第二話『完璧な不能犯-Voodoo Magic-』
憎い、俺はあの男が憎くて憎くて仕方ない、俺の
まず、俺はその男の事を調べあげた。名は
やはり理沙さんの相手に相応しいのは俺だ、俺は栄光に満ちた将来を想像する。最高にかわいい
感情的にも論理的にも、やはり俺はあの露地とか言う男を排除する必要があると言う結論に到達した。勿論手段は証拠が無く、立件や露見が不可能ないし困難な物が好ましい。
そんな都合の良い手段は通常ならばあり得ないが、俺には一つ思い当たる節があった。あの露地とか言う野郎の存在を知る前に、近所の占いの店で見つけた呪術の道具だ。当時の俺は、占いの店に店主に恋占いや恋に効くおまじないを求めて来店して、呪いの類は眼中に無かった。
「あらあら、これはダメね、あなたには
占いの館らしく魔女っぽい姿の店主はそう言い、俺に様々な助言や運勢向上の品物等を紹介してくれたが、その一方で自分の占いは絶対だと力強く言っていた。
つまり、あの魔女の力は絶対と言う事だ! 事実こうして俺はあの魔女の占い通りに仇敵に
そして、あの本物の魔女が勧めていた商品の中には呪術の道具もあり、俺は改めてこれを
俺は占いの館の近く、高校の裏手にある雑木林の奥に居た。ここら辺は元より人通りが少なく、それこそ人の手が入っておらず、人気が全く無ければ人以外の動物の方が多く、時刻は深夜二時、月が雲の合間から顔を覗かせており、呪術には最適の時刻と環境だ。
俺は俺の夢を成就する為に、購入した呪術の道具を取り出し、説明書きを再三再四読み直し、そして魔女の言葉を思い出した。
『それを使いたいならどうぞ使ってくださいな、その人形は強い意志に反応するの。強い意志さえあれば動作するから、例えば相手の髪の毛とかは不要で、でも相手の本名を書いた紙を中に入れたりしたほうがいいと思うわ。そうしたら、あなたの成したい事を強くイメージしながら
俺は魔女に言われた通り、露地良健と書いた紙を糸で編んで作られたその人形に入れ、これを木に打ちつける形で釘を刺し
滅多刺しにされた露地! ナイフで刺された露地!
俺は強いイメージを抱きながら、何度も何度も人形を木に突き立てて杭を金鎚で叩いた。甲高い音が反響する音が耳に心地よい。そして俺は杭で木に打ちつけられた人形を難儀しながら剥がし、後はこの人形を土に埋めんと地面にシャベルを突き刺した。
その時俺の背後から犬の鳴き声が大量に響いた。俺はハッとして振り返る。
野犬の群では無かった。一人の人間が大量の犬をリードに繋いでこちらを見ている。俺の目に懐中電灯の光が刺さる様に投げかけられ、目が眩んだ。
「おいあんた、こんな所で何やっているんだ?」
それはこちらの台詞だ! しかし呪術の儀式をしていたんです。とバカ正直に答える義理も無い。ひとまず呪術を中断し、この場を逃げ、改めて人形を土に埋める事にしよう。
俺は脱兎の如く走り去り、後ろから反響する犬の鳴き声は幸い近づいてこなかった。あの飼い主はリードをキチンと手放さない良い飼い主だったに違いない。
そう考えながら俺は家に逃げ帰り、敷地内にある土中に人形を埋めた。
これで露地の奴がどうなるかは知らないが、あの本物の魔女さんがくれた呪物なのだ、効果てきめんに働いてくれるだろう。
はてさてどうなるのだろうか、俺が念じた様に滅多刺しだろうか? 仮にそうなったとしても、証拠も無ければ呪殺なんてものは不能犯なんだ、呪いの人形が殺したなんて事件は立証も立件もされる事は無いだろう。
俺は呪いを完遂し、ぐっすりと泥の様に床に就いた。
* * *
警察署内に二人の警察官が居た、刑事ドラマで見る様なベテランと若手の二人組だ。
二人は自分達の仕事や、検察の仕事について話していた。周囲にはその二人しか居らず、大声でなければ話をしても周囲に漏れる事は無い環境だった。
「この間、
「ええ、覚えていますよ。私怨で何度も刺したって感じのグロい奴、忘れようとしても思い出せないと言うか、未だに思い出しリバースしそうになりますよ」
「アレな、自殺って事になった」
「は? 何をおっしゃる先輩さん、典型的エクストリーム自殺じゃないですか! どうやって何回も自分で自分に致命傷を与える事が出来る人間が居るんですか! しかもご丁寧に体には
若輩の警察官は声を荒げ、先輩の警察官に言った。声には困惑と糾弾の色が見られ、自分が正しくて相手が間違っていると確信した様子の声色だ。
「ああ、コイツを見ろ。検察から来た報告書だ」
先輩警察官は相棒らしき若輩の警察官に書類を見せ、書類を読んだ若輩の警察官は苦虫を潰した様な顔をした。
「あーはいはい、じゃあ自殺って事にしますよ。しかし困ったな、これじゃ警察は無能だって世間から言われちゃうし、第一遺族に何て言えばいいのやら……」
「そう言うな、昔からよくある事だ。俺達は俺達の仕事をするしか無いんだ」
「確かに自殺かも知れませんけど、納得できませんよ。呪い返しによる自死だなんて……」
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