第19話 悪さ犯罪、そしてまた体罰

 大人に力で支配されていたが、悪いこともした。

 ある生徒の中に1人少し印象が綺麗でないことで目立つ女子生徒がいた。

 全体的に彼女に対する差別的な雰囲気がクラスにあった。

 彼女が登校して来て教室に入ると奇声を発したり、匂いがあるわけでもないのに口と鼻に手をあて、もう片方の手で彼女の向かって扇いだりした。

 そんなことだから時々教師に往復ビンタされたのだが、これは俺1人で行ったのではない。常に数名がそれ以上の男子生徒がこのいじめに荷担していた。

 あだ名も酷かったし、あるクラスメートはそのあだ名で彼女を呼んだ。

 彼女の鞄を足蹴りにした生徒もいた。

 この流れの中でサディスト女子に体罰教師へ訴えられたのだが、訴えられたのが俺1人と言うのが納得いかない。

 

 こうエスカレートするとクラスでも問題として提起することになった。

 このクラスでの提案で人の気に触ることを言わない、と言うことになったが、これをやたらと煽る男が1人いた。

 俺が何か言ったとかやったとかで常に目を付けて何らかの制裁へもっていこうとしていた。

 彼は俺や他の生徒がいじめをすることを対する正義感によってではなく、自分の性癖的欲求でケラケラとした笑いをしながらそれをした。


 当然彼はこれ以前そのいじめに積極的に荷担していたほどだ。

 こう言う非常に嫌らしくずるい彼が教師にビンタされたり、怒られたりしているところを見た記憶がない。彼は人生の早い時期から処世術を身に付けていたのだ。


 しかし、どう言うわけか特に悪かったり嫌らしくもない何人かの生徒が往復ビンタを何回も受けるのを見たことがある。

 親と教師のあいだに何かあったのか、子供だった俺が理解力がなくそう思っただけなのか、どちらにしろどうも純粋な子が体罰の対象にされている印象があった。


 それとは逆に触法的な悪さをする生徒もいた。これが2人いた。

 1人はおそらく店の物を万引きしていたと言う噂のあった者。

 もう1人は家の事業の方の金に手をつけると言う者。

 どちらも職員室出入りの常連と化していた。万引きの方はその後どうしたかはわからない。

 もう1人は後にこれを資金源として味をしめた奴に振り回されることにもなる。


 この2人が職員室でどうされたかは知らないが、体罰を与えることで矯正しようとでもしていたのか。職員室の外で見かける彼らの顔は赤く腫れ上がっていた。しかし、何でもかんでも殴る蹴るの暴行で社会に適合していくようになるものなのか。

 その後の追跡調査があるわけでも無く、後の彼らに会ったわけでもないからわからないが、あれで上手く行ったのだとも思いたくない。

 刑務所に行く人はそんななのだろうか。


 体罰をしない教師はいたことはいたが、教師1人転勤させたところでまだまだ学校全体をその気風が覆っていた。


 ハチャメチャに暴れながらも、その雰囲気の中で人生をすっかり諦めかけてもいた。

 前にも述べたが体格の大きく違う大人から受ける体罰は子供にとっては脅威である。

 体重数百キログラムの猛獣を目前にしたことを想像すると良い。それが常に苛立っていたり、感情に支配されているのである。


 ああも学校で授業中に公然とそれが行われていると言うことは法で認められているからだと考えるようになる。

 それで生計を支える給料まで貰うわけだ。

 こうして、教師が体罰で生徒を殺しても何も罰せられないし、法律で認められていると我々は想像していた。

 そんな噂話も日々の常である。

 こう言う雰囲気の中のある日学校のどこかで線香の匂いがした。我々は口々に「ついに体罰の犠牲者が出たか」と噂をした。

 しばらくするとそれが理科の実験のためだと知り、まだ犠牲者が出なかっただけだと思った。

 ただ単に死人が出なかったのだから怨霊に脅える必要もないのだと、後は自分自身の体罰死がそのうち待っているだけだと言うことは薄れただけで、無くなったわけではなかった。

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