ある奥さんからの依頼

第43話 ある奥さんからの依頼①

 ミホちゃんへ。


 久しぶり、お手紙さん読んだよ。

 

 驚いたよ。

 朝にお手紙が届いたと思ってポストさんを見てみたら、差出人がミホちゃんからだったんだもん。

 もう目がギョッとしたよ。

 寝起きにビックリさせてないでほしいな。


 実はね、私の方でもその内手紙を送ろうかなって思ってたんだ。

 ホントだよ。


 でもね、夜ご飯が美味し過ぎて、食べた後すぐ眠くなっちゃうんだよ。

 そのままぐっすり、スピスピさん。

 ごめんだよ、ミホちゃんなら分かってくれるよね。


 こうやって連絡を取るのは初めてだよね。


 おじさんから聞いたよ。

 今は街を離れて、どこか遠いところにいるんだって。

 通りであれからめっきり会えないワケだよ。

 あのダメリーダーは見なくて清々するけど、ミホちゃんに会えないのは寂しいな。


 私がパーティを抜けてもう二ヶ月が経つね。

 あれからね、ホントに色々あったんだよ。


 パーティを飛び出した後、探偵事務所の助手を受けてみることにしたんだ。

 チラシの端の方にあって、不思議と気になっちゃって。

 

 着いたのは貴族のお屋敷だった。

 そこで色々お話して一発合格。

 超待遇さんゲット。

 晴れて助手になって、メイルくんとロザリアさんに会ったよ。

 

 ロザリアさんは人見知り。

 基本的には無口だけど、たまに妙に早口な時がある落ち着いた女性かな。

 感情をあまり表に出さないだけで普通に優しい人だよ。


 あっ、でもちょっと毒舌さんでイジワルさんだからそこは注意が必要かも。

 

 メイルくんはうちの探偵事務の店主さん。

 本と妖精さんがお友だちの12歳。

 ちょっと生意気なところもあるけど、年相応に可愛いところもあって良い子だよ。

 頭が良いからここぞって時はすごく頼りになるんだ。


 でもたまに私のことを、ペットか何かみたいな目でジ~ッと見てくる時がある。

 寝起き時とか、食べてる時とか。

 私の方が4つもお姉さんなのに。

 失礼だよね。

 

 それで、最初は私1人で依頼を受けることになったんだ。

 助手の試験と称して。

 急だよね、ひどいよね。


 依頼内容は子猫、カトリーヌちゃんを捕まえること。

 カトリーヌちゃんはわがままでいたずらっ子。

 瞬間移動もするしですっごく大変だったけど、何とかマダムさんの元に帰すことができた。

 試験も無事合格、褒めてほしいな。

 

 次は新米冒険者からの依頼。 

 フェチョナルさんって付与魔術師のために魔晶石を探したよ。

 最初話を聞く限りではどう見ても地雷さんで、正直あんまり気が進まなかった。

 

 でもね、その帰る途中、ヘルハンドに襲われたんだ。

 もうものすごい数でとてもじゃないけど太刀打ちできない。

 これはもう絶体絶命さんかなって。

 

 だけど聞いてほしいな。

 なんとフェチョナルさんが全部倒してくれたんだ。


 嘘じゃないよ。

 信じられないと思うけど本当なんだ。

 大事な魔晶石さんを迷わずに砕いて。

 クルクルと軽い身のこなしでカッコよかったな。


 考えを改めてることにしたよ。

 手のひらさんクルッて。

 

 あとはまあ、妖精さんにお願いされて悪霊さんと戦ったり。

 おじさんとステューシーさんの恋愛を手助けしたり。

 

 色々割愛するけど、何だかんだでこっちは上手くやれてるよ。

 だからそんなに心配しないでほしいな。

 

 さてと、あんまり長すぎると怪文書さんになっちゃうからこの辺にしておくよ。

 ミホちゃんも色々忙しいだろうし。

 

 帰ってきた時は教えてほしいな。

 会って色々お話もしたいし、一緒に美味しいモノでも食べようね。

 

 んじゃ、またね。

 

 

 ミチルより。



 




 ──ザッ!


「ヤバいよ! 遅刻だよ!」


 急がないと!


 えっと、ここは街中で、私はいま早歩きで事務所に──

 

 ごめんだよ、今は説明してる余裕ないよ。

 とにかく急がないと!


「マズイよ! もう後がないよ!」


 えっと、今週はこれで2回目だから、あと1回でアウトになっちゃう。

 おやつさん抜きになっちゃうよ!

 もうっ! 厳しすぎるよメイルくん!

 

「お客さん来てないと良いんだけど」

 

 もし来てたら完全にアウトだよ。

 カウントさんに関係なく一発アウトになる。

 しばらくおやつ抜きにされちゃうよ。

 そんなの死活問題さん、絶対堪えらないよ


「お願いだよ、来ないでほしいな」


 来たら終わっちゃうよ。

 

「もうっ、全部ふわふわのベッドさんが悪いんだよ!」

 

 なんであんなに寝心地いいのかな!

 メイルくん家のベッド良すぎだよ!

 毎日良い匂いでふわふわで品質が維持されてる。


 あんなの遅刻するに決まってるよ!

 罠かな! 私のおやつを妨げる罠なのかな!


 ザッ!


 やっと見えてきたよ。

 もうっ、地味に屋敷から遠いんだよ!


 もうすぐだよ。

 早く入って── 


「あっ……」


 人が出てきた。

 事務所を後にする女の人の背中。

 

 まさか……


 チリン、チリン


「ごめんだよ!」


 到着したよ!


「やあミチル。おはよう」

「おはようございます」


 いつもの2人。

 でも配置が違う。

 

 机じゃなくてテーブルにいる。

 ティータイムさんにはまだ早いのに紅茶がある。

 カップさんも一つ多いし完全に……

 

「いま人が出てきたんだけど、まさか」

 

 そんな、嘘だって言ってほしいな。

 

「ミチル、前に僕の言ったことちゃんと覚えてるよね」

「お、覚えてるよ。忘れるワケないよ」


 だから急いで来たんだよ。


「そっか。まあ、最近寒くなってきたからね」

「う、うん……」


 あれ、あんまり怒ってない感じかな?

 もしかしたら今回は見逃して──

 

「じゃあ、しばらくおやつ抜き」


 えぇっ!?


「そんな! 無慈悲だよ! 多めに見てほしいな!」


 嫌だよ! 断固抗議するよ!


「今回だけ! ねっ、お願いだよメイルくん!」


 温情だよ。

 ヘルプミーだよ。

 

「すり寄ってもダメなモノはダメ。キミもちゃんと了承したはずだよね。ルールは守ってもらうよ」

「そんな、こんなに頼んでるのに……」


 もっと広い心を持たないと大きくなれないよ。

 

「まったく、おかげで僕らまでおやつ抜きだ」

「連帯責任。お可哀そうに」


 そ、そんな、

 私の職場での、お昼寝以外の唯一の楽しみが……

   

 そんな、そんな……


「うえええ~ん! 嫌だよ〜っ!!!」


 こんなのってないよ!


「ミチル、迷惑だから抑えて」

「おやつないと死んじゃうよ! えええええん!」



 おやつさんカムバ〜ック!!!

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