第13話 転校先も小学校も問題だらけ

 俺は前に通っていた学校位の距離か少し近い位のところにある学校へと徒歩通学することになった。


 学年も学期も途中での転校だ。さっそくクラスで教師に紹介された。

 ここで驚いたことは前の学校では行われてもいなかった九九くくのカリキュラムが終盤に差し掛かっていたのとだ。


 姉がいるので九九とは何かは知っていたが、一度も学ぶことなしにここに放り込まれることになった。

 しかしどう言うわけかその後何とか自分でものにした。

 おそらく当時からおんによる耳からの習得が出来ると言う能力があったからだと思う。これが後に音楽への興味へ至るかも知れない。

 これは新しいクラスメートが口に出す九九が毎日耳に入って来たからだろう。姉の家での学習も耳に入って来たかも知れない。


 そして、この地方だけでも統一感の欠ける学習進行のあり方が俺に少し影を落とすことになった。

 4X9=36をシクサンジュウロクと覚えたが、9X4=36は出てこない。9X4=36でもシクサンジュウロクと言うのが一生涯身についたのだ。

 4の9倍と9の4倍が同じ数になると言う不思議に当時から気付いて驚いていた。


 このようにして、暗算にしろほかの算数への応用にしろ大した影響はなかった。


 後に俺以上に酷い小学校のカリキュラムの影響を受ける者が多くいた。

 これは後々のことなのだが、高校へ進学した時落ちこぼれ(学級で成績が悪く見離された生徒)の多いレベルの低いクラスへと入ったが、驚くほど早生まれの人が多かったことである。


 義務教育期間は早生まれの生徒の人と会うことは稀だった。

 昔は親がその対策をしていて、1〜3月生まれの子供の出生届けを4月に遅らせ、出生日も4月にしていた。

 しかしもう当時はそんなことをしても役所で受理される出生日は生まれた日になるから学年を1年ずらすことは出来なかった。

 あとは避妊と言う手段か…


 3月生まれと4月生まれではほぼ1年の差がある。6歳から7歳の年齢で1年の差は大きい。

 脳の成長と言うことでは格段に差がある。

 この議論は昔あったようだが今は聞かなくなった。


 この脳の育成の差を教師が埋めると考えただけで教師への負担が重くなる。当時はどうなのだろう。


 生まれる月によって人生が左右されるのはどう考えるべきなのだろう。


 俺があの陰湿教師にいびられたのはそんな理由もあるだろう。俺も早生まれだ。

 出来の良い遅生まれの生徒を基準にして考え、その生徒と違うからゲンコツを張る。あの永久歯もそれを表しているだろう。

 1年近く歳上なのだから当然歯のはえ方違うし計算の能力も高いと言うわけだ。


 それで人間性を完全に捨て去ると言うのはどう言うわけなのだろう。


 能力や成績を一番上を基準にして物事を考えるのは競争社会では仕方ないことだが、子供にまでこれを行うとどう影響するのか。


 そのひずみは後にどこかで表れるのだろう。

 まぁ完全な人がいないように完全な社会などあり得ないのだから、人は不完全さゆえに不完全な中で生きるしかないのだろう。



 そんなあわただしい引っ越しの後の生活で子供の俺もどこか落ち着きを失っていた。


 入学して1〜2年授業に持って行く教科書等を厳しくチェックして学業に備えてきた。


 ある金曜日、前日に次の日を土曜日と勘違いし、土曜日半日分の軽いランドセルを背負って登校した。

 多分教師に教科書の不持参を正直に告げたと思う。別に怒られた記憶はないが休み時間にクラスメートの少数の男の子に冷やかされ怒り狂って追いかけた。廊下を走って体育館にまで追っていたが追いつかなかった。


 前の学校では教師や永久歯たちの嫌味でストレスが溜まっていたが、ここでは非常に腹の立つことばかりに悩まされるようになる。

 しかし後にただ腹の立つと言うことならまだマシな事柄へと至るのであるが。


 それから何故か転校の2学年の終わる直前の早春、このクラスの記念撮影をしていて残っている。

 うしろに教師数名が写っているが、これが後に大きな問題となる破壊的な面々となるのだった。


 クラスメートは当時まだあまりそんなに親しい人はいなかったが、このクラスの中には小学校高学年まで縁のある者や成人するまでの仲になる者までいるのである。


 わずか8歳の年齢で何人もその人相を覚えていることは大したものだが、これからの濃厚なエピソードがその記憶を後押ししたのである。 


 俺をクラスに紹介した担任の教師はその時あまり印象にない。

 ただ、子供心にどうなのだろうと言うことがあった。


 このクラスにいたのはわずか2ヶ月かそこらだろう。


 クラスには札付きの悪がいた。

 彼は特に身体が大きくもなく、力もそんなでなかったと思うが常々粗暴に振る舞っていて問題ばかりをしていたようだ。


 彼が登校すると教師が彼を教室の前に引き出して、小突く、罵る、殴るなどを生徒の面前で行うのだ。

 どうも彼が相当な悪なんだと認識したが、大の大人がそれをするのには面喰らった。


 多分この出来事以外の日は彼は不登校だったと思う。

 学校外でも登校しても粗暴なことをしたらしく、生徒の中に体力のある1人を彼に対する自警に任じていた。

 なるほど、この自警を任じられた男は身体も大きくかけっこも速かった。

 彼の振る舞いも超人的に見えた。


 登校してきて学校内でこの2人の対決を見た記憶はないが、その粗暴君は俺の家近くまで来て赤ん坊の俺の弟に石をぶつけたことがある。

 弟は普通に泣いていたが俺は粗暴君を押さえつけるのにとどめた。

 当時の俺は取っ組み合いの喧嘩をしたことがなかった。そして彼は俺を気弱なことを罵ったが、何て言ったかは忘れた。


 それにしても彼の家柄はどんなだろう。彼1人幼い頃から外れた生き方をするのは何故だろう。

 彼のその後については殆ど覚えていないし、消息すらわかっていない。


 あそこまで浮いていたら行政か何かが介入したのだろうか。

 今考えても粗暴だったが異常ではなかった。言葉遣いも普通だったし、狂ってもいなかった。

 ただ不潔だった。不潔と言うことは家庭が悪かったとも言えるだろうが、わからない。


 今思うに彼と同レベルの対処をしたその担任教師と言うのは後に痛いほど思い知らされることになる。

 そしてこの担任教師に良い思いを抱いている生徒もそんなにいないのだ。

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