第18話 初恋
このクラスになって逆に喜ばしいこともあった。
俺が転校してきた当時のクラスにいたあるクラスメートとまた同じクラスになった。こいつとは成人しても文通などで関係が続いている。
恋愛の方は子供ながら異性を意識するようになった。それまでにはなかったわけでは無いが、子供の頃から成人した若い女性に惹かれがちであった。しかし、それだからと言って何をどう行動に移すなどと言うつもりは何もなかった。
ただ、クラスの中で自分にとって一番美しい人は?と言う意識はあった。この思いが少しずつ時間とともに大きくなるのだ。
このクラスで一番の美人は俺の中で固まった。
顔立ちはとても綺麗で瞳が大きく澄んでいて、俺はそれに吸い込まれるかのようだった。頬はりんごのように赤く血色が良かった。それでいて独特の陰りのある眉の表情が悲観的な印象を受けるが性格は明るかった。
いつもクラスではしかめっ面をしていたと思うが、俺には優しかったと思う。髪は茶がかりの無い黒髪で女の子としては短かった。スマートな感じでやや痩せ型。
服装はいつも華々しく着飾って見えた。
知らずしらずのうちに彼女への恋心のある視線を投げかけていたが、これがやがて確信的にするようになった。しかし、いつも俺に対して大人なしくニヒルだが俺の心を吸い込んでいたような魅力を発散させていた。
今考えると、この時点で通常嫌われたり、気持ち悪がられたりもする気がするが、彼女は好意的に俺のことを意識するようになった。
彼女の
そこで彼女と仲良くテレビ番組やクラスメートとかの話題で雑談をした。ある男子生徒がふざけて裸婦像姿のマネをしたことを噂すると、彼女がそのポーズを取ってみせた。俺は目を見開いて喜んだ。彼女のポーズもポーズだが、そのポーズした時の瞳は何もかにも俺を受け入れるかのようだった。
フォークダンスの時は彼女と組む順になると喜んだが、俺の踊りは間違ってなかったと思うが彼女はそうじゃ無いでしょ、とか言う。
俺が朝白い顔で登校すると男子に茶化されたが、彼女は「良夫君は昨日お風呂に入ったから白い顔をしてるのよ」と言った。
クラスメートの男女が仲良くすると照れで袋叩きにあうような雰囲気だったが、こんな風に初恋の甘い日々を送った。
しかし、それは後に突然断絶し永遠に失われてしまうのだが。
このクラスは3年生の2学期から4年生の終わりまで2年弱だが、5年生に上がる時またクラス代えがあった。
この時初恋の彼女は別のクラスになったのではない。彼女はこの進級のタイミングで転校したのだ。
ショックはなかったが、しばらくは心の片隅に彼女の姿があった。
まだ幼かった、初恋と言っても付き合ったわけではない。傷心と言うこともなかった。
彼女が引っ越さなかったとすると、また何処かで会っていただろうが、それも断たれた。
彼女と縁があったら後々に会って2人で思い出にひたるか、初恋の続きで付き合いもした可能性もあったのだろうか。
あの裸婦像の格好のマネをしたポーズ姿の時の彼女の瞳を思い返すと、思春期以降に会っていたら肉体的な行為を伴う交際にでもなっていたのだろうか。
でも、そんなことはわからない。性にも目覚めていない時期の男女の出会いは知れたものだ。
成人してからも未だに友人関係の続いている奴とは最近になって昔のことを思い出すようになった。それにつられて急に俺は彼女のことを思い出すことをしている。
それは両親に追い詰められた精神状態から小学校時代の明るい思い出の中に逃避している妄想と言う末期症状を示しているだろうか。
その彼女については人生でついに一度も彼女を越える存在はなかったし、彼女に匹敵する存在すらなかった。
自分の主観だから仕方ないがその後出会う女性すべてが彼女よりランク下だった。
美しさにしろ、親しさにしろ。ただ、その後と言っても会っている女性に対しては本気でいたのだが。
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