第47話 ある奥さんからの依頼⑤

 事務所に戻ってきたよ。

 メイルくんにロザリアさん、そして私。


「う~ん……それで、どうすればいいのかな」


 薬物の件、難癖つけて対応してくれなかった。

 何なのかな。

 あのギルドはケチギルドさんだよ。


「取り合うには証拠が必要って言ってたけど、私がもう全部飲んじゃったし」


 メイルくんの話ではアレが最後で、奥さんはもう持ってないらしい。

 困ったな。

 早くも八方塞がりだよ。

 

「無警戒でしたね、メイル様」

「うん、僕としたことが迂闊だった」

「いや、そこは普通に私が悪いでいいよ」


 飲んだの私だし。

 変に気を使わなくていいんだよ。

 逆にダメージ入るからやめてほしいな。

 

「ギルドもギルドだよ。少しくらい話を聞いてくれてもいいのに」


 忙しいのは分かるけど、あの対応はないと思うな。

 いつか大事になっても知らないよ。


「まあ、いきなり薬物なんて言われて信じる方が無理がある。実物がないんじゃどうしようもないさ」

「はい。さらに証言が子どもからだと尚の事そうです」

「悔しいけどそう。だからミチル、一度落ち着こう。怒ってもどうにもならないよ」

「むぅ、わかったよ」

 

 ステューシーさんに免じて許してあげるよ

 

「はあ……って言うかそもそもだよ。依頼はもう達成してるんだから、これでいいんじゃないかな?」


 わざわざ何かしなくても。

 誰かの依頼ってワケじゃないんだし。

 これ以上続けてもただのボランティアさんだよ。


「カルト教団だって、今のところ誰かの迷惑になるようなことはしてないし」


 ただ怪しいモノを飲んでるってだけで別に。

 ギルドの件は癪だけど問題ないんじゃないかな。

 

「そうだね。たしかにミチルの言う通り、ここから先は依頼とは無関係だ。”身に染める者たち”、深入りするのは良くないかもしれない」


 そうだよ。


「でも、もう知ってしまった手前、見なかったことにはできない。僕としては出来る範囲でいいからやれることをやりたい」

 

 このままじゃ終われないって。

 不完全燃焼さんだね、メイルくん。


「こういう時はそう、多数決を取ろう。どうかな、2人はどう思う?」 

「私は反対です。やはり得体の知れない集団を相手するのは危険かと」


 クイッ


 ロザリアさんは反対か。


「ミチルは?」


 続けるか、やめるか。


「う~ん……私はメイルくんに賛成かな」


 なんとなくだけど。

 

「ミチル様、先ほど言っていることが」

「無視するのも後味悪いかなって。ギルドの件もそうだけど、また同じような依頼が来るかもだし。それなら今何とかした方が良いと思うな」


 まあ、できるならだけど。

 

「意外です。てっきり断るとばかり」

「んっ、そうかな? そんなことないと思うな」


 ロザリアさんは変なこと言うね。

 

「じゃあ二対一で決まり。僕らで何とかする方向で行こう」

「うん、頑張るよ!」

 

 お仕事開始だよ!

 

「はあ、どうぞご勝手に」

「そう言わずに。まあローズは基本的に、人間にはあんまり興味ないからね」

「どういう意味です?」

「さあ? 僕に聞かれても」


 なんかバチバチしてる。 


「それで本題、どうやって薬物を手に入れるかだけど」

「はい!」


 挙手するよ。


「ミチル、どうぞ」

「旦那さんに取ってきてもらうっていうのはどうかな?」


 教団に旦那さんを潜入させて、薬物を入手してもらう。

 これならリスクもほとんどないし、ほぼ確実だよ。

 ふむ、これは中々……天才さんかな?

