第12話 また引っ越し
そんな故郷を離れて何年もしないが、幼い心にはそんなことは関係なかった。
この町が自分の町だと思っていたし、ここでずっと暮らすものだと思い込んでいた。
冬にそり滑りをして夏にバッタと戯れる。
しかし学級生活は窮屈で仕方がなかった。
わずか7歳くらいの身でストレスで疲れ果てていたのだ。
そんな中夏休みの時だろうか、家族でかなり離れた観光地へ旅行することになった。
おそらくは列車で移動したのだろうが、親に連れられた帰省の記憶と重なってよく覚えていない。
子供だからかなりはしゃいだのだろう。楽しかった直接の思い出よりも、写真で見て追憶するかたちでそれを記憶している。
旅行先は湖畔にある温泉宿でそこに泊まった。
あの学級生活を忘れるには適した経験だ。
この旅行から家に帰ってきて何ヶ月もしない頃、その観光地に近い町に行くと言う話になった。
その町は海沿いで水族館もあるので喜んだが、行くと言うのは旅行なのか何なのか理解していなかった。
これが引っ越しで行くとわかった時はそれで良いと言う気になっていた。
何度も言うようだが、学級生活のストレスがマックスでそこから抜け出すには何でも受け入れられると言うことだからだ。
ベッドから落ちたり、ゲロを吐いたり身体にも異常をきたしてもいた。
あの超陰湿なハラスメント教師と永久歯の嫌味クラスメートのその仲間たち。
別に好きな女の子も憧れの子も誰もいなかった。
俺をこの地獄から救ってくれるのは父の転勤命令だと思った。
しかし、それは新たなる地獄の幕開けを示しているのに過ぎなかった。
今度は農耕地帯から海に面する不逞のやからが闊歩する氷と陰湿な気候の下での環境に変わった。
引っ越し日が決まり親友と別れを惜しみ、2人で雪の中でそり滑りをした。(この親友は隣のアンチ巨人の男であるかクラスメートの誰かは忘れた)
そり滑りをする程雪が積もったから真冬だと思うが、マイナス40℃にまで下がる地だ。年の暮だったかも知れない。
どちらにしろ小学2年の冬の時期俺達家族は縁もゆかりもない地に引っ越すことになった。
この時も移動は列車で、家具や荷物は貨物列車を利用したが、何と我々兄弟が生まれる前から家にいる猫もこれで送られて来た。
あの家族旅行の時、この町の駅で降りたかどうかわからないが、おそらくは乗り換えはしているはずだ。なぜならどちらの町もそれほど大きくなく直行便などないからだ。
しかし旅行の時は駅の外へは行っていないだろう。
列車を降りて駅の改札を抜けたあと階段が木造で古くそれも足場が老朽化で傾いているのが印象的だった。
夜だったかどうかあまり覚えていないが、外に出ても暗く、今までの町と違った重々しい雰囲気だった。
大人の人相が分かるほどでないただの子供だったから、町全体の印象としてはそんなところだが、今までとは違っていることに気付いていた。
引っ越しの前の日まで外でそり滑りをすると言うことは白い雪に覆われていたと言うことだ。
引っ越しの後の日に気付いたことだが、この町は白い雪があまりないのだ。
それは積もりつもった雪が日中のプラスの気温で融けるためだ。そしてそれが夜朝の冷え込みで凍る。
地面が灰色になり暗い印象になるのはこのためだが、空も連日明るくはならなかった。
気候にしてもその暗さを彩っていた。
さて、引っ越した当日のことはあまり覚えていないが、家は平屋で一軒屋、古い家で広くもないのに家自体は大きかった。
家は梱包されたままの家具や荷物で雑然としており、貨物列車による移動ですっかり参っていた愛猫は錯乱状態で暴れまわっていた。
子供である俺達はそんな環境の中でもふざけたりして楽しんでいた。
真冬の時期にこの雑然とした中でどうやって眠ったのだろう。
しかしホテルや旅館をとった記憶はないので一家はそこで眠ったのだ。
そしてどこに何の店があるかなど現地の事情を把握していないのに飲み食いもしたのだろう。
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