第46話 ある奥さんからの依頼④
「まずは主人と接触しよう。実際に会って説得するところからだ」
了解だよ、メイルくん。
話をして解決するならそれが一番良いと思うな。
というワケだから、
ジ~ッ
旦那さん。
悪いけど尾行させて貰ってるよ。
後ろから一定の距離間を保ちながら。
こうやってずっと機会を伺ってるよ。
私とメイルくん。
2人で、ジ~ッて。
「中々帰ろうとしないね」
もうお仕事が終わったのに、街中をずっと歩いてる。
「時間を潰してるみたいだ」
「言われてみればそうだよ」
夕暮れさん。
普通、既婚者さんならまっすぐお家に帰るはずだよ。
でも辺りをずっとブラブラしてて、そんな感じは全然ない。
せっかく奥さんが美味しいご飯作って待ってる言うのに。
うらやまさんだよ。
私が代わりに頂いちゃってもいいのかな。
「このままじゃまずい」
「んっ? メイルくん、どうしたのかな?」
なんか焦ってるようだけど。
「そろそろ僕の門限だ。それはまずい」
「あっ、そう言えば」
すっかり忘れてたよ。
もうすぐメイルくんの門限だよ。
その辺メイルくん家は厳しいから。
「このまま何もアクションがないなら、今日は諦めて次にするしかない」
せっかくずっと尾行してたのに。
丸一日損した気分だよ。
「でもまあ、私とロザリアさんじゃ説得できそうにないし、帰るしかないよね」
仕方ないか。
気長さんに行くしかないのかな。
「はあ、人気のないところに行きさえすれば、私とロザリアさんでも何とかできるんだけどな」
路地裏さんとか。
私とロザリアさんの2人で囲んで、杖さんグイグイって。
抵抗するなら多少のポカポカさんも……
「ミチル、いま物騒なこと考えてない? 何でも力で解決するのは良くないよ」
「冗談だよ。でもう〜ん、ぶっちゃけ阻止できれば何でもいいと思うけどな」
夫婦の未来ためだもん。
多少荒っぽいことしても許されるはずだよ
「いや、それだとこっちが補導されかねない。そうなったらバカみたいだ」
「それはたしかに、ギルドのお世話にはなりたくないよ」
営業停止なんてことになったら困るもん。
「あくまでそれは最終手段。説得できるならそれに越したことはない」
「だね、メイルくん」
了解だよ。
「あっ! 路地裏に入ったよ!」
ここに来てまさかのチャンスさん到来だよ
「よし、行こう」
ザッ
いざ、説得開始だよ!
「ごめん、ちょっと時間いいかな」
――メイルくんの言葉で、旦那さんへの説得が始まった。
とりあえず2人で通せんぼさん。
集会に行くのを全力阻止する。
最初は不振がって全然取り合ってくれなかった。
奥さんの言う通りイライラしてる。
でもメイルくんの相手を落ち着かせるような言葉に、少しずつに耳を傾けるように
私も『奥さんが心配してるよ、ギルドに連行するよ、代わりにご飯お邪魔するよ』って、後ろから後方支援。
身に染める者たちがどうとか知らないけど、戻った方が絶対良いよって。
しばらく悩んでたよ。
でも最後は渋々ながら了承してくれた。
やっぱり風さんで向かい風にしたのが決めてかな。
そして、
旦那さんの背中。
夕日さんを背景に小さくなる、寂しい背中。
それを見送るメイルくんと私。
「ふう〜、何とかなったね」
手こずったけど、分かってくれたみたい。
根は良い人そうだったし大丈夫だよね。
「んじゃ、私たちも帰ろっかメイルくん」
目的は果たしたよ。
今回は比較的あっさりだったな。
チョロいよね。
あとは明日、このことを奥さんに伝えて依頼は無事終――
「ん、メイルくん?」
旦那さんの消えた方向をずっと見てる。
「どうしたのかな? 早く帰らないと叱られちゃうよ」
もう結構危ない時間だと思うんだけど、急がなくていいのかな?
メイルくん?
「そうだね、帰ろうか」
……うん?
――そして3日後、メイルくんと私。
今は外にいて、ギルドに向かってる最中。
お店はロザリアさんに任せてるよ。
前の薬物の件を報告しておくことにしたんだ。
依頼自体は終わったんだけど、まだカルト教団のこともあるし一応ね。
「奥さん良かったね。旦那さん、ちゃんと帰って来るようになって」
あれからお仕事が終わったら真っ直ぐ帰宅。
妻思いの良い旦那さんが戻ってきた。
食卓も明るくなって、奥さんも喜んでたな
「面倒なことにならなくて良かったな」
今回はあっさり終わってくれたよ。
ほらっ、日頃から落差と言うか波があると言うか。
うちに来る依頼って多種多様さんだから、楽な時とキツい時の差がすごいんだよ。
一見さん簡単そうって思ったら、とんでもないことに発展したりするし。
ホント油断できないんだ。
みんなが思ってるよりずっと大変なんだよ
「前もそうだけど、毎回こうだったら良いんだけどな」
ネコちゃんに瞬間移動されたり、凶悪な魔物に囲まれたり、悪霊に取り憑かれないで済むもん。
今日みたいな依頼ならいつでもウェルカムさんだよ。
ねっ、メイルくん。
「ミチル、後日談に浸ってるところ悪いけど、安心するのはまだ早い」
「えっ?」
どう言うことかな?
「むしろこれからかもしれない。着いた」
あっ、ギルド。
「入ろう」
「あっ、待ってよ!」
ガチャッ
ギルドに入って受付さん。
どこにしようかな〜。
……あっ! ステューシーさんだ。
お〜い!
フリフリ
「ミチル、静かに」
あっ、気づいてくれたよ。
遠慮気味に手を振り返してくれた。
せっかくだしステューシーさんに受付やってもらおうかな。
「お久しぶりです」
「うん! 久しぶりだよ! 会えて嬉しいな」
そう言えばここで働いてるんだった。
端っこの方にいるから気づきにくかったよ
「どうかな、あれからおじさんとは上手くやれてるかな」
「はい。最近よくお出かけを……いえ、まだ手は繋げてませんしどうなんでしょう」
プロソロおじさんとステューシーさん。
これでも2人はお付き合いしてるんだ。
私たちも全力サポートしたよ。
「これってどうなんでしょうか? 付き合ってるのにまともに手も繋いだことがないなんて……」
相変わらずどっちも奥手さん。
これでよくお付き合いできたよね。
サポートした私が言うのもアレだけど。
でもいいんだよ。
「焦らずゆっくり。2人のペースで仲良くなれば良いと思うな」
「そうですよね。ありがとうございます」
フフッ、我ながら良いアドバイスさん。
「やあ、おはよう。ステューシーさん」
「おはようございます、メイルさん」
「少し話したいことがあるんだけど、いいかな」
「あっ、そうでした。ギルドへようこそ、ご用件はなんでしょうか」
──今回の経緯を、ペラペラさん。
「教団に薬物ですか……はあ、大変な依頼を受けてるんですね」
「まあね。でも僕らじゃ手に負えそうにないから、後はギルドに任せようと思って」
そうだよ、丸投げするよ。ポイって
「なるほど。私では対応が難しいので上の方に伝えてきます。少しお時間を頂いてもよろしいですか?」
「構わないよ」
「はい、では」
ステューシーさん行っちゃった。
「元気そうで良かったね。おじさんとも上手くやれてるみたいで安心したな」
「そうだね。でも今日は仕事で来たんだ。世間話は程々に」
「もう、堅苦しいこと言わないでほしいな」
変なところで真面目さんなんだから。
「僕が言いたいのはメリハリをつけようってことで」
「さて、どうなるかな〜」
ワクワクさん。
――そして、
「その、上にお伝えしたんですが……すみません、今回はお引き取り願いたいそうで……」
「えぇっ⁉︎ なんでかな⁉︎」
バッ!
「す、すみませんすみません!」
そんな、酷いよ!
「どういうことなのかな⁉︎ 職務放棄さんだよそれ!」
「ミチル静かに。そっか、一応理由を聞いていい?」
サボり! インチキ! このオンボロギルド!
「その、噂程度の話を間に受けてるとキリがないらしくて。すみません、ここ最近人手不足でして人を回せる余裕がないんです」
「噂じゃないよ!」
「せ、せめて証拠か何かを提出して頂いて、話はそれからだそうです」
証拠?
「証拠ならちゃんとあるよ! 奥さんからサンプルを貰って……あっ、でも全部私が」
「全部どうされたんです?」
「う、ううん。何でもないよ何でも。気にしないでほしいな」
「はあ、そうですか」
ホッ、危なかったよ。
薬物摂取したことを危うくポロっちゃうところだったよ。
気をつけないと。
「そっか、ありがとうステューシーさん。わざわざ僕らのために聞いてくれて」
「ひえ〜、お役に立てずすみません」
「大丈夫。じゃあ僕らはこれで」
「はいぃ、またのお越しを」
バイバイだよステューシーさん!
バタンッ
ギルドを出たよ!
「もうっ! 何なのかな!」
なんだよあのギルド!
ちょっとあり得ないよ!
「まあ、彼らの言うことは最もだ。証拠がないんじゃ仕方ない」
「でもそれにしたってあの断り方はないと思うな!」
忙しいからって何も門前払いすることなんて。
少しくらい話を聞いてくれてもいいと思うな。
「やっぱり僕らで何とかするしかないみたいだ」
はあ、面倒なことになったよ。
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