第3話 夜尿症
引っ越して来た家の裏は平地だが、まだ宅地造成の初期の段階の状態だ。
家も田んぼも荒れ地や空き地もあった。
家からわずかな距離に国道が走っていて、国道沿いは店や家屋が軒を連ねていた。
この国道を家から出て右へ向かうと幼稚園と学校があった。両者は隣接していた。
家から歩くこと幼稚園へも小学校へもこの国道を渡る必要があった。歩道橋も押しボタン信号もなかったと思うが、子供が渡るのに苦労した覚えがない。
田舎だったためか、この先大した町がなかったからか理由はよくわからない。
怠惰な自治体や役所などの管轄のあるところでは未だにそんなところもあるのだろう。
この道を渡らず、学校からは反対側には水場があり湧き水が出ており、その下に沼状の水溜りがあった。
この湧き水にザリガニがいたとか、水溜りに巨大魚や恐竜がいたとか言う仲間もいた。
実際はザリガニすらいなかった。
この湧き水のあるところから登り坂の細い歩道があり、よく人が通ったが、同級生と遊んでいると若い女性がスカート姿で歩いて来た。
この道は急勾配なため、同級生が坂の上に登った女性のスカートを覗き込むジェスチャーをした。
「見えそうで、見えないな」
小学校1年生がずいぶんませたことを言うものだ。そんな性への理解がすでにあったのだ。
その若い女性は子供から見てその対象となるのだからかなり若かっただろう。
その年齢の女性から見ても小学校低学年の2人の純真さに笑みを浮かべていた気がしたが、内実はそんなに純真ではなかった。
ただそれが見えたとしても別に何をするわけでもないが。
小学1年と書いたが、小学校にも上がっていなかったかも知れない。
と言うのは、幼稚園の時保母さんのスカートの中を覗き込んだことがあったからだ。
他の園児にもすでにそれをした男児がいたので、その話をした。
保母さんと言っても母と同じで、垢抜けないただのおばさんと言う対象としてしか感じていなかった。
今思えば彼女たちも若かっただろうが。
坂の細い歩道を歩いたあの女性は垢抜けて美人だったのだろう。しかし俺は遠慮した。
性に
国道は通学路の途中から登り坂になり、坂を少し登ったところで下に鉄道が通っていた。道の土台にトンネルを掘りそこに鉄道を通していた。
自分の家から鉄道の少し手前に川とも用水路ともつかない水場があった。
他には田もあり、あの湧き水からの流れでる川もあった。
湧き水から田と用水路への流れの繋がりの状態は把握していなかった。
おそらくは繋がっていただろうが子供にとってはそんなことに関心はなかった。
その水の流れや田んぼにいる生物に強い興味を抱くようになり、ヤゴ、ミズカマキリ、ゲンゴロウ、タニシなどを捕らえたり観察したりした。
ヒルもいたが大嫌いだった。
別に血を吸われたわけではないが毛嫌いしていた。
幼稚園は寺が経営していたが、その寺も隣接していて寺の敷地内に林があり、巨大なカタツムリがいて驚愕した。
この幼稚園内には経営者である僧侶が出入りしていたが、それらしく寡黙な人で子供達と言葉をかわすような雰囲気ではまるでなかった。
園内には仏像があって園児が見える位置にある小さな、とても奇妙なものだった。
多分40cmもなかったと思うが、仏像の姿が日によって違うのだ。
首の無い日があったり、首のある日もある。
色も日によって違う気がした。
しかし像を入れ替えている様子もなかった。今思い出しても謎だ。
幼稚園時代はスナップ写真や記念撮影の中に遠足と思しきものがあるが、あまり覚えていない。
そう言う行事があるから従っただけだが、家でも園でもなかなか口に出来ないオヤツを持って行けるので良い印象がある。
これが後々小学校時代の楽しみになるのであった。
さて両親はまだ30代の若者だ。家族を連れて自分の里に帰ることは良くあった。
子供心に覚えていることはあまりないが、この頃から特急列車に乗って生まれた町に行ったのだ。
時々1970年代のソウルミュージックを聴くとこの特急列車に乗る旅行の雰囲気が感じられる。
列車の中の記憶はないが、断片的に蘇る気がすることがある。
夜の列車内の雰囲気だとか、出発寸前にホームの売店で買う冷凍ミカン、途中の駅での停車中のことなど。
親にとっては実家への帰省だが、我々子供にとってはそうではない。
祖父母の家に何泊かすることは緊張する。この旅行が終わるのが俺たちにとってはありがたいことだった。
ある旅の終わりに戻ってきた町の駅近くの食堂で食べたラーメンが美味かった。その味は未だに覚えている。
それに当時の俺には夜尿癖があり毎日これに悩まされていた。
しかし性犯罪者にもシリアルキラーにもなっていない。知らない人は調べでみるとよい。
これらの犯罪者の既往歴に共通している事項である。
俺の夜尿症の後始末については覚えていないが、時々ノーパンのままズボンを履いて登校した記憶がある。
夜尿症の現実はこうだ。
寝る前に気を使って必ずトイレに行ってから眠っただろう。
しかしどう言うわけか眠っている最中にある程度の便意を感じるようになる。
しかし便意は現実の世界で起こっていることとして夢の世界の中で現れる。
本人は夢の世界でないと思い込んでいるからたちが悪い。
夜のあいだ中トイレを探して夢の世界の中で奔走し始める。
夢の中でのトイレ探しは何時間も続くかのようだが、どうもトイレがあってもなかなかそれを出来ない。
しかし結局目覚めることなしに本物のトイレだと思って排尿する。
これが身体では現実に起こる。
俺の夜尿とはこのようなものだ。
しかしこれがいつから何年続いたかは覚えていない。
登校と書いたが、実際は小学校に上がっていたかどうかもわからない。
こんなことがもっと続くと人生悲惨なことは想像出来る。
身体も大きくなり尿の量も多くなるとなおさらだ。
この恥辱感が人を大きく傷つけるかも知れないと言われているが、犯罪者へと至る詳しい学説は読んだことはない。まだわかっていないかも知れない。
自分の家にいる時は替えの下着もあっただろうし、尿の量も知れたところだ。あとは母が何とかしたらしい。
これを虐待の口実にされているとすると困ったことだ。身体もなにもまるで出来上がっていない幼い身に大人の行動を要求されているのだから。
他に俺は幼稚園時代から親の見聞からするとどうも多動性があったようである。
幼稚園の卒業記念写真を見ると、俺が向かって右側の端に写っている。
その側には保母さんが数名いて、その中の1人が俺を押さえつけて席に着かせて見える。
記念撮影に何の意味があるのかと、皆が整列して待っていても外で遊びまわっていたらしい。
幼い頃から自分が納得しないと行動に移さないし、不従順だったらしい。
そんな生まれもっての功利的性格を持っていたのだろう。
これを暴力的な方法で矯正し、人に従わせようとするのだから困ったものだと思う。
これでその人の持っている才能を潰したり、健康を損ねたりする。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます