第44話 ある奥さんからの依頼②

 キラキラ~☆


 目の前に広がる大量のお菓子さんたち。

 フフッ、逃げないと全部食べちゃうよ。

 いいのかな。


 キラキラ~☆


 いいよね。

 今さら後悔して逃げ出しても無駄だよ。


 んじゃ、遠慮なく、あ~ん……


 パチッ


「……ん?」


 ここは、事務所。

 

 ……夢だったよ。

 良いところで起こさないでほしいな。


 そっか。

 あれから私、寝てたんだ。

 

 あの後、ソファさんに顔をうずめて泣いて、ふて寝してもダメだってメイルくんに言われて……


 もう枕さんもビショビショで、


 それで、


「うぅ……」

 

 おやつさん、食べられなくなっちゃった。

 自分が悪いから仕方ないんだけど、それにしたって酷いよ。

 私が一体何をしたって言うのかな。

 なんでこんな目に合わなくちゃいけないんだよ。


「はあ、夢の中のおやつさん、戻ってきてほしいな」

 

 こんな状況、いつまで続くんだろう。

 昨日まで思いもしなかったよ。

 こんなことになるんなら普段からちゃんと……

 

 こっちの振舞い次第で短くなったりしないかな。

 

「まあ無理だよね。はあ……」

 

 こういう時メイルくんは厳しいから。

 たぶん何を言っても変わらないよ。


 はあ、仕方ないよ。

 辛いけど現実さんを受け入れるしかないかな。

 はあ、辛いな。


「……ん?」


 テーブルさんの上にガラスコップがある。

 

「なにかな、これ」 

 

 水だよね?

 透明で透き通ってるし。

 

 ユラユラさん。

 手に取ってみた感じ普通の液体かも。


 あっ、でもなんだか良い香りがするよ。

 ちょっとお鼻さんにツンと来るけどフルーティでさわやか。

 柑橘系の香りだね。

 

 これはアレだよ、完全にジュースさんだよ。

 はえ~、こんなのあるんだ。

 透明なジュースなんてモノ珍しいね。


 香りからして美味しそう。

 どんな味がするのかな。

 

 チラッ


 誰もいない。


「一口くらい、大丈夫だよね」


 どんな味なのか気になって仕方ない。


 メイルくんが悪いんだよ。

 おやつを我慢させた状態の私に、こんなモノを残しておくなんて。

 迂闊さんも良いところだよ。

 これは飲んじゃっても仕方がないと思うな

 

 ……いや、違うかも。

 もしかしたらこれは、おやつの代わりかもしれないよ。


 流石にやり過ぎたと思ったメイルくんが、私のために用意してくれたのかも。

 反省してるみたいだし、今回はヘルシーなジュースで見逃してあげよう的な。

 私フルーティなの好きだし、可能性大だよ


 うん、きっとそうだよ。

 ここにあるってことは飲んでいいってことだよね。

 メイルくんも粋なことするよ。


「んじゃ、遠慮なく頂いちゃおうかな!」


 飲むよ!

 

 んっ、なんかすごい味がするよ。

 なんだろう。

 最初すごく苦いと言うか、すごいのがツンと来る。

 明らかに飲み物の味じゃないんだけど、逆にそれが後から来るさわやかさとマッチしてる


 こういうの高級な味わいって言うのかな?

 悪くないよ。

 甘さも後から来て控えめだし、よく分からないけど大人のジュースって感じだよ。


「はえ〜、美味しいかも」


 意外と飲みやすい。


 ……あっ、空になっちゃった。

 あっという間だったな。

 まあコップ一杯だしこんなモノだよね。

 

 ふ~ん、なんだか不思議な味だったな。


「──それでローズ、これから僕たちは……あっ!」


 あっ、メイルくん。


「ミチル、それ……」

「これ? あー、美味しかったよ。最初にちょっと変な味がするけど、それも案外悪くないかなって。これなんて飲み物なのかな?」


 あるならもう一杯頂きたいな。


「綺麗に飲み干されてますね」


 奥からロザリアさん。


 なんだろう。

 心なしか『あらら』って感じに見えるよ。

 やっぱり飲んだらダメなヤツだった? 


「はあ……ミチル、なにか違和感ない?」

「んー、そう言えば身体がポカポカしてるかも」


 なんだかふわふわするな。

 風引いた時みたい。

 でもそういうキツさとかは全然なくて。

 むしろポワポワして気分よく、


 ……って、あれ?


 ボヤ〜


「メイルくん揺れてるけど、どうしたのかな?」

「ミチル!」


 あれ? あれあれ~?


 なにかな?


 視界さんがヘニャヘニャ〜って……

 


  



 

「──うぅ、う~ん……?」


 あれ? 私また寝ちゃってた。

 おはようだよ。

 

「うぅ、頭さん……」


 ズキズキするよ。

 記憶もなんだかおぼつかないし不調だよ。

 一体が何があって、


 ここは、事務所?

 2人がいつもの定位置で読書してる。

 

「メイルくん、おはようだよ」


 あれ、聞こえなかったのかな。

 無視されたよ。


「どうです? 体調の方は」

「う~ん、まだ頭がズキズキするよ」


 おかしいな。

 ロザリアさんにはちゃんと聞こえてるよ。

 

「えっと私、しばらく気を失ってたみたいけど、あの後どうなったのかな?」

 

 あのジュースを飲んでからのことを何も覚えてない。

 気が付いたらソファさんに横になってて。

 良かったら教えてほしいな。


 シーン……

 

 って、また無視だよ。

 また聞こえないフリしてるよ。

 

「もうっ、さっきから何なのかな!」


 感じ悪いよ!


「気に入らないことがあるんならハッキリ言ったらどうなのかな! そうやってガン無視されると人は傷つくんだよ!」


 陰湿さんのそれだよ、それ!

 不機嫌なのか知らないけど、そういうの良くないと思うな。


「うっ、いてて……」


 また頭さんが。


 もうっ、さっきから何なのかな。

 メイルくんもだけどいい加減にしてほしいな。


「はあ……」


 むっ、本を閉じた。


「ミチル、本当に何も覚えてないんだ」

「そう何度も言ってるよ! なのに酷いよ!」

「酷いのはどっちさ。さっき僕にあんなことをしておいて」

「えっ……」


 あんなこと?

 それってどういう、

 

「キミが普段、僕をどう思ってるのかよく分かったよ」


 えっ、ちょっと。

 言ってる意味が。


 あっ、メイルくんがまた本を開いた。

 

 えっとロザリアさん。

 どういうことなのかな?

 

「私も存じ上げません」


 絶対とぼけてるよこの人。

 だってまたメガネさんクイッてしてるもん


「いいさ。今はそれで」

 

 えええっ⁉ 何なんだよ!

 私がメイルくんに何をしたっていうのかな⁉

 全然身に覚えがないよ!

  

「ロザリアさん!」

「……さあ?」

 

 

 もうっ、お願いだよ!

 誰か教えてほしいな!

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