ。

 要領が良い者が居て、他の子どもと協調性を持つ者が居て、大人を頼る事を躊躇ためらわない者が居て、子供達は結果として健やかに人生を送る事が出来た。

 しかし、計画に組み込まれた子供の内の一人はついぞ見つからなかった。

 計画の関係者が一斉に心臓麻痺を起こした事も不可解だが、資料が残っている一人の女の子がどこを探しても居なかった事も不可解だった。

 誰がどう調べても全く捜査が進まないため捜査は切り上げられたが、一番不可解なのはどこをどう探しても手掛かりが皆無な事か。

 それこそ可能な限り、国内は勿論、外国も含めてくまなく調べたが、女の子の行方は足跡あしあと一つ見つからなかった。とにかく、神ならぬ身の捜査官達には何も分からなかった。


 * * * 


 壁面へきめんつるった、どことなく幻想的な雰囲気をたたえる、昔の映画かアニメで見る様なおまじないの品々を取り扱う小さな小間物屋があった。

 店の中では、かざり気の無いシンプルな黒のイブニングドレス風の姿ですみを垂らした様な黒髪くろかみが印象的な店主が、うつらうつらと椅子に座ったままカウンターで肘をついて舟をいでいた。

「アイネさん、大丈夫ですか? もし辛いようでしたら、奥でお休みになりますか?」

 そう声をかける従業員の男性の言葉に、店主の女性は意識を覚醒かくせいさせた。

「いいえ、大丈夫よ。ちょっとうたた寝してただけ……そうそう、さっき夢に私がまだ小さい頃の事を見たわ! おかしいわよね、まだ物心がつく前の事なのに、自分の過去だって何故か分かるの」

 寝ぼけ半分、内心興奮こうふん半分と言った所か、妙なテンションの店主の女性の語り口に対し、従業員の青年は物珍しいものを見る目で対応した。

「物心がつく前のアイネさんか……どんな女の子だったんですか?」

 そう尋ねられた店主の女性は、自分の眉間に指を置いて語り始めた。

「そうね、その頃の記憶がすごくあやふやで、覚えているのはお医者さんらしい人が愛音アイネ愛音アイネ! と私の名前を呼んでいる事くらいかしら? まあ、私はあの家がきらいですぐに家出したんだけど」

「家出したんですか? 物心ついてない筈の年齢ねんれいで? いや、それはやっぱり夢で記憶が混乱しているんじゃないですか?」

 店主の女性の言葉に、従業員の男性は一瞬いっしゅん腰を抜かしそうにおどろき、彼女の言葉を否定した。

「そうよね……でもあの時、私は子供故の全能感とでも言うのかしら? 自分は何でも出来ると思って、家出をした記憶が有るの。! って、変な話よね?」

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