第一話『これからのお話-Future Sight-』
俺は毎日同じ様な内容の夢を見ていた、俺は夢の中で殺されていた。
ある日、俺は夢の中で裁判にかけられ、
周囲の人達からは、たかが夢だろう? とマトモに取り合われない。
しかし俺は夢の中で確実に殺されているのだ、あの苦痛の感覚は一度の人生に何度も殺されているとしか言いようがない。しかし、夢の感触を力説するのもどうかと思い、俺はこの事を打ち明けられないでいた。
一応家族には俺が悪夢に苦しむ様は知られている為、カウンセラーで診てもらったが、これが全く役に立たない。俺の悪夢は日に日に悪化していっている。昨日は
そんな中、俺は下校途中にある小物屋が目に入った。
別に
「あらいらっしゃい、何をお求めですか?」
店に入ると、店員らしい飾り気の無いイブニングドレス風の衣服を着た
「あら、どうかされましたか?」
彼女の声に俺は我に返った。ダメだ、ダメだ、女性は視線が分かると言うし、今さっき俺が見惚れていた事も相手には伝わっているだろう。俺は自分が赤面しているのを感じた。
「えっと、その、店頭に飾ってあるドリームキャッチャーは売り物ですか!?」
俺は俺の声が
その様子を見て、彼女は微笑ましい物を見る様子でくすくすと笑いながら言った。
「ええ。でも違うわ、あれはただの飾り。あなた悪夢に困っているの? うちにあるドリームキャッチャーはどれも本物だから好きなのを選んでいって下さいな」
俺は彼女から目を伏せる様に、彼女が示した売り場に顔を向けた。こじんまりとした店内にこれでもかと棚やテーブルが配置され、レジ台の向こう側には倉庫か住居スペースでもあるのだろうか、手すり付きの階段が上へと向かっているのが見えた。
「本物って言うのはどう言う意味ですか?」
俺は彼女に顔を見られないよう、そっぽを向いて商品に目を向けながら訪ねた。
「本物は本物、うちにある商品は全部正真正銘本物のおまじないの代物です。このドリームキャッチャーを使えば眠っている間絶対に夢を見る事は無くなるわ」
俺は物は試しと、商品棚のドリームキャッチャーを手に取り、そして先程目にした時は気付かなかったが、これが恐ろしいほど
「あの、すみません。これ、値札が無いのですけど、すごく高い物だったりしますか?」
俺は
「ええ、うちの商品は全部その場で値段を決めてるの。そうね、あなたのその学ラン、そこの高校の生徒さんでしょう? これから
安い。しかしそれでいいのだろうか? 確かに俺はドリームキャッチャーを欲しているが、そういう人間こそちゃんとお金を払うべきではないだろうか? そして、そもそも俺はドリームキャッチャーの相場を知らないが、俺は今結果としてものすごく悪い事に加担しようとしているのではないだろうか? あとかわいいと言われてしまった。
「えと、いや、あの」
「いいの、いいの。私はこの商売を道楽でやっているようなものですし、それにこう見えて不労所得もあって困ってないから。なんでしたら百円でもいいわよ」
「五百円でいいです! 五百円払います!」
これ以上会話を続けていたらどうなるか分からない! 俺は逆値切りをし、この場を切り抜けた。
カウンセリングを受けてもどうにもならなかったのを助けてもらったのだから、彼女は
俺はデパートの地下でお茶菓子を包んでもらい、彼女の居た小物屋に足を運んだ。
「ええ、本当にすごいです。その節は誠にありがとうございました。」
「あら、どういたしまして。こちらとしても、うちの商品を気に入ってもらえて何よりだわ。今はお客さんも居ないし、良かったら裏で一緒にお茶でもいかがかしら?」
こんな美女(しかも俺にとっては恩人だ!)とお茶? 悪夢は解消されたし、今日と言う日は俺の人生で最高の日だ!
俺は彼女に招かれるままに店の裏手に向おうとすると、店の入り口の戸が開き、戸が冷ややかな鈴の音を奏でた。
なんだよ、空気の読めない客だ。いや、客の事を悪く言うまい、そんな事をしてしまっては彼女に迷惑だし、本末転倒だ。
見ると入って来た恰幅の良い
太鼓腹の男は、俺と彼女の手で解かれたお茶菓子とを一瞥すると、小さく舌打ちをした。はい前言撤回、こいつは空気の読めない男です。
「こんにちはアイネちゃん! 私の注文した商品が出来たって連絡、嬉しくて死んじゃうかと思ったよー!」
太鼓腹男は福の神の様な外見と笑顔で彼女に話しかけた。彼女の名前はアイネと言うのかと思う一方、アイネさんに馴れ馴れしく話しかける太鼓腹男に刺々しい
(アイネさんに下心
危うく喉から言葉が出る所だが抑えた。
ちょっと待て、今俺は何を言いそうになったんだ? アイネさんは別に俺の物でも何でもないだろう、そもそも俺はアイネさんにちょっとサービスしてもらって、ちょっとお茶に誘われただけだ。思い上がりも
「あらあらあらあらー、アイネ
「ではではー、こちらの水晶玉をどうぞ。寝る前にベッドの横に置いて下さいな、私の気持ちだと思って大切にしてくださいね。お値段は約束通り……と言いたい所だけど、サービスで九万八千円でーすっ!」
うわ、高。俺は昨日とは真逆の感想を閉じた口の中で発した。
あれか、学生には安物を、社会人には高級品を
俺は太鼓腹の男とアイネさんのやり取りを離れて見ていた。近くで見ていちゃ悪いと言う気がしたのと、何となく太鼓腹男がいけ好かないと言うか、近づいたら
太鼓腹男はアイネさんのセールストークに「効能を考えたら安い安い!」と言いつつ、手のひらサイズの水晶玉の代金を現金で払い(見た所この店は現金以外の支払いに必要な
「ふふ、お待たせしました。これから来るお客さんには悪いけど、今日は店終いにしてお茶にしましょうか。悪いけど、お店のプレート
俺は店の
「あの、訊ねていいですか? あの水晶玉、十万円もしたけど一体何なんですか?」
俺がそう言うと、アイネさんは悩む振りをすると言うか、確信の自信を持った様子で俺にいたずらっぽい仕草で答えて言った。
「それは企業秘密、あとついでにお客様へのプライバシー
アイネさんは俺が首を
「はい、是非!」
「はい採用! 助かるわ。お茶回が終わり次第仕事を仕込むって言うのもロマンがありませんし、明日からバリバリしごいてあげますね。はいこれ用紙、持ち帰って明日記入してきて
「
「カナエね! 分かったわ、これからよろしくね?」
アイネさんは手際良く、俺を
まるで最初の最初からここまで予想していたと言っても
「はい、喜んで。ところで、あの水晶玉ってどんな商品だったんですか?」
俺の再びの質問に、アイネさんはにんまりと笑って答えた。
「あれは未来予知って名前、眠っている間に夢で未来を見せるの」
「未来ですか?」
「そう、未来。安い安いって言ってたから、多分あの人お馬さんのレースの夢でもよく見るとかじゃないかしらね? でもあの水晶玉の材料、見える未来がどんどん加速しちゃう性質の物だったから、適度に楽しんだら
「見える未来が加速する?」
全く話が見えなくてオウム返しするしか無い俺に、アイネさんは心配そうに言った。
「そう、見える未来の加速は初めのうちは
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