 

「いや、やめろと言った矢先また行かせるのは良くない。また再発する可能性だってあるからね」

「う~ん確かに。なるべく遠ざけた方がいいよね」


 薬物を見せない方がいいかも。

 禁断症状とかもあるだろうし。


「うん。それにあの夫婦にはもう、この件に関わらせない方がいい」


 それを言われたら……

 ダメか、名案だと思ったのに。


「教団に直接潜入するしかない。集会に忍び込んで、薬物を一つ頂戴する」

「はあ、やっぱりそうなるよね」


 もうガッツリ関わっちゃうよ。

 

「仕方ないさ。でも逆を言えばそれだけでいい。向こうはきっと薬物の影響もあるだろうし、案外すんなり行くかもしれないよ」 

「そうかな? 簡単に言ってくれるけど、そう上手く行くのかな」

 

 向こう側の警備とか不安だよ。

 誰かガードマンを雇ってたりしないかな。

 

「いい? 危なくなったらすぐ撤退、くれぐれも無理はしないこと」

「わかったよ」


 無理は禁物。

 肝さんに銘じておくよ。


「と、ここで一つ問題がある」

「んっ? ここまで来てなにかな?」


 一つどころじゃない気もするけど。


「重大な問題だ。むしろこれが一番厄介まである」


 えっ、そんなに?

 ここまで話しておいて?


「メイルくん、それって」

 

 一体……


「うん」


 ゴクリ。


「僕の門限だ」 


 あっ…… 



 




 ──そして、夜さん。

 行動開始だよ。


 コソッ


「ここがそうでいいのかな?」


 前に奥さんが言ってた、身に染める者たちの集会所。

 人気のない路地裏を出て広いところにある


「らしいです。話では」

 

 大きな廃教会さん。

 上の方には大きな鐘がある。

 周りの建物と比べてかなり立派だよ。

 

 でもそれなりに廃に年季が入ってる。

 至るところが崩れてるし、クモの巣さんもすごい。

 たぶん私が来るずっと前から寂れてた。


 はえ~、暗闇も相まって雰囲気あるよ。

 悪霊が出ないといいんだけど。


「それにしても珍しいよね。メイルくんがいないなんて」


 今いるのは私とロザリアさんの2人。

 メイルくんはこの時間帯外出できないから良い子にお留守番してるよ。


「はい。もうご就寝されてるのではないでしょうか」


 柔らかいベッドでスヤスヤさん。

 

「それは羨ましいな」

「全くです。私たちを出張らせておいて自分だけ」

「まあ、メイルくんはまだ子どもだし、お父さんも心配してるから」


 そこら辺はちゃんと守らないとね。

 ここは大人の私たちが頑張るしかないよ。

 

「変わりに助っ人さんを用意してるって言ってたけど、一体誰なのかな」

 

 メイルくんってマダムさん以外に知り合いがいたっけ?

 そもそもだよ。

 こんな短時間で用意できるモノなのかな。

 潜入自体、今日のお昼過ぎに決まったことだし。

 いきなり過ぎないかな。


「知らない方でしょうか」


 ロザリアさんはこんな感じだし。

 人見知りさんだから不安がってる。

 

 私たちだけじゃ不安だってメイルくんは言ってたけど、別にそんなことないと思うな。

 ほらっ、私ってBランクだからこういうのは冒険者で結構経験ある。

 相手はたぶん一般人だし、盗賊さんに比べたら全然マシだよ。

 

 ロザリアさんもいざって時には頼りになるし、問題ないと思うな。

 

 見つからないように薬物を頂戴する。

 こういうのって人数が少ない方がやりやすそうだし。

 

 そもそも戦えないメイルくんがいてもどうしようも──

 

「──待たせたね」

 

 ザッ

 

 んっ? この声は、


「紹介に預かるよ。僕はこの世に蔓延る悪を暴く光の伝達者、メイルブルー。この度はある人物から依頼を受けてここに参上した次第だ」


 シャキーンッ


「僕が助っ人だ。2人ともよろしく」

 

 

 いやメイルくん、何やってるのかな。

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