第45話 ある奥さんからの依頼③

「それじゃ、そろそろ本題に移ろう」


 メイルくん、やっと機嫌直してくれた。

 私もホッとするよ。

 

 それにしても、結局ロザリアさんは教えてくれなかったな。

 えっと、雰囲気から察するに、私が気を失ってる間メイルくんに何かしてたみたいだけど。


 何なのかな、『大変微笑ましかったです』って。

 意味が分からないよ。

 私が一体何をしたって言うんだよ。


 まあいいや。

 一人で考えてもどうにもならないから、今は依頼さんに集中するよ。


「今回の依頼はある夫人からの依頼だ。ミチルも知ってるよね」


 あの人でいいんだよね。

 ほらっ、私が事務所に入る前にすれ違いで出て行った人。


 う~ん、後ろ姿だけだから何とも。

 

「初見さん、どこにもいる普通の奥さんって感じだったけど。あの人がどうしたのかな?」

「ローズ、あとはお願い」


 クイッ

 

「依頼はご存じの通り奥様からです。奥様曰くここ数日、外出した旦那様が遅くまで帰って来ないとのことです」

「ふ~ん、それって浮気かな?」 


 今回はそういう感じなのかな。

 生々しい依頼だよ。

 

「いえ。出所は掴んでいるそうです。と言うのが、最近ある教団へ頻繁に出入りしていたとか」

 

 宗教にハマってる?

 別にそれ自体は悪いことじゃないと思うけど。

 

「その教団って言うのが、まだ正式な名前はないみたいだけど、”身に染める者たち”、彼らはそう呼んでる」


 身に染める者たち?

 

「ふ~ん、全然聞いたことない団体だよ」

「特に表立って活動してるワケじゃないから知らないのも無理はない。実際僕も全く知らなかったし」

「名前からして怪しい教団です。おそらくカルト系に近いかと」


 カルト教団……

 この街にそんな団体さんが。

 はえ~、物騒な話だよ。

 

「この人たちは何をやってるのかな?」

 

 教団と言えば何かと集会を開いて集まってる印象さん。

 公共の広場を占拠して布教活動したり。

 子どもたちにお菓子を配ったり、街中で変なダンスを踊ったり。

 一見さん楽しそうにして私たちの注目を集めてるよ。

 

「何か崇高な目的を掲げたりするのかな。闇魔術に深い関わりがあるとか」


 色々なイメージがあるな。


「それだけどミチル、キミはもうとっくに体験済みだよ」

「えっ、どう言うことかな?」


 私、教団に参加した覚えは、


「あっ、もしかしてさっきの……」


 あのフルーティで苦甘いジュースさん。

 

「そう。彼らは夜間に集まってアレを飲んでいる。いわゆる飲み会ってヤツだね」

「飲み会? それってただ飲むだけってことかな?」


 ご飯会じゃなくて?

 なにか食べたりしないのかな。


「いや、今のはちょっとした言葉遊びみたいなモノさ。飲むメインの食事会だと思ってくれて構わないよ」

「う〜ん……よく分からないけど、別にそれだけなら問題ないんじゃないかな?」


 夜な夜な集まってみんなでジュースパーティ。

 別に人様に迷惑をかけてるワケじゃないんだし。


「参加料とかあるのかな? アレが飲み放題って言うんなら参加したいな」


 途中からなんかポカポカしてたけど、今考えるとアレもそんなに悪くないかも。

 何だかんだ言って美味しかったし。

 

 また機会があれば飲んで、

 

 ……って、あれ?

 2人ともなんか深刻さん。

 どうしたのかな?


「問題はそれなんだ」


 えっ?

 

「アレはジュースなんて生易しいモノじゃない」 

「話では普段温厚な旦那様がアレを飲んだ途端、人が変わったように暴れ出すとか」


 暴れ……えっ?


「強い依存性もあるらしく、おそらくは麻薬の一種かと」

「ま、麻薬⁉」


 うそっ

 アレそういうのだったの⁉

 たしかになんか頭フワフワしてたけど……

 アレってそういう症状だったのかな⁉


「えっ、私大丈夫なのかな⁉ 思いっきり接種しちゃってるよ!」


 コップ一杯丸々飲んじゃったよ!

 途中で意識も失ってるし!

 ヤバいよヤバいよ! 致死量ヤバいよ!

 

「どうしようメイルくん! 早く病院に行かないと手遅れになっちゃうよ!」

「ミチル、落ち着いて。まだそうと決まったワケじゃない。依存性が強いってだけでそこまで悪いモノじゃない可能性だって」

「そんなの分からないよ!」


 適当なこと言って安心させないでほしいな!


「話によると、旦那様はもう何度も接種されています。ですが気が短くなったこと以外特に変わりないそうです」


 むっ、私は短気じゃないよ。

 

「そもそも麻薬かどうかも分からない。まだ公になってないから僕らだけじゃ判断できない」


 たしかにそうだけど。


「それに危険なモノかどうかは、時代や人の価値観で大きく左右される。薬や食べ物に限らず魔法だって、どんなモノにも多少の悪影響はあるんだ。もしかしたらミチルが大好きな甘いモノだって、規制される時代が来るかもしれないよ」

 

 う~ん、それは嫌だよ。

 

「でもまだちょっとクラクラするんだけど」

 

 難しいことはよく分からないよ。

 でも今の私、身体に異常あると思うな。

 この胸の動悸さんは絶対薬物反応だよ。


「それに関しては個人差があるのかも。ミチルは暴れたりしなかったし」

「そうなんだ。ならどんな感じだったのかな?」


 記憶が飛んでるから気になるよ。

 

「それは……うん」


 なんで黙るんだよ。

 そこ結構重要なところだよ。

 

「コホンッ。とにかく、主人の教団通いをどうにかやめさせてほしい。それが今回の依頼内容だ」


 ふ~ん、なんか変わった依頼さん。


「薬物の方はどうするのかな?」

「そうだね、一応ギルドにも伝えておこう」

「ギルドか、請け合ってくれるかな」


 面倒ごとはスルーされそう。

 悪霊の件も長年放置してたし。

 あの職員さんたちの、事務的な感じの対応が拭えないと言うか。

 忙しいからっていうのもあるんだろうけど

 

 あっ、別にステューシーさんを悪く言ってるワケじゃないよ。

 あの人は今も愛想よく頑張ってるよ。

 受付員さんはみんな感じ良いんだけど、上の対応がよろしくないんだよ。

 変に真面目と言うか、型にこだわる頑固さんと言うか。


「サンプルがあれば信用性が上がるのですが、お生憎誰かさんが飲み干してしまいましたから」

 

 チラッ

 

「うぅ、ごめんだよ」

 

 反省してるよ。

 だからこっち見ないでほしいな、ロザリアさん。

 

「依頼はあくまで主人の説得。教団との関わりは出来る限り避けよう。薬物も同様に」

「そうだね。それが良いと思うな」


 賛成だよ。

 カルト教団なんかに目を付けられたら大変。

 何されるか分かったモノじゃないよ。


 難しいことはギルドさんに丸投げするよ。

 

「よし、じゃあさっそく取り掛かろう」

「うん」


 

 レッツ、依頼スタートだよ。

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