ヘッドホンと少女の歌声

百田 万夜子@カクヨムコン10参加中

ヘッドホンと少女の歌声

淡い月明かりで、うっすらと浮かび上がる道。

目の前の状況を理解することはできなかったけれど、悟ったことがひとつ。

「これが、罰って……ことか」そう言って、少しだけ笑う。


ふと、首の辺りに覚えのある感触。そっと触れてみる。

僕の首にはヘッドホンがかかっていた。

首から外した、そのヘッドホンは、確かに僕のものだった。

そこから伸びるコードは、数十センチのところで、この薄暗い闇に溶け込むかのように消えていた。

「コード……どこに繋がってるんだろう?」

不思議に思いながらも、ゆっくりとヘッドホンを耳に着けてみた。


すると…

綺麗なメロディが流れていた。


「歌声?」


女の子の声?

可愛らしい、透き通るようなソプラノの声で、程良いテンポの歌を歌っている。


「綺麗だな」と思わず呟くと……「え?」急に歌声が止まった。そして静寂。


暫くして、聞こえてきたのは先程の少女の声だった。

『あ、ありがとう』

「え、あ、ああ」

混乱する。ヘッドホンを通じて会話ができている? どうなってるんだ?


僕が黙ったままでいると、少女の方からたずねてきた。

『あ、あの……あなたは今、どこに居ますか?』

「え、えっと……どこって言われても、上手く説明できないんだけど……」

『では何か近くにあるもので、特徴的なものを言ってみてください』

少女の声が急に冷静になった。

「じゃあ……一本道。それだけ。暗くてよく分かんないよ」

少女が息を呑むのが、ヘッドホン越しに分かった。

「ど、どうしたの?」

少し間が開いてから、少女は話し出す。

『この国には、一本道はひとつしかないんです。けれど、その道には、この時間帯だけ…夜中だけ、魔物が現れるんです』


魔物がいる国……?

そんなファンタジーみたいな。ちょっと疑ってしまう。

でも、少女の声は真剣だった。少女は続ける。

『でも、一本道を抜ければ……』

「抜ければ?」

そこで、急に静かになった。ヘッドホンの向こう側の気配が消えたというか。しんとしている。


呼びかけても、もう返事はなかった。

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